日々の仕事の中で学んだことを備忘録として投稿しています。
日本のゴルフ場の多くは1980年後半から1990年前半に開場したコースが多く、開場から30年以上が経過し、クラブハウス設備やコースのリノベーションが求められるゴルフ場が増えています。
特に成長した「木」はコースの景観美やルーティングでプレイヤーに楽しさを与える一方で、育ちすぎた木は様々な問題を引き起こします。
コースの内の樹木が果たすメリットとデメリット
メリット
・ランドスケープ(景色、借景)の構成
・ホールの境界を作る効果
・打球事故の防止(ウッドフェンス)
・ルーティング(ショートカットの阻止、ドッグレッグのコーナーを創る、スタイミーなホールでの目印、ハザードとしての役割)
・日陰を作り暑さを和らげる
デメリット
・芝の育成を阻害(日照や風通し)
・営業日数への影響(降雪地域では日照による融雪が阻害される)
・管理コストの増加(落葉掃除の人件費、剪定や間伐のコスト、根上りによるカート道の破損、重機作業可能エリアの限定)
・プレーの遅延(球探しや、アンプレアブルなどの処置によるプレー時間への影響)
・ショットバリューやプレイアビリティへの影響(顧客満足度の低下)
ゴルフコース内の樹木に対する考え方
コース内のどこに木を植えるべきか、あるいはどの木をどのくらい切るべきかについては、世界中どのゴルフコースでも賛否両論になりがちであることがわかりました。
その理由の一つは樹木愛好者と言われるゴルフコースの戦略や経営への影響、あるいは農学などの科学的な根拠に関わらず、樹木の存在を守りたい人たちと、コースアーキテクチャー、デザイナー、グリーンキーパーなどの樹木が経営やプレイヤー満足の妨げとなっていると考える人達とのコンフリクト(意見の対立)があります。
樹木愛好者が重視する緑量感や季節感
緑量感とは視覚に広がる緑のボリュームのことで、緑視量とも言われます。ランドスケープでは重要な構成要素となっており、一般的に公園などでは25%で人は緑が少ないと感じ、30-40%で緑の豊かさを感じ、50%を超えると緑が多いと感じるということが分かっています。
またこの緑視量の高まりに応じて、安らぎ感、爽快感などの気分への影響も確認されており、ゴルフ場という非日常空間であることを考えると、たくさんの緑に囲まれた空間を提供することもサービスという考え方と、特に日本のように四季がある場所では、春の桜や、秋の紅葉や楓など季節感をユーザーに提供することを重視する傾向があります。
設計者が重視するコースの完成度
実際に第一世代のゴルフコース設計者「C・B・マクドナルド」「ハリー・コルト」「ドナルド・ロス」「アリスター・マッケンジー」らはコース内の樹木について以下のような思想を持っていたようです。
・樹木はもともと合った場合を除き植えるべきではない。
・樹木はプレーの妨げやストレスになるし、間伐や伐採にコストも掛かる。満足度が下がるものに金をかけるべきではない。
・ターゲットや境界としての役割や、池やバンカーと同様のハザードとして活用されている樹木は残すべき
・フェアウェイと平行に縁取られた直線的な樹木は美しくない
・暑い地域では、午後に日陰を作り暑さを防ぐのには効果的
・朝陽を遮る木は自然物であっても取り除くべき
参考文献
・Tree management
・Trees by Robert Kains Golf course design
・Trees and Their Affect on Golf Course Architecture and Maintenance
プレイヤー目線での樹木のあり方を考える
これまで見てきたように、ゴルフ場の樹木は、メリット・デメリットもそれぞれあり、また見る側の視点をどこに持つかによっても、その意見は大きく変わります。
今回のスタディを通じて気づいたことは、プレーの妨げ、コストの増加、芝の育成を阻害している樹木に関してはやはり積極的に取り除く努力をするべきだと感じました。
それはゴルフ場は「ゴルフをする施設」であるということを第一の定義とした場合、やすらぎ感や季節感を提供するいわゆる公園的要素は副次的な付加価値であり、もともとゴルフ場は緑が多いということや、こうした緑視量の確保には相応のコストが発生することを考えると、ゴルファーはそのためにプレー代の値上がりや、コースコンディションの低下を受け入れる可能性は低いように思います。
もちろん私達ゴルファーの一人ひとりが、こうした景観や借景、そして自然を守る、ということに対してのコスト意識をもっていくことも大切なことだと思いました。