ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第14回はのテーマは『14 ゴルフ場経営者なら必ず覚えておくべき投資の評価方法』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

ゴルフ場の設備投資で多く相談を受けることが、「この投資、儲かりますか?」という質問です。修繕にせよ、設備投資にせよ、新規事業にせよ、使ったお金以上に得られるお金が多くなければ事業は継続できません。しかし、「どれだけ儲かるのか?」を定量的に説明できる経営者は、実務の現場では多くありません。感覚や経験で判断してしまうケースも少なくないのが実情です。今回は、投資判断に必須となる評価方法を網羅的に整理し、ゴルフ場経営者が押さえておくべき基本的な考え方を解説します。
投資は採算性(=収益性)・妥当性・確実性で評価する
投資の可否を判断する際に最も重要なのは、単に「投資したお金が全て回収できるかどうか」だけではありません。投資は本質的に不確実性を伴うため、多面的に評価する必要があります。一般的に投資評価は採算性(=収益性)、妥当性、確実性の3つの視点で構成されます。
筆者によく寄せられる質問で、例えば「スプリンクラー更新」「カート道路舗装」「クラブハウス空調更新」などの設備や構造物の更新にかかる費用がその典型ですが、これらはいずれも収益への貢献度が見えづらい領域で、投資の必要性が判断しにくいというものがあります。こうした判断が難しい投資の意思決定に対して、会社やリーダーとして明確な評価軸を持つことで、管理職や一般社員への説明もシンプルになり、納得感が高まることによってその効果を向上させたり、確実にすることも可能です。
採算性評価の3つの代表的な方法
採算性の評価には様々な手法がありますが、経営の意思決定の現場で特に使用頻度が高いのが以下の3つです。
投資利益率法(ROI: Return on Investment)
ROIは、投資額に対してどれだけ利益が得られるかを比率で示します。
計算式は以下のとおりです:ROI = 年間利益 ÷ 投資額
例えば、1000万円の広告費をかけて、利益が100万円増えた場合は、ROIは10%という計算になります。ROIを評価に使うメリットとして、簡単な計算で直感的に評価できることから、他の投資案件との比較検討をする場合には特に有効です。一方で短期的な投資の評価には向いていますが、設備や構造物など長期間にわたって効果を発揮する投資の場合、時間価値(お金の価値は時間とともに変わる概念)や、リスク(不確実性)を反映できないことからROIは向いていません。
回収期間法(Payback Period)
投資した金額が何年で回収できるのかを見る指標です。例えば、5,000万円の投資で年間1,000万円の利益の増加が見込めるなら、回収期間は5年です。シンプルで説明しやすいため、ゴルフ場の社内決裁で最もよく使われる手法です。しかし、回収期間以降の利益を評価しないという欠点があり、長期効果の大きい設備投資では過小評価につながることがあります。
正味現在価値法(NPV: Net Present Value)
最も経済学的に正しい評価方法とされるのがNPVです。将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り引き、投資額との差分を求めることで、投資の価値を正確に評価できます。
NPV =(将来キャッシュフローの現在価値合計)− 投資額
NPVがプラスであれば投資すべき、ゼロなら中立、マイナスなら投資すべきではない、と判断できます。時間の価値やリスク(不確実性)も考慮しているため、長寿命の設備投資(例:灌漑システム更新、コースやクラブハウスの改修)では特に有効とされる評価方法です。
妥当性は規模、内容、確実性で判断する
「採算性が高い=必ず投資すべき」ではありません。その投資が妥当であるかどうかも重要なポイントです。代表的な妥当性の評価として以下の3つが代表的です。
・規模の妥当性(現在の資産状況に見合った投資であるか)
・内容の妥当性(投資の目的に内容が合致しているか)
・予測の妥当性(将来の目論見が正しいと言えるか)
例えば、金融資産が1億円の会社が1億円以上の投資を行う場合、それがかなり儲かる投資であったとしても、その会社の資産規模に対して投資額が大きすぎるという意見が出てきます。また例えば空調や水道やカート道などの修繕は収益性が低かったとしても、その投資が顧客満足度、安全性や快適性、従業員満足度や離職率など定性面に影響する可能性が高く、妥当と判断されるケースが多いのが実際です。また温暖化や少子化対応のための設備投資ではその予測の精度について議論されるのも当然です。
確実性は外部環境と内部環境によって評価する
確実性とは「その投資効果がどれだけ実現できるのか」を評価する観点です。
外部環境としては、例えば就労規制やエネルギー政策、人口動態など社会環境、競合環境の変化が投資に与える影響を評価します。一方で内部環境としては主に「組織能力(スタッフの技能や管理職のマネジメント力)」がその判断に挙げられるケースが多いです。いかに優れた設備を導入しても、運用できる人や組織能力がなければ投資効果は実現しません。特に、テクノロジー導入(例:自動芝刈りロボット、DXシステム)は内部環境の影響を強く受ける領域で変化適応能力が低い組織では投資効率が悪いということも科学的に証明されています。
5.) 自社のビジョンや戦略との整合も含めた総合的な判断の重要性
最後に最も強調したいのは、投資判断は「収益性=儲かるか否か」だけで決めてはいけないという点です。投資は経営戦略そのものであり、長期的なビジョンや戦略と整合している必要があります。例えば、「トーナメントコースとして地域No.1のプレー環境を提供する」という戦略があるゴルフ場なら、コースへの投資の優先順位が高くなりますし、「効率的な運営で安定収益を確保する」ことを掲げるクラブなら、DXや省力化投資を優先すべきです。つまり投資の評価とは、採算性、妥当性、確実性、戦略整合性の掛け合わせによって最終判断がなされるべきなのです。
経営者にとって「投資の可否」は単なる予算決裁ではなく、クラブの未来を決める重大な意思決定でありステークホルダーへのメッセージです。今回紹介した基本的な評価フレームを活用し、感覚や慣習ではなく、データとフレームワークに基づく判断を行うことで、ゴルフ場経営の持続的成長を実現できるはずです。


