月刊ゴルフマネジメント連載#36 年功序列型人事は悪か?年齢における知能の変化から見る配置の最適化

ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。

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第36回はのテーマは『年功序列型人事は悪か?年齢における知能の変化から見る配置の最適化』です。

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日本企業の伝統的な年功序列型人事制度は、社員の年齢や勤続年数に基づいて昇進や給与を決定する制度です。

長年にわたって日本の企業文化の一部となってきたこの制度は根強く残っており、現在でも年齢や勤続年数によって等級や役職が与えられているというゴルフ場も多いのではないでしょうか。

特に最近では、この年功序列型人事制度に代わる能力評価制度の導入の必要性が取り上げられていますが、年功序列人事のメリットとデメリットをよく理解した上で、人事制度改革を実施していくことは、社員の離職ややる気にも影響を与えます。

目次

年功序列型人事制度のメリット

近年では、あまり良く言われていない年功序列ですが、メリットもあります。

安定性:

年功序列制度は、従業員に対して雇用と昇進・昇給の安定性を提供します。

特に優れている点は子供の成長に合わせて昇給が保証されるため、ライフステージごとの人生設計がしやすいというメリットがあります。これにより社員は長期的な視点で仕事に取り組むことができ、企業への忠誠心を高める効果があり、離職率の低下に繋がります。

モチベーション:

定年までの昇進経路が明確になっているため、労働者のモチベーションを長期的に保つことができますから、離職率の低下に繋がります。

組織の知識継承:

長期間同じ組織で働くことで、組織の伝統や文化、スキルが次世代に伝えられ、組織の一貫性と安定性を保つことができます。特に長寿企業では長期で勤め上げた生え抜き社員が多く活躍しており、企業の競争優位性の中でも最も模倣困難と言われるカルチャーを作る礎になっています。

年功序列型人事制度のデメリット

一方で、その変革が様々な場面で多く取り上げられていることからもわかるように、社会環境の変化によってデメリットが多く顕在化しているという実情があります。

パフォーマンスと報酬の非対応:

年功序列制度は、従業員の能力や成果と報酬が必ずしも一致しないという問題を抱えています。結果として、優秀な若手社員が満足な評価や報酬を得られずに離職する可能性が高くなり、またパフォーマンスが低い高齢社員が過剰に報酬を受け取る、あるいは意思決定者となることで、優秀な社員のやる気を著しく低下させるなどの可能性があります。特に近年では、能力評価制度を導入する企業が増えていることから、転職すればそうした状況が改善されるという期待から、近年では特に大きなデメリットになっています。

革新性の抑制:

新しいアイデアや変化を受け入れることが難しくなる可能性があります。長年の経験と知識が重視されるため、新しい視点やアイデアを提案する若手社員の意見が軽視されがちになります。特に最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)について、その有用性を年配の社員が理解ができず(あるいは端末に表示される文字が見えないなどの物理的な理由も含め)、導入の判断や意思決定ができないために、社員の生産性やモチベーションの低下に繋がっていることが問題になっています。

コスト負担:

長期勤続者の給与が必然的に高くなるため、人件費が企業にとって重大な負担となる可能性があります。これは特に、経済状況が厳しくなった時や競争が激化した時に問題となり、解雇規制が厳しい日本では特に不都合となり、年配社員の報酬によって、新入社員や即戦力の人材が採用ができないなどの問題も起こります。

これらの点を考慮すると、年功序列型人事制度は一部の強いブランドやカルチャーを持つ長寿企業においては有効である一方で、そうでない企業にとっては不利に働くケースが多くなります。またダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包含)を重視する学校教育の影響もあり、年功序列型人事制度は若者にとっては多様な才能や視点を抑制されるイメージが強く、企業の採用競争力を損なう可能性があります。

流動性知能と結晶性知能

見過ごしてはならない点は、私たち人間は若い頃は理解、問題解決、学習などのパターン認識が得意な一方で、年齢を重ねるに連れてそれらが低下する一方で、長年にわたる経験や学習から言語能力、理解力、共感力、洞察力などが向上するという特性があるということです。

前者は「流動性知能」と呼ばれ、情報処理や演繹的処理が得意な10代から30代に見られる知能特性です。知能の生涯発達曲線を計る研究では、こうした能力は30代にピークを迎えると言われています。

その反対に後者は結晶型知能と呼ばれ、私たちは40-50代は他社理解の能力が高まり、60歳前後で判断力や応用力がピークになることがわかっています。

この理論に照らし合わせて考えると、意思決定や判断、対立がある組織における合意形成など、いわゆる管理職というポストには年配社員の方が向いていると言えます。

もちろん人間は複雑な生き物ですから、その人個人の性格やスキルなどの人間的魅力に惹きつけられて合意形成や集団行動がスムーズに運ぶケースもありますから、必ずしもそうとは言えませんが、この概念を唱えたロンドン大学で心理学博士だったレイモンド・キャッテルは「人は何歳でもある種のことが上手になりつつあり、ある種のことが苦手になる。どこかの年齢で全ての能力が頂点に達することは決してない。だから様々な年代の人が共に働き、お互いに補うことが必要なのだ。」と述べています。

この概念を知って、皆さんにも思い当たることはないでしょうか?

実際に私も40歳の頃に記憶力やバイタリティの衰えを感じる出来事がありましたし、一方で現在の仕事では様々な方の意見を聞き、結論をまとめるという仕事が得意になっている実感があります。

年功序列=悪ではない

伝統的な年功序列型人事制度は衰退する日本の象徴として、しばしば批判の的になりがちですが、私たち人間というのは、年齢によって得意なことが変わるのは当然のことであり、それを組織全体が理解した上で、企業の理念や目標、産業の特性、従業員のニーズ等を考慮して、最適な人事制度を設計することが重要です。

また近年では年功序列制度の配置と、パフォーマンス(貢献度)に応じた報酬制度を組み合わせた混合型の人事制度を導入する企業も増えてきており、これも一つの有効な選択肢となり得ます。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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