ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第22回はのテーマは『チームの力を引き出すファシリテーション』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
これまで、このコラムでは「コーチング」というテーマについて取り上げてきました。コーチングは前回の「1 on 1」に代表されるように、個人の目標達成や能力を引き出すための手法ですが、このコラムの読者の皆様は支配人や経営者といったマネジメント層で、数人から数十人のチームを率いているという方がほとんどだと思います。そこで今回は会議などでチームメンバーの言葉を引き出し、チームワークが向上するためのファシリテーションについて書いてみたいと思います。
コーチングとファシリテーションの違いと共通点
コーチングは対話をベースに内省を促すことにより個人の目標達成や成長をサポートするというのに対して、ファシリテーションは会議(ミーティング)をベースにチームに働きかけ、チームの目標を達成するためにチームメンバーの相互理解を促し、チームワークが向上することで目標や成果の達成に導くという特徴があります。このことからも分かるようにコーチングとファシリテーションには、個と集団という違いはあるものの、質問によって相手の発言を引き出すことや、対話を通じた成長を促すこと、あくまでも主役は相手であるという共通点もあり、良いファシリテーターは良いコーチの条件を備えていると言えます。
ファシリテーターとは?
ファシリテーションとは一般的に「会議やミーティングを円滑に進める技法」のことを言います。メンバーの発言を促したり、出された様々な意見から相違点や議論のポイントを整理したり、議論を収束させ合意形成に導くなど、このような一連の役割を担う人のことを、「ファシリテーター」と言います。
会議の目的の一つにメンバーに当事者意識をもたせるというのがあります。誰かが決めたことを一方的に指示や命令をしたり、説明をするだけでは、人はなかなか主体的には動いてはくれません。
理想的な会議のゴールというのは、メンバーからアイディアや意見が引き出され、話し合いによって、協力して問題解決するぞ!という当事者になっていることです。
ファシリテーションはこうした「腹落ち」を生み出すためのスキルと言えます。
ファシリテーターの役割
会議のゴールを設定する
ファシリテーターはこの会議でどこまで結論を出すか(=ゴール)をしっかりと決めておきます。特に急を要する議題でなければ、何回かの合意形成に段階を分けておくのも有効です。
場作り
適した席の配置や、雰囲気作りもファシリテーターの重要な役割です。
アイディアを出したいときはリラックスした雰囲気で、意思決定や合意形成したいときは集中できる雰囲気で、といった具合に、場所はもちろん、プロジェクターの使用、飲み物や軽食、ファシリテーターの表情や態度も場の雰囲気を作ります。
対話の促進
メンバー同士が活発な意見交換ができるようにするのは最も重要な役割の一つです。まだ発言していないメンバーへの発言を求めたり、意見の対立によって議論が膠着した場合は議論を戻す、休憩を挟む、意見の相違点を整理して論点を定めるなどの工夫をします。発言の量はどうしても役職上位者に偏ってしまう傾向があるため、最近ではメンバーの発言量が立場や印象に左右されないようにアプリを使って参加メンバーが匿名で意見を出し合ってから会議をスタートさせるといった漸進的な取り組みをしている企業もあります。
時間を管理する
会議の時間は予め決まっていることが多いと思いますが、議論の状況によっては、時間を延長して継続する場合もあります。一方で長時間になってしまうと集中力が薄れてきて活発な意見を出しにくくなる傾向もあるた休憩を挟むなど参加者に合わせた配慮も必要です。
結論付けと合意形成
会議の最後には参加者全員の合意(コンセンサス)を取ります。
今回の会議で「決まったこと」「決まらなかったこと」を明確にし、次回の会議で話し合う論点も決めておきましょう。
また何かが意思決定や合意形成できた場合は「誰が」「いつまでに」「何をするのか」を明確にしメンバーの認識を一致させて、会議を締めくくります。
ファシリテーターに求められるスキル
質問力
参加者から出てきた話の内容が不十分な場合には「何か具体的な例があれば教えて下さい」「今の話は◯◯という理解でいいですか?」など、適宜質問をしていきましょう。また自分が理解できていたとしても、他のメンバーが理解できていなそうな表情や雰囲気を察知したら代わりに質問してあげると、参加者全員が同じ理解を共有できるので有効です。
傾聴力
メンバーの発言意欲を高めることはファシリテーターの重要な役割です。
発言者に顔や体を向ける、アイコンタクトをする、うなづきや相づちを入れる、発言内容を要約して理解を示す、など聴く姿勢を態度で示していきましょう。
論理的思考力
議論が進む中で論点がズレていってしまうことや、すり替わってしまうことは多々あります。ファシリテーターは論点を十分に理解して、様々な立場のメンバーから出てくる多様な意見を理解しつつ、その議論を深めていくべきかどうかを直感的に判断していく必要があります。
ファシリテーターには議論を構造化したり整理するための「論理的思考力」が必要と言われています。
会議の質は組織の質
パーソル総合研究所の調査によると会議が社内業務に占める割合は、全体時間の19.3%と言われています。1日8時間の労働時間としても430時間以上、ゴルフ場のようなサービス業はメンバーのシフト調整が難しいため比較的会議が少ない業種と言えますが、会議を積極的にやる会社は業績が良い傾向も示されており、会議の質が会社の業績や判断、社員の働く意欲に大きな影響を与えることは紛れもない事実です。
JR東海エージェンシーの調査によると会議への参加態度については積極的が53.9%と半分程度のメンバーが意欲的に参加する一方で、そうじゃないメンバーがいることも考慮しなくてはなりません。会議への参加意欲が低くなる不満ナンバー1は「会議が終わっても何も決まっていない」ことで、前項でかいた「結論付けと合意形成」がメンバーの不満を解消するために重要であること、ファシリテーターのスキルで会議の質が如何に変わってくるのかがわかります。
議論を管理するということは風通しの良い社風やメンバーの人間関係にも影響しますから、活発な意見を通して、良質な結果を導きだせる様に心掛けてファシリテーションをしていきましょう。