ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第9回はのテーマは「失敗のマネジメント」です。
一般的に「失敗」と聞くと、人はネガティブな感情をいだきます。
一方で、成功した人物や企業のエピソードを聞いていると、多くの失敗を乗り越え、その失敗に学び、次の失敗を恐れず挑戦し続けることの重要性を指南しています。
私達は自分の失敗、あるいは他人、そしてチームの失敗にどう向き合い、成功した人物や企業のように成長につなげることが出来るのでしょうか?今回のテーマは「失敗のマネジメント」です。
人は失敗を過度にネガティブなものとして捉える傾向がある
何か行動を起こす際に、人はその行動によって失うものを予測します。それは時間、お金、自信、他者からの信頼、恥や悲しみなどの感情的損失も含まれます。
人は失うものが大きいと感じると、その行動を躊躇してしまいすが、プロスペクト理論では、利益と損失がまったく同じだった場合でも、人間は損失の方を大きく感じてしまうと言われますから、多くの人は失敗を過大評価している傾向にあります。
コーチは対話を通じて失敗の影響や損失を客観的に評価し、クライアントやメンバーに適切に失敗のリスクを認識してもらう必要があります。
実際に超成長企業のアマゾンCEOのベゾスは「100倍の結果が得られるチャンスが10%あるなら必ずそれに賭けるべきだ」と言っている通り、挑戦によって得られるリターンと、失うものの大きさを適切に時に定量的に評価するというのも失敗のマネジメントには重要です。
失敗することは良いことか?
一般的に失敗がもたらす効果はポジティブな効果とネガティブな効果の2つに分類されます。
ポジティブな効果
失敗を成長や学習に必要な資源として考えると、失敗を否定的に捉えるのではなく、必要な過程と捉えるとが出来ます。
デューク大学でリーダーシップや組織管理を教えるSim Sitkin博士らによると、組織がどのように学習するかを長年研究した結果、知的な失敗(intelligent failures)が重要であるという結論に達しました。
知的な失敗とは以下の条件を満たしたものを指します。
・綿密な計画なもとで実行され、どこで計画と違ったのかが理解できる
・失敗の規模が適正で、予想を超えた損失を与えないこと
・迅速に修正され、修復に多くの時間を費やさないこと
・失敗が他の部門やメンバーにも共有されている
冒頭にも書いたとおり、失敗とは学習や成長の機会であり、小さな失敗を多く積み重ねることは、成長にとってローリスクハイリターンの体験と言えます。
ネガティブな効果
特に自分の失敗によって他人に迷惑や損失が発生する失敗は、多くの人の自尊心や肯定感を低下させます。
特に失敗に対するネガティブ感情が高い人ほど、失敗の損失を大きく見積もり、過度に気にする傾向があり、特に失敗を克服した経験がない人は、自尊感情や自己効力感、達成動機が低い傾向にあることが分かっています。
こうした傾向の人は「失敗回避欲求」が高いために、結果的に挑戦できず成長機会を失っていると言えます。
戦略的に失敗を設計する
以上のことから、コーチやリーダーは失敗をポジティブな成長体験に繋がるための行動を取る必要があります。
失敗による損失の適切な評価
何か行動を起こそうと思う時、それはゼロリスクで出来ることはありません。人は走れば躓いて転ぶリスクが増加するし、薬を飲めば副作用を心配しなくてはいけません。大切なことは、起こり得る失敗の「頻度」や「影響度」を事前に把握しておくこと、そして重要な失敗に対しては「回避方法」「低減方法」「分散方法」などを決めておくことです。
失敗回避欲求への対応 – 失敗の正当化(キャリアや報酬へ反映しないことの言及)
人間は『成功達成欲求』と『失敗回避欲求』との両方を持ち、両者の強弱差によって行動に変化がある事が分かっています。「失敗を恐れる感情」を取り去ることは簡単では有りませんが、失敗が悪いことではなく、仮に失敗したとしてもそれが配置や報酬へ影響を与えないことを説明しておくことで、成功達成欲求を相対的に高めることで行動を促すことが出来ます。
プロセスへの焦点化
個人の成長に焦点をあてるコーチングでは、成功か失敗かという結果よりもプロセスを重視します。前述した知的な失敗でも述べたとおり、綿密な計画を立て、その計画を実行することや、リスク回避行動が適切に取れたか?ということに焦点をあてることが戦略的失敗における成長には不可欠です。
失敗を隠さず共有する組織文化の形成
失敗情報は①伝わりにくく ②隠されやすく ③単純化されて伝わりやすく ④意図的に歪曲化されやすく ⑤留まりやすく広がりにくい、という特徴があります。これらを「失敗の呪縛」といいますが、失敗を成長につなげるためには、自由に失敗について語れる雰囲気や、制度として失敗を知らせないことが損になるシステム、失敗した当事者が批判の対象にならないように配慮する風土や文化の形成が重要になります。昨今では「組織の心理的安全性」について意識が高まっていますが、一方でメディアをみると芸能人のスキャンダルに対して当事者・関係者でもない人が辛辣に批判をする姿を見ていると、失敗に寛容な文化の形成がいかに難しいものか分かります。失敗についてどう向き合うべきか?という話し合いをもつことも失敗に寛容な組織を作るためには重要な時間になります。
何もできなかったことが一番の失敗
ホンダを世界的な大企業に育て上げ、アジア人初の米国の自動車殿堂入りを果たした本田宗一郎氏は「挑戦した失敗」を奨励した代表的な経営者です。
『猿が新しい木登り技術を学ぶために、ある試みをして落ちるなら、これは尊い経験として奨励したい』
『人生最大の失敗は行動しないこと。成功の反対語は失敗ではなく、行動しないこと。』
という言葉は一度は耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
実際に、過去の成功や失敗の経験が現在に与える影響を研究したレポートでは、目標の未達成(失敗)が人生にポジティブな影響を与えたと回答した人が7割以上となっており、達成(成功)した人の9割と比べると相対的に低いものの、それでも何かに挑戦して失敗しても7割の人が内面の変化(性格や考え方が良い方へ変わった)や、人との関わり方が向上したという項目で成長への肯定的な影響を示しています。
このことから分かることは、個人の成長という目的において、一番の失敗は『何もしないこと』であり、おおよそ多くの人が失敗したとしても何らかの成長を得られるものであることが分かりますから、失敗しやすい環境を整えることもコーチの重要な役割なのです。
さて、こんなことを書いている私ですが、最近なにか大きな失敗をしましたか?と聞かれると答えられない自分がいます。この記事を書きながら多くの失敗を語れるコーチを目指したいなと改めて思いました。
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