ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第15回はのテーマは『超変化時代のゴルフ場に求められる企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

経営学では企業が直接コントロールできない、自社を取り巻く広範な外部環境要因(マクロ環境)を的確に把握し、その変化に応じて戦略を立て直すことが常に議論されます。とりわけ法律や規制、経済、社会動向、技術革新などのマクロ環境変化は、ゴルフ場にも変化を要求します。 具体的な例を挙げると、高度経済成長下では「豪華なクラブハウス」、「会員の同質性」や「ビジターの排他性」をウリに、高額な会員権を販売することがゴルフ場のビジネスモデルの主流でした。しかしバブル経済が崩壊し会員権の価値が暴落あるいは喪失され、インターネット技術の発達でプランや価格比較が容易となり、さらにゴルファーが高齢化したことでコンペなどの社用利用が減少しました。かつての競争資源であった豪華なクラブハウスは修繕費と光熱費が嵩むだけのコスト要因となり、会員のプレー権を保証する会員権はビジター集客の足枷となっています。 このように、ゴルフ場に限らず、どんなビジネスにおいても、法律や規制、経済動向、社会動向、技術革新など自らコントロールできない変化は否応なしに企業へ戦略の変更を突きつけます。一方で企業や私たち個人においても、長年染みついた行動や考え方を変えるのにはストレスや覚悟が伴います。変化できる組織になるためにはどうしたら良いのでしょうか?
企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)とは
企業が競争優位を築く源泉については、長らく「資源ベース理論(Resource-Based View)」が中心的に議論されてきました。これは、他社が容易に模倣できない経営資源を保有することで、持続的な競争優位が生まれるという考え方です。しかし、規制、技術、市場構造が急速に変化する環境下では、「優れた資源を持っていること」自体が、必ずしも競争優位を保証しないことが明らかになってきました。
実際に入会困難な名門と言われている会員制ゴルフ場でさえも、会員の高齢化問題が深刻化しており、若年層の入会者が減少し、結果年会費や名変料収入が減少するなどの課題が顕在化してきています。こうした問題意識から提唱されたのが、アメリカの経営学者デイビッド・ティースらによるダイナミック・ケイパビリティ理論です。企業の競争力を「特定の資源」ではなく、環境変化に応じてビジネスモデルを再構築し続ける能力として定義します。ゴルフ場経営に置き換えれば、クラブハウス、コース、会員制度、運営ノウハウといった既存資産を「守りぬくこと」ではなく、時代の変化に合わせて「変革」し「再構築」する組織変化能力こそが真の競争力の源泉になる、という考え方です。
企業変容の3段階プロセス(感知、捕捉、変容)
ダイナミック・ケイパビリティは抽象的な概念ではなく、実務に落とし込める3つのプロセスとして整理されています。
第一に「感知(Sensing)」です。これは、技術動向、顧客ニーズ、制度変更、競合の動きといった外部環境の変化を、いち早く察知する能力を指します。ゴルフ場においては、ゴルファーの年齢構成、来場頻度、予約行動、プレースタイルの変化などを、感覚ではなくデータとして把握することが該当します。また現在のゴルフ場環境のように特定の大型プレイヤーがいる場合は他社動向も重要な情報になります。
第二に「捕捉(Seizing)」です。感知した変化を踏まえ、どの機会に投資し、どの事業や施策に資源を配分するのかを意思決定する段階です。例えば、新たな料金体系の導入、会員制度の再設計、運営オペレーションのDX化などは、この捕捉のプロセスに含まれます。
第三に「変容(Transforming)」です。これは、既存の組織構造、業務プロセス、評価制度を実際に作り替える段階です。変化を認識し、戦略を決めても、組織が旧来のやり方のままであれば成果は生まれません。ゴルフ場においては、人員配置、権限委譲、業務分掌の見直しなどが典型例です。
重要なのは、これら3つが一過性の取り組みではなく、継続的に回り続けるプロセスである点です。
なぜ日本企業は自己変革が苦手なのか
日本企業の自己変革の難しさについては多くの実証研究が存在しますが、代表的な指摘の一つが、「過去の成功体験への依存」と「失敗への不寛容」です。高度経済成長期やバブル期に確立されたビジネスモデルが長期間機能した結果、その前提条件が変化しても、意思決定の基準が更新されにくい構造が生まれました。また日本人は世界的に見ても失敗に対する許容度が低く、挑戦的な投資や行動が避けられやすい傾向があることも、複数の研究で指摘されています。変化を起こすためには、挑戦と試行錯誤が前提となるため、この日本人の文化的特性と、組織変化の相性が悪いというのが実情です。
また以前(※)に書いた通り、特にゴルフ場のような村社会では、利益や合理性よりも「融和」が優先されます。ゴルフ場経営の現場においても、「社員や会員から反対される」「他のゴルフ場から白い目で見られる」という理由で、制度や運営の見直しが先送りされるケースは少なくありません。しかし外部環境が変わった瞬間、何もしない現状維持こそが最大のリスクとなることは自明の理です。
※月刊ゴルフマネジメント連載#7 組織はなぜ誤った判断をしてしまうのか?名著『失敗の本質』から考える日本の組織が陥る失敗の傾向とは?
変化できる組織になるために
変化できる組織になるために重要なのは、特別な施策ではなく、日常の意思決定の質を変えることだと言われています。まず、外部環境に関する情報を定期的に収集・共有する仕組みを整え、感覚や経験だけに頼らず、データに基づく議論を行うことで客観的な感知能力を高めます。
次に、意思決定と実行の距離を縮めることです。現場に一定の裁量を与え、小さな実験や検証を許容することで、捕捉から変容へのスピードが向上します。勇気を持ってまずは小さな一歩を出すという習慣が組織を変えます。
そして最後に、変化を奨励・評価する仕組みを持つことです。来場人数や売上や利益だけでなく、顧客満足度の変化、稼働率、業務効率性といった指標を評価制度に組み込むことで、組織の変革意識を高め成果を可視化することができます。
ダイナミック・ケイパビリティと聞くと流行の経営用語のように感じますが、いつの時代も変わり続けることは経営の基本姿勢です。超変化時代において、ゴルフ場が社会に必要とされ続けるためにも変革力は不可欠と言えます。


