ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第8回はコーチングの概念を理解し、その必要性や用途についての理解を深めていきます。改めて考えたい、なぜ今コーチングが必要とされているのか?コーチングとは何なのか?
コーチングの必要性が高まっている背景
このコラムではこれまでコーチングの手法について焦点を当ててきましたが、そもそもなぜ今コーチングの需要が高まっているのでしょうか?
読者の皆さんの中にも、「自分の考えや価値観を押し付けて反発されたり、パワハラとか言われても辞められても困るし」とか、「社員にも努力や成長はしてほしいんだけど、コーチングが効果があるって聞いたことあるし」という感じでコーチングに興味を持ったという方も多いのではないでしょうか?
コーチングが求められている社会的背景を知ることで、コーチングの取り入れ方や、あなたがコーチングを学ぶ理由を明確にし、コーチングという幅広い概念の整理や理解につながればと思います。
ハイパーチェンジエイジ(超高速変化時代)
コーチングの需要が高まっている背景でもっとも大きな理由の一つは、社会の変化のスピードが速まっていることが挙げられます。
「インターネット技術」の誕生と、約2年ごとに半導体の集積度が2倍になる(幾何級数的に性能が高まっていく)「ムーアの法則」によってテクノロジーがリードする世界はいま信じがたいスピードで変化しており、その速さは私たちの思考や制度が追いつかないほどです。
昨日までは不可能だったことが今日には可能になってしまうハイパーチェンジエイジ(超高速変化時代)では、過去の成功体験を非常識なものに変えてしまうため、既存の価値観やビジネスモデルなどが通用しないことから、「VUCA時代(「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」という、4つの単語の頭文字っをとった時代認識を表す言葉)」とも呼ばれています。
この「加速の時代」は私達の教育も難しくしました。先人の経験や知識から学ぶことが難しくなったからです。これは私の前職でもあるゴルフレッスンでもそうでしたが、数十年間信じられてきた指導法が最新のセンサーを搭載したカメラと高速なアプリケーションによって否定され、全く逆の事実を示したことがありましたし、身体中にセンサーを付けてスイングの動作解析を人工知能で行うことで、今までエラーとされていた動きを取り入れることで大幅な飛距離アップに成功した選手も出てきました。
これと同じことはビジネスの現場でも起こっていることはみなさんも実感されているのではないでしょうか?年下の社員から年上の社員が最新のマーケティングについて学んだり、デバイスの使い方を教えてもらったりしているうちに、キャリアの長い年配社員が肩身の狭い想いをしていたら「働かないおじさん」と揶揄されたり、古い価値観や知識を持ち込んだ瞬間に「老害」なんて言われる始末です。
このように過去の体験や知識や価値観を教える( = ティーチング)という指導法が通用しなくなったことで、その時その瞬間に学ぶべきことややるべきことを個人が主体的に判断することを促すコーチングが新たな指導の主役となったのです。
多様性の拡大
2つめの理由は人材の多様性が拡大したことです。男性ばかりの年功序列型社会では、いわゆる体育会系の「命令型上司」でも通用していましたが、学生アルバイトやパート、インターンや外国人社員、さらに女性管理職も増えてきた組織では価値観も多様化し、命令や強制によって働くことは持続性に欠けるとされ「ハラスメント=嫌がらせ」と見なされれば、社員の勤労意識の低下や離職にもつながってしまいます。
こうした背景から、上司やリーダーは会社やチームを目標に導くために、構成員一人ひとりのパーソナリティやゴールを理解し、安心して対話ができる心理的安全性の確保することや、メンバーの行動を主体的に促す必要性が高まっています。
科学的なエビデンス
これまで述べてきた社会的変化に加えて、人間の行動やパフォーマンスにコーチングという手法がポジティブな影響を与えることが分かってきたことも多くの人がコーチングを取り入れる理由です。
実験などによって客観的に測定し、科学的根拠に基づいてアプローチをすることを「Evidence-based」と言いますが、こうした科学的なレポートやデータがインターネットで拡散され、多くの人が成長や発達について正しい知識を持ったこともコーチングが広まった要因と言えます。
またそれらの手法は、教育だけではなく、ビジネス、医療、スポーツ、など多くの分野で応用され、その成果も同時に注目されたことで、今では組織制度そのものに1 on 1ミーティングなどのコーチングを取り入れる企業も増えてきました。
科学的なアプローチに沿った対話を通じて個人の能力を開花させるのがコーチング
コーチングという言葉がどういった文脈で使われるかで、言及する範囲が変わってくるので、読者の方の中には一体どこまでがコーチングなんだ?と混乱される方も多いと思いますが、今回書いたように「コーチングの需要が高まっていることの背景」からも分かることは、1.)科学的根拠に基づいたアプローチであること、2.)個人や組織の主体的な行動変容があること、3.) それによって個人が成長や成果を実感できること、という要素が不可欠です。
そして1.)の科学的根拠に基づいたアプローチの手法として、心理学的アプローチや、脳科学的なアプローチ、社会学的アプローチなど、様々な学術分野からの手法や型が存在しているという感じです。
またそれにらの手法によって「コーチング」という言葉は多くのコンテクスト(文脈)を持ちます。主には①個人のやる気や一歩踏み出す勇気を引き出す「自己啓発や心理療法な意味合い」や、②スキルを習得する過程での「学習方法としての意味合い」、③個人と社会や人との関係性を改善することで意識変容を促す「コミュニケーション的意味合い」といった具合で、これがコーチングを分かりにくくしている原因かもしれませんね。
批判を恐れずに私の表現で言えば、”あなたが誰かの成長を目的として科学的根拠に基いたコミュニケーションをとったら、それはコーチングを実施した”ということです。
ですからコーチとは”誰かの成長のために学ぶ人”なんだと思います。