こちらの記事は2021年10月に初稿を書きましたが、その後全米でもゴルフコースの樹木伐採の必要性が高まった一方で、その行き過ぎた伐採に対する否定的な意見も出てきました。
それらの経過と、その後に発表された文献を踏まえて、2026年4月時点での最新の情報をまとめています。
参考文献:
“Tree Removal in Golf Course Design” — The Fried Egg(2025年8月)
“Tree Management” — USGA Sustainability
“Why the tree removal trend in golf-course architecture has gone too far” — Golf Digest(2024年6月) “Developing a Tree Management Plan” — USGA Green Section Record(2021年)
Trees — Robert Kains Golf Course Design“Trees and Their Affect on Golf Course Architecture and Maintenance” — KOPPLIN KUEBLER & WALLACE(2019年)
日本のゴルフ場の多くは1980年後半から1990年前半に開場したコースが多く、開場から30年以上が経過し、クラブハウス設備やコースのリノベーションが求められるゴルフ場が増えています。
特に成長した「木」はコースの景観美やルーティングでプレイヤーに楽しさを与える一方で、育ちすぎた木は様々な問題を引き起こします。
この問題は日本だけのものではありません。
アメリカでは近年、名門コースにおける大規模な樹木伐採が一つのトレンドとなっており、2025年の全米オープン開催地であるオークモントCCでは、約30年にわたる伐採プログラムがプロ選手の間でも大きな話題となりました。コリン・モリカワは「木があった方がティーショットのラインが明確になる」と木を支持する一方、ジョン・ラームは「伐採によってクラブハウスからの眺望が改善される」と肯定的な意見を述べるなど、トッププロの間でも意見が分かれています。

コースの内の樹木が果たすメリットとデメリット
メリット
・ランドスケープ(景観・借景)の構成 — コースの美しさや自然との一体感を演出する
・ホールの境界を作る効果 — 隣接するホールとの視覚的・物理的な区分けを行う
・打球事故の防止(ウッドフェンス) — 隣接ホールへの打ち込みからプレイヤーの安全を守る
・ルーティングへの貢献 — ショートカットの阻止、ドッグレッグのコーナー形成、スタイミーな場面での目印、ハザードとしての役割
・日陰を作り暑さを和らげる — 特に夏場のプレー環境の改善に寄与する
・コース設計における「楽器」としての役割 — 著名な設計家ロバート・トレント・ジョーンズJr.は、樹木を「作曲家にとっての楽器のようなもの」と表現しています。長さ、幅、バンカー、池、風、グリーンのコンター(起伏)に加え、樹木という垂直方向のハザードを組み合わせることで、18ホールそれぞれに異なる「音楽」を生み出すことができるという考え方です
・コミュニティの緑地空間としての価値 — ゴルフ場は周辺コミュニティにとっての緑地公園的な機能も果たしており、非ゴルファーにとっても環境的・社会的な価値がある
デメリット
・芝の育成を阻害 — 日照の遮断、根の競合、風通しの悪化、水分の競合という4つの要因でターフの健全性を損なう(Gil Hanseはこれを樹木管理における最も重要な農学的根拠としている)
・営業日数への影響 — 降雪地域では日照による融雪が阻害される
・管理コストの増加 — 落葉掃除の人件費、剪定や間伐のコスト、根上りによるカート道の破損、重機作業可能エリアの限定
・プレーの遅延 — 球探しやアンプレアブルなどの処置によるプレー時間への影響
・ショットバリューやプレイアビリティへの影響 — 狭いフェアウェイはフェアウェイセンター一択のプレーを強いるため、攻略ルートの多様性が失われ、ミスショットの処理もピッチアウト一択になりがちで、戦略性と顧客満足度が低下する
「樹木伐採」と「樹木管理」は異なる概念

ここで一つ重要な区分を整理しておきたいと思います。「Tree Removal(樹木伐採)」と「Tree Management(樹木管理)」は関連する概念ですが同義語ではありません。
樹木管理とは、ゴルフコースの樹木に対するあらゆる手入れを包括する概念です。
枯れた木や病気の木の除去、枝の剪定、そして新たな植樹も含まれます。オークモントやコングレッショナルCC(ブルー)、シネコックヒルズ、オークランドヒルズCC(サウス)といった名門コースで行われた大規模な伐採はあくまで極端な例であり、多くのコースにおける樹木管理はもっと小規模で段階的なものです。
USGAも、樹木管理には樹種の選定と配置に関する専門的な知識が不可欠であると指摘しており、樹木、コース設計、日照角度についての理解なしに安易な植栽を行うことは、時間と費用の浪費につながると警告しています。
ゴルフコース内の樹木に対する考え方

コース内のどこに木を植えるべきか、あるいはどの木をどのくらい切るべきかについては、世界中どのゴルフコースでも賛否両論になりがちです。
その理由の一つは、樹木の存在そのものに価値を見出す「樹木愛好者」と、コースアーキテクチャー、設計者、グリーンキーパーといったコースの経営やプレイヤー満足度への影響を重視する専門家との間にコンフリクト(意見の対立)があるからです。
Gil Hanseの5つの判断基準
現代のトップ・レストレーション・アーキテクト(復元設計家)であるGil Hanseは、こうした難しい議論を整理するために、樹木の伐採・保全を判断する5つの基準を提唱しています。
歴史(History)
コースが建設された当時、どのような景観だったかを検証する視点です。歴史的な写真資料が鍵となります。20世紀初頭の「ゴールデンエイジ」と呼ばれる時代に設計されたコースは、内陸のコースであってもホール間の樹木は少なく、幅広いフェアウェイ、攻略アングルの多様性、そして広大な眺望が特徴でした。しかし1960年代以降、多くのクラブが「美化」の名のもとに大規模な植樹を行いました。そのため、ゴールデンエイジのコースを元の姿に復元しようとすると、必然的に伐採が必要になります。
安全性(Safety)
飛距離が伸びた現代のゴルフでは、ミスショットがより遠くまで飛んでしまいます。隣接するホールとの間隔が狭いコースでは、安全確保のために樹木を残す判断も必要です。一方で、老朽化した木や病気の木は倒木や落枝のリスクがあり、プレイヤーの安全を脅かすため、除去の対象となります。
美観(Aesthetics)
美しさの感じ方は主観的であり、最も意見が分かれるポイントです。伐採支持者は、複数のホールを見渡せる開放的な眺望や、地形の起伏が際立つ景観を好みます。一方で、木々に囲まれた回廊のような雰囲気や、ホールを「フレーム」する効果を重視するゴルファーも多くいます。
プレイアビリティ(Playability)
木で狭められたホールでは、攻略ルートがフェアウェイのセンター一択になりがちです。ミスは単調なピッチアウトを強いるだけの非創造的なペナルティとなります。フェアウェイに幅を持たせることで、設計者は複数の攻略ラインを作り出し、リカバリーショットの可能性も広がります。ただし、戦略的に意図された位置にある木は、ホールに魅力的な選択肢を生む重要な要素にもなり得ます。
農学(Agronomy)
Hanseが最も重要と位置づける基準です。樹木は4つの方法でターフの健全性を阻害します — 日照の遮断、根の競合、空気循環の阻害、そして水分の奪取です。このため、コースのグリーンキーパーは樹木管理の最も熱心な支持者であることが多いのです。さらに、気候変動とサステナビリティへの関心が高まる時代において、コース内の樹木を適切に管理することは、水使用量の削減や化学的投入物の低減にもつながり得ます。
樹木愛好者が重視する緑量感や季節感
緑量感とは視覚に広がる緑のボリュームのことで、緑視量とも言われます。ランドスケープでは重要な構成要素となっており、一般的に公園などでは25%で人は緑が少ないと感じ、30〜40%で緑の豊かさを感じ、50%を超えると緑が多いと感じるということが分かっています。
またこの緑視量の高まりに応じて、安らぎ感、爽快感などの気分への影響も確認されており、ゴルフ場という非日常空間であることを考えると、たくさんの緑に囲まれた空間を提供することもサービスという考え方があります。特に日本のように四季がある場所では、春の桜や秋の紅葉や楓など季節感をユーザーに提供することを重視する傾向があります。
設計者が重視するコースの完成度
実際に第一世代のゴルフコース設計者「C・B・マクドナルド」「ハリー・コルト」「ドナルド・ロス」「アリスター・マッケンジー」らはコース内の樹木について以下のような思想を持っていたようです。
・樹木はもともと合った場合を除き植えるべきではない。
・樹木はプレーの妨げやストレスになるし、間伐や伐採にコストも掛かる。満足度が下がるものに金をかけるべきではない。
・ターゲットや境界としての役割や、池やバンカーと同様のハザードとして活用されている樹木は残すべき
・フェアウェイと平行に縁取られた直線的な樹木は美しくない
・暑い地域では、午後に日陰を作り暑さを防ぐのには効果的
・朝陽を遮る木は自然物であっても取り除くべき
「一律の答え」はない — ロバート・トレント・ジョーンズJr.の視点
一方で、200以上のコース設計に携わってきたロバート・トレント・ジョーンズJr.は、近年の伐採トレンドに対し「行き過ぎている」と警鐘を鳴らしています。彼の主張の要点は次のとおりです。
・伐採は「全か無か」ではなく、ケースバイケースで判断すべきである。
・その地域に自生する樹種(在来種)かどうかが重要な判断基準となる。
・リンクスコースには元来樹木が存在しないため植えるべきではないが、内陸のコースでは事情が異なる。
・木を伐採した後に何が見えるかを考慮すべきで、美しい山並みが見えるなら良い判断だが、隣接する施設や道路が露出するなら逆効果になり得る。
・ゴルフコースは難しくも易しくもなく、「何度も戻りたくなる美しい音楽」を奏でるべきであり、樹木を含む構成要素を一つでも失うことは、その表現の幅を狭めることになる

プレイヤー目線での樹木のあり方を考える

これまで見てきたように、ゴルフ場の樹木は、メリット・デメリットもそれぞれあり、また見る側の視点をどこに持つかによっても、その意見は大きく変わります。
今回のスタディを通じて改めて感じたのは、樹木管理はコース経営における重要な戦略的意思決定だということです。プレーの妨げとなり、管理コストを増大させ、芝の健全性を阻害している樹木に関しては、やはり積極的に取り除く努力をすべきだと考えます。
それはゴルフ場が「ゴルフをする施設」であることを第一の定義とした場合、やすらぎ感や季節感を提供するいわゆる公園的要素は副次的な付加価値であり、もともとゴルフ場は緑が多いということや、こうした緑視量の確保には相応のコストが発生することを考えると、ゴルファーはそのためにプレー代の値上がりや、コースコンディションの低下を受け入れる可能性は低いように思います。
ただし、Gil Hanseの5つの判断基準やジョーンズJr.の指摘が示すように、「全ての木を切る」か「全ての木を残す」かという二項対立的な議論は生産的ではありません。歴史・安全性・美観・プレイアビリティ・農学という多角的な視点から、一本一本について判断していくアプローチが求められます。
特に日本のゴルフ場では、四季の美しさという独自の価値があり、在来種の樹木が持つ景観上の役割も無視できません。しかしそれでも、戦略的に不要な木、ターフの健全性を損なっている木、プレイヤーの満足度を低下させている木については、科学的・経営的な根拠に基づいて計画的に管理していくべきでしょう。
もちろん私たちゴルファー一人ひとりが、こうした景観や借景、そして自然を守るということに対してのコスト意識を持っていくことも大切なことだと思います。

