ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第13回はのテーマは『ゴルフ場マネージャーなら知っておきたい「サービスマネジメント」の実践』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

ホテル業界など他のサービス業では、顧客満足度(CS)向上とデジタルトランスフォーメーション(DX)の融合が加速しています。例えば人手不足の解消や顧客体験の向上、収益改善を目的にデジタル技術の導入が急速に進んでおり、今やセルフチェックインシステムの導入によってチェックイン/アウト手続きの効率化が図られるのは当たり前になりました。
スムーズな手続きは長旅で疲れた宿泊客のストレスを減らし、滞在の第一印象・最後の印象を向上させるために非常に重要な要素になっています。
また飲食店も同様にモバイルオーダーやテーブルオーダーは今や当たり前になりました。人の温もりも時に重要ですが、店員を呼んでもなかなか来ないという不満と天秤にかけた時に、より顧客満足に繋がる仕組みはどちらでしょうか?
実際に私もテーブルオーダーが出た当初は「安っぽいな」と感じていましたが、最近では店員を呼ぶ面倒さや、待たされる時間の方に不満を感じることが増えています。
こうした社会の変化は、ゴルフ場経営にもサービスマネジメントとDX活用を組み合わせた新たなアプローチの可能性を示唆しています。前回のサービスマネジメントの基本編に続き、今回もサービスマネジメント理論の観点からCS向上の鍵を整理し、他業界の取り組みを踏まえて、ゴルフ場で実践する方法とKPI(重要業績評価指標)活用による計画的なサービス改善について考えてみましょう。
サービスマネジメント理論が示すCS向上の鍵
サービスマネジメントの理論によれば、顧客満足の本質は「提供されるサービスが顧客の事前期待をどれだけ上回るか」によって決まるとされます。顧客はサービス利用前に必ず何らかの期待値を抱いており、実際の体験がその期待を上回れば満足度は高まり、下回れば満足度は低下します。このため「お客様の事前期待を的確に掴み、それに応えること」がサービスビジネスの最重要課題の一つになります。しかし、サービス提供側が注意すべき点として、顧客の期待は時間とともに膨らんでいくという性質があります。たとえばリピーターのお客様に度重なる特別対応をしていると、最初は喜んでいたその特別扱いが次第に「当たり前」の基準となり、同じサービスを提供しても以前ほど満足してもらえなくなります。その結果、サービス水準を維持しているだけではいつしか期待の方が上回って「以前はよかったのに…」と感じさせてしまい、顧客離れを招くリスクがあります。顧客の期待は際限なく高まり続けるのに対し、サービスレベルにはコスト面など現実的な限界がありますから、サービスマネジメント理論では、闇雲にサービス品質を上げ続けるのではなく「期待値のマネジメント」こそ重要だと説いています。具体的には、過度に期待を膨らませないよう顧客との約束や提供内容を情報伝達によってコントロールしつつ、その上で期待を少し上回る価値を提供していくことが、持続的に顧客満足を維持する鍵となるのです。
ゴルフ場でサービスマネジメントを実践するには
市場環境が変化し競争が激しくなる中で、ゴルフ場も真のサービス業として顧客満足を追求することが生き残りの鍵だと認識は広がっています。
他業種を参考にした、期待値コントロールや、DXの活用によるサービス品質向上も重要ですが、私が感じるゴルフ場でサービスマネジメントを実践するポイントの一つは、「おもてなし」精神を取り入れたスタッフ教育です。スタッフ一人ひとりがホスピタリティと専門性を兼ね備えることが顧客満足度向上の要となります。ゴルフ場でも、顧客接点となるフロントスタッフやキャディ、レストラン従業員に至るまで、全員が「また来てもらう接客」や「ゲストに最高の一日を提供する」意識を共有することが重要です。具体的にはコースや設備に関する知識の研修はもちろん、笑顔・挨拶・気配りなど基本的な接遇スキルの徹底、お客様の要望に臨機応変に応えられる判断力の養成などが挙げられます。
KPIを活用した計画的なサービス改善
こうしたサービスマネジメントを経営に定着させるには、KPIの設定とモニタリングによる計画的なアプローチが不可欠です。顧客満足度は測定しにくい側面もありますが、特にゴルフ場経営者に意識していただきたいのがLTV(顧客生涯価値)の考え方です。LTVとは一人の顧客が生涯を通じてもたらす利益の総額を示す指標で、特にサービス業では成長に欠かせない重要指標の一つと言われています。
新規顧客の獲得競争が激化し費用対効果が厳しくなる中、既存顧客との関係を深めて長期にわたり継続利用してもらうことがますます重要になっており、何度もリピート利用してくれる顧客は、一度きりで離れる顧客より企業にもたらす利益が格段に大きいためです。これは新規顧客は獲得コストがかかっているというだけではなく、1回だけ来場するゲストよりも定期的に来場し続けるゲストの方が利用額も紹介客も増え、長期的な収益源となります。CS向上によって「また来たい」と思ってくれるファンを増やすことはLTVの最大化につながり、経営的意義が非常に大きいのです。
LTV(顧客生涯価値)
LTVは「平均利用単価 × 利用頻度 × 継続期間」などの式で表され、リピート率を高め継続期間を伸ばすほど値が大きくなります。
ゴルフ場でも、年会費を払い続けて来場してくださるアクティブ会員や、季節ごとにコンペを開催してくれる法人顧客、ゲストを頻繁に同伴してくる顧客は長期にわたって大きな売上をもたらす存在です。こうした優良顧客をどれだけ増やせるかが経営の安定性を左右すると言っても過言ではありません。
LTV関連の指標としては、来場頻度(年間平均来場回数)、利用金額、紹介者数、会員の利用率や継続率、などが挙げられます。これらの指標をスタッフ全員で共有することで、現場の従業員一人ひとりが自分事としてCS目標を意識し行動に移せるよう評価制度に取り入れることも重要です。
まとめ
他業種の先行事例に学びながら、サービスマネジメント理論に基づくCS向上策とDX活用をゴルフ場経営に取り入れることは、顧客から「また来たい」と選ばれ続ける施設になるための必須条件と言えます。顧客の期待に応え、それを上回る価値を提供し続けるために、テクノロジーも駆使しつつ現場力を高めていく。さらにデータに裏付けられた計画的な改善を続けることで、顧客生涯価値を最大化し安定した経営基盤を築くことができるでしょう。


