ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第35回はのテーマは『ジョブローテーションで人を育てる』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
ゴルフ場には様々な部署が存在しています。「ジョブローテーション」とは定期的に部署を変えたり、あるいは職務内容を変更する制度のことで、多くの企業で人材育成の代表的な仕組みとして活用されています。
特にサービス業では高い効果を発揮すると言われており、新入社員などの育成では半年スパンで部署異動をすることで業務の全体を把握することに使われたり、あるいは幹部育成の場合は数年単位で部署異動を経験させることでその部門での一定の成果を出させることでリーダーシップを育む体験に使われます。
今回は人材育成の代表的な仕組みである「ジョブローテーション」の効果や導入の注意点について解説します。
ジョブローテーションの効果
ジョブローテーションの効果は様々あると言われていますが、以下の効果が代表的なものとして挙げられます。
スキルと多様性の獲得
従業員が異なる業務を経験することで、新たなスキルや知識が習得できることはもちろん、前部署と現部署の業務を関連づけることで新たな仕組みやルールを導入するきっかけになります。職場異動は環境変化に対応することで柔軟性を身につけることが期待されますし、それぞれの部署ごとの規律や文化を知ることで相互理解が促進され組織内の葛藤や対立が軽減するなどの効果が期待されています。
モチベーションの向上
新しい職務や目標が与えられることで、従業員のモチベーションが向上し、能力の発揮機会が促進されます。最新の研究によると5年以上同じ部門や職位が継続すると、従業員のモチベーションや向上心が低下し、離職率が上がるというデータもありますから、従業員の離職防止という観点でも効果的です。
コミュニケーションの強化
異なる部署やチームで働くことで、社内の人間関係が広がり、部署間のコミュニケーションが円滑になります。
リーダーシップ育成
ジョブローテーションを経験した従業員は、これまでと異なる状況でリーダーシップを発揮する機会が増え、将来のマネジメント層を養成することができます。一般的にサービス業のマネージャーはゼネラリスト(広範囲な知識・技術・経験をもつ人材)の方がリーダーシップを発揮しやすいと言われており、特にゴルフ場ではコース管理や厨房といった専門性の高い部署がある事業所では、その部門を経験していリーダーに対して「あの人は現場のことが分かっていない」と揶揄される傾向が強いため、将来の幹部候補は一通りの部署を経験させておくという育成方法が主流です。
ジョブローテーションの導入時の注意点
そんな人材育成には必須とも言えるジョブローテーションですが、やり方を間違えると育成が実感できないばかりか、有能な人材を離職させてしまうリスクもあるので、以下の導入の注意点をおさえて運用していくことが重要です。
目的と計画
ジョブローテーションを導入する際は、その目的と計画を明確にし、適切な期間と範囲を設定することが重要です。
冒頭に紹介したように、新入社員研修の一環として数ヶ月単位で部署を異動していく場合、その目的は①新入社員が全ての部署の人にその存在を認知してもらうこと、②新入社員が様々な部署が存在しており、それらが連携してサービスを提供することで顧客満足や利益につながっていることを理解してもらうこと、③様々な部署での職務経験を通じて自分の向き不向きを認識したり、あるいは足りないスキルについて気づくことで具体的な成長目標が設定できること。という具合になります。人事担当者やマネージャーはこれらの目標・計画・期間をしっかりと認識した上で、適切に評価をすることが求められます。
従業員への支援
異なる職務や業務に対応できるように、十分な研修計画を設けることはもちろん、配属される部署への紹介や、メンターの紹介など、異動先で孤立しないように感情的にも配慮することが重要です。
評価とフィードバック
ジョブローテーションを通じて得られた経験やスキルの評価やフィードバックを行い、従業員の成長を促すことが重要です。幹部育成の場合は、あらかじめ異動先でのプロジェクトを具体的に目標設定することで、リーダーシップを発揮する機会を創出し、それが達成された際のインセンティブ(報酬や昇進)などの評価を加えることで、さらに効果を発揮します。
コミュニケーション
ジョブローテーションの当事者に対しては、その意義や目的をしっかりと伝え、理解を深めることで効果的に実施することができます。特に知識労働者をしていた従業員が、肉体労働を主とする部署に異動する場合は要注意で、マネージャーが育成目的と思っていても、本人は左遷や降格などのネガティブな評価の表れだと受け取ってしまう場合がありますから、十分な対話の期間を設けて実施することが求められます。
適切なタイミングと頻度
ジョブローテーションがいくら人材育成に効果的だからと言って、あまりにも頻繁に部署や職位が変わることは従業員のストレスにもなりますし、業務効率の低下を招くことにもなります。あらかじめ余裕を持った期間を設定しておきましょう。
ジョブローテーションのデメリット
様々な効果が期待できるジョブローテーションですが、以下のようなデメリットもあります。
業務の遅延やコストの増加
従業員が新しい部署や職務に移る際に発生する、業務の引き継ぎや研修、また業務を覚えるまでは一時的に業務の効率が低下する可能性が高いため、生産性が低下して、コストが増加する場合がありますので、閑散期など負担の少ないタイミングを図って実施することが望ましいです。
ミスマッチによるストレス
従業員が不慣れであったり、自分に適さない職務にアサインされることで、その業務に対するモチベーション低下やパフォーマンスの低下が生じたり、業務が変わることにより適応力に負担がかかり、ストレスが生じることがあります。また新しい職場での人間関係や、目標
に対する不安やプレッシャーもストレスの原因となることがあります。
ジョブローテーションの導入事例
特にサービス業ではジョブローテーションは最もポピュラーな人材育成方法で、ホテル業界や小売業界では人事制度にあらかじめジョブローテーションが組み込まれています。
またゴルフ業界では、ゴルフ場のオンライン予約を提供する企業は新入社員を契約先であるゴルフ場に派遣して就労体験を実施することで、社内だけではなく、社外にもその範囲を広げていたり、大手グループゴルフ場では専門職であるグリーンキーパーの幹部候補者は必ず複数のゴルフ場での管理業務を経験することを必須としており、様々なオペレーションや気象環境やグレードにも柔軟に対応できるスキルを必須としています。
ゴルフ場では支配人やマネージャーなどの総合職の育成では様々な部署を横断する業務理解を目的としたジョブローテーションを実施する一方で、厨房やグリーンキーパーなどの専門職は様々な事業所を経験することでスキルアップを目的としたジョブローテーションを実施することが多いようです。