ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第34回はのテーマは『ゴルフ場の人事評価制度の設計で気をつけるべきこと』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
多くのゴルフ場では、人事評価制度が整備されていない、あるいは数十年アップデートされずに、いまだに勤続年数や年齢に応じて役職や賃金をあげる人事制度(年功序列)が運用されており、これが若年層や優秀な従業員の労働意欲の低下や離職につながっているが、これを危惧しながらもどのように制度を変えて良いのか分からないと困っているところも多いようです。
特にゴルフ場やホテルなどのサービス業(特に観光・レジャー産業)においては、人手不足、特に高齢化や周辺人口の減少により、労働力不足が深刻化していますから、従業員の離職防止に繋がる人事制度の重要性は増しています。
また季節性が強いゴルフ場では、繁忙期の人員を確保することが難しい場合が多く、春秋や土日のピーク時には人手が足らず、夏冬や平日のオフピーク時には人が余るという現象が起きてしまいますから、アルバイトやパートなどの非正規社員を活用していくことも課題として挙げられます。
旧来からある人事制度を変更したり、あるいはこれまで明確でなかった人事制度を新たに作成する場合に注意すべきことはなんでしょうか?
人事制度を改定する際に注意すべき点
目的の明確化:
人事評価制度改定の目的を明確にし、その目的に沿った制度設計を行うことが重要です。会社の売上や利益の向上というのは当然ですが、その目的が達成できていない理由(問題点や課題)が明確でないと、それに対する解決策としての制度設計ができません。このように目的が不明確だと、評価制度が従業員のモチベーション向上や業績改善に繋がらない場合があります。
従業員へのコミュニケーション:
改定内容を従業員に十分に説明し、理解を得ることが重要です。前述したような年功序列型人事が「時代に合わない」などという心情的・主観的なものではなく、従業員アンケートの結果、離職理由、他社動向などの客観的なデータを揃えた上で説明するのがポイントです。不十分なコミュニケーションは、従業員の不満や混乱を招くことがあります。
評価基準の公平性と透明性:
評価基準は公平かつ透明である必要があります。不公平な評価基準や不透明な評価プロセスは、従業員の信頼を失い、評価制度の効果を損なうことにつながります。
定量的・定性的評価のバランス:
定量(数値化可能)的な評価だけでなく、定性(数値化不能)的な評価も重視し、従業員の総合的な能力を評価することが望ましいです。評価基準が偏っていると、従業員の能力や貢献が適切に評価されない場合があります。特にゴルフ場はコストセンター(間接部門)が占める割合が多いため、この要素は重要視されています。
継続的なフィードバック:
評価制度改定後も、従業員に継続的なフィードバックを提供し、改善点や成長の機会を示すことが重要です。これにより評価制度に連動して、従業員の成長や業績改善に繋がります。
フォローアップと改善:
改定後も評価制度を定期的に見直し、問題点や改善点を修正することが必要です。評価制度は組織の状況や従業員のニーズに応じて適切に且つ定期的にアップデートされるべきであり、それは常に未完成であり、組織が成長する限りにおいて完成されないものという認識が必要です。
法令遵守:
改定内容が労働法や関連法令に適合しているか確認し、違反がないように注意してください。
これらの注意点を考慮し、従業員のニーズや組織の状況に応じて設計することが求められます。
人事、経理、総務、などの間接部門の評価制度で気をつけるべきこと
また上述したコストセンターの部門の人事評価制度は、営業などの売上に直結する部門ではないため評価が難しいという点が課題にあがります。これらの部門の公正性を保つためには、以下のような解決策を検討する必要があります。
目標設定:
各部門ごとに達成すべき目標を明確に設定し、それに基づいて評価を行うことが重要です。例えば人事部門では採用数や従業員の満足度、経理部門では経費削減率や処理の速度など、部門ごとの役割に応じた目標を設定しましょう。各部門ごとに重要な業績評価指標(KPI)を設定し、それに基づいて評価を行うことで、より具体的な目標達成度を測ることができます。
定性評価の導入:
コストセンターの部門でも、チームワークやコミュニケーション、プロジェクトの遂行能力など定性的な評価が可能な指標を導入しましょう。これにより定量評価だけでなく、従業員の総合的な能力を評価することができます。
また360度評価の導入など、上司だけでなく、部下や同僚、他部門との連携を評価することで、より公平で客観的な評価が可能になります。
評価プロセスの透明性:
評価プロセスを従業員に対して透明化し、評価基準や方法を明確に伝えることで、他部門と比較した場合の不公平感の是正や公正性を高めることができます。
定期的なレビューとフィードバック:
前半の人事制度設計の部分でも記述しましたが、定期的なパフォーマンスレビューは人事制度の最も重要な部分です。間接部門でも具体的なフィードバックを提供することで、従業員の成長と向上を促し、評価の公正性も向上させることができます。
アルバイトやパートの評価制度
シンプルな評価基準:
非正規社員は短期間で働くことが多いため、シンプルかつ分かりやすい評価基準を設定しましょう。業務達成度、チームワーク、コミュニケーションスキルなど、3項目程度の主要な評価に絞ることが効果的です。
定期的な評価:
非正規社員にも定期的な評価を行い、フィードバックを提供することが重要です。短期的な目標達成を評価することで、働きがいやモチベーションの向上につながります。
公平性と透明性:
正規社員と同様に、非正規社員の評価基準やプロセスも公平かつ透明であることが重要です。評価基準や評価方法を明確に伝え、従業員の理解を得ましょう。
スキルアップの機会:
非正規社員にもスキルアップの機会を提供し、キャリアアップをサポートします。特に学生や研修生などの教育制度を整えることで、能力向上や定着率の向上、正社員登用にもつながります。
柔軟な評価期間:
非正規社員の働き方や雇用期間が様々であることを考慮し、評価期間を柔軟に設定しましょう。例えばアルバイトやパートには月単位での評価を行うなど、個々の状況に応じた評価期間を設定します。
インセンティブ制度:
目標達成や成果に応じて報酬を与えるインセンティブ制度を導入することで、非正規社員のモチベーションや業績向上につながります。
以上のような施策を組み合わせて、従業員にとって働きやすい、公正な人事評価制度を構築しましょう。もちろんこれらは代表的な事例であり、最適な評価制度は組織や状況によって異なるため、それぞれの企業や部門の特性を考慮して適切な制度を導入することが重要です。