ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第7回は世界で最も広く使用されていてポピュラー(人気)なコーチングメソッドといえばG.R.O.W Modelを紹介します。
コーチングメソッドの基本「G.R.O.W Model」
コーチングメソッドは世界中に数多くありますが、世界で最も広く使用されていてポピュラー(人気)なコーチングメソッドといえばG.R.O.W Modelではないでしょうか?
エグゼクティブコーチング業界のパイオニアとして有名なJohn Whitmore氏、実は1959年から1966年までの5年間ル・マン24時間レースに出場したほどのレーシングドライバーでした。
ドライバーを引退した後に心理学や学習方法について学ぶためにハーバード大学の博士に師事し「パフォーマンスコーチング」という言葉を生み出しました。これが現在私たちが知っているコーチングブームに発展します。
1980年代初頭からはコーチングやリーダーシップ開発によってパフォーマンスを改善するためのコンサルタント会社を設立し多くのアスリートや企業の成功をサポートしました。コーチングガイドとしてベストセラーとなる「Coaching for Performance」を出版。その中に書かれたG.R.O.W.ModelはGoal(目標)、Reality(現状)、Options(選択肢)、Will(意思決定)という、目標設定からその問題解決方法までの流れを非常にシンプルなフレームワークとしてまとめたコーチングメソッドです。
思考整理のフレームワークにも使われることが多いので、一度は耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
参考までに実際のメンタリングを想定してメンター(コーチ)がメンティー(コーチングを受ける側)にする問いかけをGROWモデルに合わせていくつか紹介してみましょう。
Goal(目標設定):
・あなたはどんなキャリア(職業人生)を歩みたいですか?
・あなたは自分の仕事をどのように進めたいですか?
・いまあなたにどんな成果が必要ですか。
・いまやっていることが今後どのように役立つと思いますか?
・あなたが望んでいることはなんですか?
・今あなたの仕事を成功させるには何が必要ですか?
Reality(現状把握):
・あなたの現状をあなた自身どう見ていますか?
・あなたの現状を他人(メンバー)はどのように見ていると思いますか?
・あなたが気づいている課題はなんですか?
Options(選択の可能性):
・状況がどのように変化するといいですか?
・どうすれば状況を改善できますか?
・具体的なオプションをいくつか書き出してみましょう
・これらのオプションのメリットとデメリットを書き出してみましょう
・これらの提案されたオプションのどれかを試してみたいですか?
Will(意志決定):
・これらのオプションをどのように実行できますか?
・これらのアクションをする際に障壁になりそうなことはなんですか?
・コーチからどのようなサポートが必要ですか。
・チームはあなたの行動をサポートしてくれそうですか?
・そうでない場合は、サポートシステムを他から得ることはできますか?
・この決めた行動を計画書にできますか?
GROWモデルの参考質問についてはネットで調べるとそれぞれのコーチが自分の体験をもとにした多くの事例が出てくると思いますので、ぜひそうした検索の結果も参考にしながら自分やメンバーの状況に応じて質問を使い分けてみてください。
ゴール設定で注意したい「SMART-Goal」
またGROWモデルでつまづきがちなケースとして、最初のGoal(目標)がフワッとしてしまうと、その先がなかなか進まないというケースがあります。そんな時は「SMART-Goal」というフレームワークを使います。これもそれぞれに頭文字をとったものです。
・Specific(具体的に)
明確で具体的な表現や言葉で分かるようにする。
・Measurable(測定可能な)
目標の達成度合いを定量化(数値化)して表してみる。
・Achievable(達成可能な)
夢ではなく、達成や実現が可能な内容かどうかを確認する。
・Related(関連した)
設定した目標が業務やキャリアに関連する内容になっているかどうかを確認する。
・Time-bound(期日)
いつまでに目標を達成するか、その時点で一旦の期限を設定する。
ビジネス上のコーチングで起こりがちな失敗は、例えば上司であるコーチが育成を目的にメンタリングをしようとしているのに、目標設定で「家庭の悩み」や「お金の悩み」といったプライベートな課題や目標を言われたり、「与えられた仕事を頑張る」といった曖昧な目標を設定してしまうケースです。もちろん関係性を構築する上でプライベートの状況やその人の性格を知ってくことも重要ですが、ビジネスにポジティブな影響をもたらす行動変容を期待するコーチングからはズレてしまいます。GROWモデルを使うときでも、特にゴールの設定ではこのSMARTゴールに当てはめてみるといいでしょう。
また目標設定がすぐに出てこないというケースもあります。
そういう場合に焦って目標設定を強要してしまうとコーチングではなくインストラクションになってしまうので、質問の角度を変えて「いま身に付けたい能力は?」というように”成長”につながる問いにしてみたり、気持ちを切り替えて”関係性構築”と位置づけ直す柔軟な対話もメンター側の選択肢に入れておきましょう。
メンタリングの注意点
実際にやってみると分かりますが、GROWモデルの良いところは、初めてのメンタリングでも会話や傾聴のきっかけや会話の流れを作りやすいところです。予めどういう手順で進めていけばいいのかが示されているので特にコーチングの初学者は皆ここからスタートします。
一方で、ゴール設定の難しさでも書いたように、相手は人間ですから想定外の答えが返ってきたり、沈黙や対立で会話をきれいに繋ぐことができない場合は多々あります。
コーチングはコミュニケーションの技術ですから、何度も何度も繰り返して、そうした対話の技術を磨いていくと、回を重ねるたびに会話もスムーズになり、メンバーの成長も実感できるはずです。ぜひ焦らず繰り返し取り組んでみてください。