ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第16回はのテーマは『職位や年齢に依らない「シェアド・リーダーシップ(Shared Leadership)」』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

「あなたはリーダーシップがありますか?」もしこの問いを出されたときに、あなたは何と答えるでしょうか。経営者やマネージャーであれば、リーダーシップについて一度は真剣に考え、あるいは悩んだ経験があるはずです。
近年の経営学では、リーダーシップは地位や肩書を持つ特定の人物だけが発揮するものではなく、チームメンバー全員が相互に発揮するものだと捉える考え方が広がっています。これが「シェアド・リーダーシップ(Shared Leadership)」です。
本稿では、その理論的背景を踏まえながら、ゴルフ場経営におけるリーダーシップの本質を整理します。
なぜ社会や組織にはリーダーとリーダーシップが重要か?
経営学におけるリーダーシップ研究は、20世紀初頭から多くの理論が蓄積されてきました。代表的な研究として、米国オハイオ州立大学の研究では、リーダーシップ行動は主に「構造づくり(Initiating Structure)」と「配慮(Consideration)」の二軸で整理されました。すなわち、目標達成に向けた役割の明確化と、人間関係への配慮が組織成果に影響することが示されています。
さらに、組織行動論の研究では、共通目標の明確化とその共有が、チームのパフォーマンス向上に寄与することが数多く報告されています。組織は自然発生的に高い成果を出すわけではありません。方向性が示され、行動が整えられ、相互に支援し合う環境があって初めて成果が生まれます。
ゴルフ場は、フロント、レストラン、コース管理、営業、総務など多職種で構成されるサービス組織です。天候変動、繁閑差、労働力不足といった外部環境の影響も受けやすい業態です。その中で安全、品質、顧客満足、収益性を同時に追求するには、明確な方向づけと協働体制が不可欠です。ここにリーダーシップの重要性があります。
リーダーシップの3要素は「目標設定」「相互支援」「率先垂範」
リーダーシップ論は数多くありますが、実務に落とし込む際には、主に下記の三つの要素で整理・評価されます。
第一に「目標設定」です。
経営学者ピーター・ドラッカーは、組織の成果は明確な目標設定に依存すると述べています。売上目標、来場者数、コース品質指標、顧客満足度など、数値化された目標が共有されなければ、現場の行動はばらつきます。ゴルフ場においても、「安全ゼロ事故」「グリーン速度◯フィート維持」「顧客満足度◯%以上」といった具体的目標の設定が出発点です。
悪い目標設定の例として「◯◯効率化」「◯◯の徹底」「◯◯を上げる」と言った具体性が欠ける目標が挙げられます。
第二に「相互支援」です。
組織心理学では、心理的安全性が高いチームほど学習効果と成果が高いことが示されています。部門間の壁を越えた協力体制がなければ、ピーク時の対応やトラブル処理は機能しません。繁忙期にレストランとフロントが連携する、コース管理とスタート室が天候対応を共有する、といった相互支援の文化は、偶然には生まれません。意図的な関係構築が必要です。
会議はその手段であり、私はそれぞれの部署が悩みや課題を共有する場が重要であると考えています。会社とは一つの社会であり、他のメンバーの悩みを自分ごとのように考えることは、例えると共に暮らす家族の悩みを自分の悩みのように真剣に考えることと同じです。こうした相互支援の土台となる「相談できる環境」「聞いてもらえる環境」が相互支援の出発点です。
第三に「率先垂範」です。
社会的学習理論では、人は他者の行動を観察し学習すると説明されます。特に経営者やマネージャーなどポジションパワーを持つ人の言動は注視される傾向があります。自身が規則を守り、顧客対応を笑顔で丁寧に行い、時間を守る。その姿勢が現場に波及します。
命令や指示だけでは文化は形成されません。目標や目的へのこだわりを言葉や行動で示すこと、率先して他者を支援すること、言行一致はリーダーシップの基本です。
ポジションや権限に依らないシェアド・リーダーシップ(Shared Leadership)
シェアド・リーダーシップは、チーム内の複数メンバーが相互に影響を与え合いながらリーダーシップを発揮する概念です。研究では、シェアド・リーダーシップがチームの創造性やパフォーマンスと正の相関を持つことが報告されています。
重要なのは、リーダーシップとは「役職」ではなく「行動」であるという点です。
例えば、フロントスタッフが来場データを分析し改善提案を行う、若手スタッフが新しい接客マニュアルを提案する、総務担当が安全対策を提言する。これらの主体的な行動はすべてリーダーシップ行動と定義されます。
ゴルフ場の現場は専門性が高く、現場や顧客に最も近い人が最も正確な情報を持っています。トップダウンのみでは最適解に到達しにくい環境です。したがって、情報を持つ人が主体的に提案し、改善を主導する文化づくりが、組織全体の競争力を高めます。
明日からリーダーシップを発揮するためにやるべきこと
理論を理解するだけでは不十分です。実践に落とし込む必要があります。
第一に、目標を再定義し、数値で共有することです。月次会議で「何を達成するのか」を明確にし、全員が理解できる形で提示します。
第二に、提案を歓迎する仕組みを設けることです。定例ミーティングで改善提案の時間を設ける、部門横断プロジェクトを設置するなど、発言機会を制度化します。
第三に、自ら行動で示すことです。現場巡回、顧客対応への参加、安全確認の徹底など、率先垂範の姿勢を継続します。
リーダーシップは特別な才能ではありません。目標を示し、支え合い、行動で示す。日々のコツコツとしたその積み重ねが組織文化を形成します。
ゴルフ場経営は、人材に依存するサービス産業です。だからこそ、全員がリーダーシップを発揮できる組織づくりが、持続的競争優位の源泉となります。
明日からの現場で、ぜひ一つでも具体的行動を実践していただきたいと思います。


