ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第12回はのテーマは『ゴルフ場マネージャーなら知っておきたい「サービスマネジメント」の基本』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

一般的に、目に見える「物」を売るのではなく、目に見えない「サービス」を提供して対価を得るビジネスを「サービス業」と言います。ゴルフ場のほか宿泊業、飲食業、医療・福祉、教育、物流、情報通信など幅広い業種が該当します。日本では就労者の約6割、GDPの7割弱をサービス業が占めており、経済全体の大きな柱となっています。そんなサービス業で重要なのは、提供するサービスの品質を管理することです。これは接客だけでなく、サービスのコンセプト設計やオペレーション、マーケティング、組織づくりまで含め、経営学では総称して「サービスマネジメント」と呼ばれます。
サービスマネジメントとは
「サービスマネジメント」とは、自社が提供するサービスを高品質に適切に提供し、顧客が快適に利用できるよう組織全体を管理することです。モノの販売と異なり、サービスは本質的に無形であり、生産と消費が同時進行し、提供者と顧客の相互作用によって品質が変動する特性があります。
例えばゴルフ場の接客サービスは形に残らず、プレー中に同時に提供・消費され、スタッフと利用者のやりとり次第で評価が変わります。このように標準化しづらいサービスの品質をどう管理するかがサービスマネジメントの核心です。
サービスの企画・設計から現場での提供プロセス、人材育成や組織文化に至るまで、すべてを顧客満足につながるよう統合的にマネジメントすることが求められます。実際、「機能面だけでは差別化ができにくい現代において、ビジネスの継続的価値はサービス品質管理で決まる」と指摘されています。サービスの質を高める経営姿勢が競争優位の鍵です。
サービスマネジメントにおける顧客ロイヤリティと従業員ロイヤリティの重要性
サービス業では、顧客のロイヤリティ(企業やブランドへの愛着)と従業員のロイヤリティ(組織への愛着)の双方が業績に直結します。
まず顧客ロイヤリティについては、既存顧客の維持が新規顧客の獲得よりもはるかに効率的だとされています。新規顧客の獲得コストは既存顧客維持の約5倍かかるとも言われ。サービスの質に満足した既存客は再来場や会員継続といったリピート行動に加え、口コミで新規客を紹介するなど事業に大きく貢献します。
ゴルフ場でも、一度来場したお客様に「また来たい」と思ってもらえるかどうかが経営の安定に直結すると言えるでしょう。
一方、従業員ロイヤリティも優れたサービスの土台です。従業員が仕事に誇りとやりがいを持ち、組織に愛着を感じていれば、接客の姿勢やサービス提供の安定性が向上します。米国で提唱されたサービス・プロフィットチェーンによれば、内部のサービス品質を高めて従業員満足が向上すると生産性が上がり、顧客へのサービス品質も向上し、最終的に顧客満足と顧客ロイヤルティの強化、ひいては企業収益に連鎖的に貢献するモデルが示されています。実際、従業員エンゲージメントが高い企業は利益率が低い企業より21%高いとの調査結果もあります。このように従業員が定着し意欲高く働ける職場づくりは、見えない部分で顧客満足や顧客ロイヤリティの向上につながっているのです。
顧客と従業員、双方のロイヤリティを高めるには、従業員を「社内顧客」と捉えて大切に扱う発想も欠かせません。例えば高級ホテルのリッツ・カールトンでは「従業員第一主義」を掲げ、スタッフ一人ひとりに約2000ドルの裁量権を与えて柔軟なおもてなしを実現しています。従業員を信頼し大切にする同社の企業文化が、結果的に顧客に感動をもたらし世界中で愛され続ける理由だとされています。従業員ロイヤリティを高める経営こそが、サービス品質と顧客ロイヤリティを最大限引き出す源泉と言えるでしょう。
サービスオペレーションの構築と組織の整合性
卓越したサービスを提供するには、サービス・オペレーション(提供プロセス)の整備と、それを支える組織全体の整合性が不可欠です。まずサービスオペレーションの構築では、顧客がサービスを利用するプロセスを綿密に設計し、それを形式化(マニュアル化)し、スタッフやバックヤードの動きを最適化する必要があります(サービス提供の流れを図解するサービス・ブループリントの活用も有効です)。
また、全社でサービス運営を一貫して支える体制を築くことも重要です。ゴルフ場ではフロント、現場、マーケティング、施設管理、経営陣など多様な部門が関与しますが、全員が同じサービスビジョンを共有し、矛盾のない判断基準で行動することが求められます。もし戦略と現場のオペレーションにギャップが生じれば、サービス品質のばらつきや顧客の期待との乖離が発生し、顧客満足を損ねかねません。だからこそ経営層と現場が密に連携し、常にサービス品質を軸に意思決定と改善を行うことが求められるのです。
ゴルフ場でのサービスマネジメントの事例
ゴルフ場でもサービス品質向上の重要性に着目し、「『また来たい』と思われるゴルフ場」を実現するために、ミステリーショッパー(覆面調査員)調査を導入し、サービス改善を実施したり、「新規顧客のリピート化」を重視して、来場客がどの場面で何を感じ「また来たい」と思うのかをデータで把握し、改善につなげた事例などもあります。
ここまでみてきた通り、サービスマネジメントがゴルフ場の顧客満足度と収益向上のカギとなることを示しています。単にコース整備の品質を上げたり、料金設定を工夫するだけでなく、サービスの質を高める経営へ舵を切ったゴルフ場は、顧客から「また利用したい」という信頼とロイヤリティを獲得し、安定した経営基盤を築けることができます。ゴルフ場マネージャーにとって、自社のサービスを見直し磨き上げる姿勢こそが、これからの厳しい市場環境を勝ち抜く大きな武器になるでしょう。


