ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第5回はのテーマは『なぜゴルフ場の仕組化はうまくいかないのか?』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

ゴルフ場経営で最も関心があるのは「集客」ではないでしょうか?
しかし一口に集客といっても、ターゲットの選定、サービス設計、価格設定、販促手法など、その考え方や手法は多岐にわたります。 集客を「単なる値引き」や「広告の強化」だと誤解したままでは、戦略的な成果は得られません。 今回は、ゴルフ場経営者が理解しておくべきマーケティングの基本フレームワークを解説し、自社に適した戦略の構築方法を考えていきます。
ターゲティング(顧客は誰か?)
マーケティングの出発点は「誰に売るか」を明確にすることです。「すべてのゴルファー」を対象にするのではなく、自社の立地やコースのデザインや芝の品質、地域の特性、周辺の競合状況を踏まえて、「属性」と「ニーズ」の両軸から明確なターゲットを定義する必要があります。
例えば、平日はシニア層をターゲットにして、週末はゴルフを楽しむ30〜40代のビジネスパーソンをターゲットにするなど、曜日や季節などで変えることもターゲティングの戦略の一環になりますが、ターゲットが明確にならないと、マーケティングで最も重要な訴求ポイントが不明瞭になるため効果的な集客活動ができなくなってしまいます。
マーケティングミックス(実行戦略)
代表的な4Pのフレームワークに対して、7Pはサービス業に特化した分析モデルであり、特に「体験価値」が重視されるゴルフ場ビジネスに適しています。
① Product(製品・サービス)
「製品」とは、ゴルフコースそのものだけではありません。施設の雰囲気、接客、イベント、会員制度など、顧客が体験するすべてが対象になります。コース設計の魅力(名匠による設計、戦略性のあるレイアウト)、練習設備やクラブハウスの清潔感や快適性、定期開催イベントやコンペ企画などのサービスも製品です。
またこの他には「会員権」も自社が提供する商品であり、季節、曜日、天気によって需要の変動が激しいゴルフ場ビジネスにおいては、会員から徴収する年会費は長期的かつ安定的な固定収入源になりますから重要で、近年は新規会員の獲得は難しくなっているため、柔軟な制度設計やメンバーベネフィットの充実も求められています。
もちろん「食事」や「ショップ」で提供される商品もゴルフ場のプロダクトの一部であり、例えば米国のゴルフ場では、総売上のうちプレー代以外の売上比率が40%を超えるゴルフ場もあり(NGF, 2023レポートより)、国外ではプレー以外の体験価値向上が重要視されています。
② Price(価格)
価格はただの「金額」ではなく、価値とのバランスを表します。平日・休日の需要に対応した価格差、早朝・薄暮などの時間帯割引、年齢別や属性別(シニア・学生)割引の導入、会員種別ごとの料金設計(フル会員・平日会員・法人会員)、ダイナミックプライシング(需要に応じた価格変動)も検討されます。
③ Place(流通・アクセス)
ゴルフ場は目的地型施設であり、アクセスの利便性と来場導線の設計が集客を左右します。最寄り都市からの送迎サービスの有無、オンライン予約の利便性(ポータルサイト、自社HP)、周辺ホテルとの連携、会員専用ダイヤルの設置なども効果的です。
④ Promotion(プロモーション)
販促活動は旧来の単発の広告より、近年では顧客との関係性構築(CRM) に重点を置いた施策が注目されています。特にSNS・YouTube・LINEを活用した情報発信や、メールマガジンや会員向けDMの活用、コンペ主催者へのインセンティブ施策、インフルエンサー・口コミマーケティングなどが代表的です。
⑤ People(人)
スタッフの身だしなみや態度・スキル・対応は、施設の印象に直結します。サービス業としての意識と育成が不可欠で、ホスピタリティマインドの浸透、ゴルフの知識・マナーに関する教育制度、顧客の意見を吸い上げる仕組み(制度や社内コミュニケーションのツール 例インカムや社内SNSの活用)など、「また来たい」と思わせる個別対応力の育成が求められています。
⑥ Process(サービス提供の仕組み)
ゴルフ場やホテルなどのサービス産業では顧客体験をストレスなく、スムーズに提供できるプロセス設計が重要視されています。
予約のスムーズさ、アクセス、受付からスタートまでの体験、プレー体験、プレー後体験、雨天時やクレーム対応の明確なルール設計などがプロセス設計として挙げられます。
⑦ Physical Evidence(物理的証拠)
サービスは無形のため、顧客は「目に見えるもの」でそのゴルフ場の価値を判断します。コースやハウスはもちろん、館内掲示物や印刷物、スタッフの制服やユニフォーム、Webサイトなどが判断のエビデンスとなります。
7Pフレームワークで自社のマーケティングを体系的・網羅的に見直すことで、集客戦略に抜け漏れがないかを確認でき、より一貫性あるマーケティング施策の実行が可能になります。
自社のマーケティング戦略に沿った人材育成や人事評価制度の整合
これらの戦略の実行には「人」が不可欠です。 どれだけ優れたマーケティング戦略を描いても、それを実行する現場スタッフの行動や判断が伴わなければ意味がありません。マーケティングに関する基本的な研修、集客数や客単価のKPI設計と指標と評価制度の連動、イベント運営やターゲット別のアプローチ経験を積むジョブローテーション、などを通じて「戦略と組織の整合性」を高める必要があります。
まとめ
ゴルフ場の集客は、一過性の施策ではなく中長期的な「戦略」として丁寧に設計されるべきです。 そのためには、ターゲットの明確化、収益構造の理解、マーケティングミックス(7P)の活用、そして組織との整合性が求められます。
これからのゴルフ場経営は、「施設を管理する」だけではなく、「価値を伝えて顧客とつながる」時代です。その第一歩をマーケティング戦略の再設計から踏み出してみましょう。