私たちの仕事を人に説明する時には「ティーチングプロ」「インストラクター」「コーチ」という具合に、様々な呼称が用いられます。
しかし、本来その言葉が持っている意味は全く違うもので、指導者として、この違いを知って自分の指導スタンスを決めて指導にあたることは大切です。
コーチングを理解する
まずはじめに言葉の意味から理解してみましょう。
「教える」ティーチング
ティーチングプロで使われる「Teatch」とは「教える」という意味です。
教えるとは自分の知っていること(知識)を伝えるということです。
学校の先生などがティーチャーと呼ばれますね。
「指示する」インストラクション
インストラクターは「Instraction」ですから「指示する」という意味です。
指示するとは行動を指し示すことです。
動きを指示する際に使われることが多いので、スポーツインストラクターという具合に運動技術を教える人によく使われます。
ではコーチとはどういう意味でしょうか?
「ゴールへ導く」コーチ
コーチの意味を考えるのにこちらの画像を見てみましょう。
みなさんもよく知っているブランドだと思います。
アメリカの高級皮革製品ブランドのCoachです。
企業名の由来は「乗り物」を意味していると言われています。
だからアイコンが馬車なんですね。
指導者の名称として使われるコーチも、もともとは「クライアントを目的地まで運ぶ」とすなわち「ゴールへ導く」という意味で指導者にはコーチという言葉が用いられるようになりました。
良いコーチを定義する
では指導者は乗り物に例えられているので、乗り物としてどんな乗り物が優れているのか考えてみたいと思います。
早く目的地に着く乗り物
乗り物として、例にあげたのは新幹線と普通列車です。
ゴールに早く着きたい人は特急券代を支払っても新幹線を使います。
指導者も同じで、早くゴールへ導ける人は優秀なコーチと言われます。
快適な乗り物
次に例にあげるのは、特等席と普通席です。
新幹線だとグリーン車、飛行機だとファーストクラスとかビジネスクラスという具合です。
仮に到着時間が同じ乗り物だとすると、当然席の快適性が高い方が良い乗り物ということになります。
指導者も同じで、やはり快適なコミュニケーションや環境を準備できるコーチは良いコーチと言われます。
正確な乗り物
最後にあげるのは、GPS機能付きの乗り物と、経験と勘に頼る乗り物です。
正しくゴールにたどり着くという意味を考えると、正確にゴールに導いてくれる方が良いですね。
指導者も同じで、クライアントのゴールをしっかりと把握して正確に導いてくれるコーチは良いコーチと言われます。
まとめると「早く」「快適に」「正確に」目的地にゴールに導く指導者は良いコーチと言えます。
では、クライアントを早く、快適に、正確に、目標に導くためにはどうしたら良いのでしょうか?
ゴール(成果)を決めるのは誰?
ここでまず最初に考えなくてはいけないのは、Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)という5W1Hです。 成果を願うのは誰か?
特に会社内での育成の場合だと、まず誰が?という話からつまずきます(笑)
それはなぜか、例えば上司が部下を育成しようとするのですが、成長を願っているのは上司と部下どちらでしょうか?
そうです。多くの場合で成長を願っているのは会社や上司です。
ですから、コーチ(乗り物)であるはずの上司がゴールを決めているのです。
これでは乗り物としてはイマイチですね…。
なのでコーチングではまずカウンセリングが非常に重要視されます。
多くの読み物で「コーチング」と「傾聴」という言葉がセットで出てくるのはこのためです。
やる気にさせるのもコーチの仕事
ということは、まずこのカウンセリングでは「やる気にさせる」というのが大切になります。
まずは乗ってもらうということですね。
ではやる気はどうやったら引き出せるのでしょうか?
「やる気」は「動機」とも言えますから、動機付け=モチベーションという言葉がよく使われます。 最初の動機付けをする
モチベーションには大きく2つの種類があります。
「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」です。
外発的動機付け
外発的動機付けとは外部誘引によって動機付けする方法です。
昇進、インセンティブ、配置転換などのご褒美をぶら下げることによってやる気を引き出す方法です。
内発的動機づけ
一方の内発的動機づけとは内部誘引によって動機付けする方法です。
内部誘引と言っても、外部からの刺激によって内部誘引が引き出されるというのがほとんどです。例えば本を読んでいてやる気になったとか、尊敬する人に近づきたいと思ってやる気になった、自分の実力や可能性を試したくなった。などです。
一般的には活動量や、行動の質、持続性、自律性などのパフォーマンスは内発的動機付けの方が高いと言われています。
自己効力感が原動力になる内発的動機付けを目指す
何故かという具体例をあげると、報酬などの物質的な欲求を満たすために行動した場合、そのコスト/バリューを考えます。こんなにシンドイ思いをして幾らかー。それだったらもっと楽して稼げる方法でとか、このくらいの工数で納めないと…というリミットが働く外発的動機に対して、内発的動機の場合はその行為自体がモチベーションになっているケースが多いのでアンリミットです。これを乗り越えることで成長するとか、新たな知識や経験を得ているんだという自己効力感が原動力になっているからです。
「承認」や「共感」の重要性
そしてこの内発的動機を引き出すポイントになるのが「承認」や「共感」です。
承認は自信を与え、共感は安心感を与えます。
この承認や共感を感じてもらう方法としてコーチングではよく「ペップトーク」がよく使われます。
動機を引き出す「ペップトーク」
皆さんもスポーツのインタビューでコーチや監督が「選手たちが本当によくやってくれた」「みんなの頑張りでここに来れた」などと選手を褒める発言をよく耳にします。
「ペップトーク」の「Pep」は元気や気力という意味で、相手の元気ややる気を引き出すために使われるコミュニケーションテクニックです。
特に日本人は苦手な人が多いのですが、「頑張ってくれてありがとう」「よくやってくれている」「あなたを信じてる」など相手がコーチからの承認を感じられるような言葉がけをすることで、クライアントの内発的動機を引出します。
こうして、クライアントの動機が確認できたら、いよいよ乗り物にのってもらい、いよいよ出発進行です。
コーチは様々な手法で成長を促す
いざ出発してみると、ゴールまでの道のりの多くは順調なケースばかりではありません。
急にやる気がでなくなったり、道に迷ったり、思わぬ困難で前に進まないことがあります。
この困難を乗り越える方法は、クライアントに成長してもらうほかありません。
コーチはクライアントに対して、様々な手法を駆使して成長を促します。
問いを与える
走り出してみると、思うようにいかないことはあります。
そもそも前に進まない原因(課題)は何のか?必要なリソース(資源)は足りているのか?どんな行動や思考が今必要なのか?どんな選択肢があるのか?などを話し合います。
ティーチングやインストラクションとの違いは一緒になって考えるということです。
コーチはあくまでも主導的な役割を果たさず、クライアントに問いを提供したり、意味を再定義することで成長を促します。
もちろんスポーツなどでコーチが練習メニューを作る場合はコーチが行動を促すことになりますが、基本的には同意を得ながらロードマップ(ゴールまでの目標達成道程)や可視化するためのマイルストンを設定してクライアントのパフォーマンスを検証進めるというスタイルをとります。
手法を変える
例えば、英語の習得でも、ゴルフの100切りでも、練習する過程で必ず起こってくるのがマンネリやスランプです。効果が出てこないと人はやる気をどんどん失っていくからです。
しかしある技術や成果を得るためには一定量の努力は必要というのは何となく誰でも理解しているものです。
私の場合はゴルフだと息抜きに少し違うことをやってもらいます。
例えば練習で打つボールをテニスボールにしてみたり、あるいは打球練習中心だったものをトレーニングやラウンドをメインにしたりという具合です。
単純に飽きを防ぐという狙いもありますし、新しい取り組みは短期間で変化も見えやすいので気持ちの充実に繋がります。
また休息を促すのもコーチの仕事です。
コーチというと頑張れ頑張れとムチを打つイメージがあるかもしれませんが、気力が低下している状態での励ましは逆効果になる場合もあります。休息を入れて気力の充実を促すことで再度モチベーションされるケースは多くあります。
特に頑張り過ぎてしまう真面目なクライアントの場合は、気力が落ちきる前に小まめに休息を入れると効果的です。
リラックスした雰囲気を作る
さて、いよいよ順調にゴールが近づいてきたら、最後はリラックスさせることにフォーカスしましょう。
仕事の重要なプレゼンテーション、ゴルフの競技、プロジェクトの当日、などこれまで努力を重ねてきた人ほど気合が入って神経質になります。
しかし、パフォーマンスというのは緊張している状態では発揮できません。
いわゆるゾーンというのは緊張と弛緩がバランスよく備わった状態です。
緊張は否が応でもしてしまうので、コーチは弛緩の方をサポートすることに徹します。
笑顔になるような冗談を言ったり、動作がゆっくりになるように心がけたり、あるいは会話をすると呼吸が整うのでただ世間話をしてあげるだけでもOKです。
ゴルフの場合選手によってはお菓子を食べたり、ガムを噛んだり、あるいはゆっくり歩くことを心がけることで心拍数を抑えている選手もいます。
終わった後はしっかりフィードバック
そして目的地にたどり着いたとして、それは望むゴールじゃない場合でも必ずフィードバックをしましょう。
仕事だとすぐに「飲み会」でパーっととなりがちですが、コーチングではプロジェクトごとに必ず何ができたのか、何ができなかったのか、という具合に結果ではなくプロセス(経過)に対してフィードバックをします。
フィードバックは今後の成長のためにも非常に重要です。
まとめ
コーチングの定義はあいまいですが、言葉の意味から分かるように成果や成長に人を導くことを言います。
その中で指導者にできることは、動機付け、ロードマップやマイルストンの作成、選択肢の提供、休息やリラックスの提案と限られています。
さらに言えば、コーチングだけが指導として優れているわけではありません。
コーチングはコミュニケーションを通じて成長を促すという手法の一つであり、知識を伝えるティーチングや、動作を伝えるインストラクションも、スキルやモチベーションのレベルによってはコーチングよりも有効です。
指導者はクライアントを正しく見極め、自分の指導技術を駆使して成果に導くことにコミットするというマインドが大切だと思います。
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