ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第49回はのテーマは『権限委譲ができるリーダーになるコツ』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
人材育成という文脈において「権限委譲」は避けて通れないテーマです。
管理者やリーダーは権限委譲が難しいと感じているのは、委譲したからといって全く介入しないで失敗させるわけにもいかないし、かといって委譲したのに介入しすぎると成長機会を奪ってしまうことにもなりかねないと思うからです。
権限委譲が難しい理由
権限委譲したにもかかわらず、リーダーが介入してしまう理由はいくつかありますが、主に以下の5つの要因が挙げられます。
信頼の欠如
権限委譲が難しい根本的な理由は、マネージャーがメンバーの能力を十分に信頼していないため、判断を委譲することに不安を感じていることです。その人が下す判断が失敗につながるのでは?という信頼の欠如が権限委譲を難しくしている要因の一つです。
コントロールの喪失
私たちは無意識に他人や周囲をコントロールしたいと感じています。制御欲求は誰にでもある欲求の一つで、これは部下だけではなく「我が子にはこう育って欲しい」と願う親が多いのもその一つです。権限委譲したものの、自分の期待と違う行動や思考に対して、ついつい口出ししてしまうというのも権限委譲の難しさの一つです。
リスク管理
リーダーは任せた仕事が失敗することを恐れる気持ちを持っています。その失敗を避けるためについつい口出ししてしまうのも権限委譲による成長機会を妨げてしまう理由です。
スキルギャップ
そもそもメンバーのスキルが不足していて、業務を委譲することが難しいと感じてしまうことがあります。一定のスキルが必要な仕事の一部を奪ってしまうことがあります。
時間の制約
権限委譲には時間がかかるため、特に短期的なプロジェクトでは時間のプレッシャーが強く働き、即効性のある成果を求めるあまり、長期的な視点でのメンバー育成が難しい場合があります。
権限委譲への問い
権限委譲に関するスタンスとして読者の皆さんが正しいと思う回答を選んでみてください。① 任せた点については一切介入しない
② 上手くいっていない時に限定して介入する
③ メンバーからの申し出があれば介入する
④ 必要に応じて何時でも介入する
①任せた点については一切介入しない:
- メリット:メンバーの自主性を尊重し、信頼を示すことができる。
- デメリット:問題が発生しても気づかず、対処が遅れたり、失敗の可能性が高まる。
②上手くいっていない時に限定して介入する:
- メリット:問題解決にフォーカスできる。
- デメリット:「上手くいっていない」という判断が曖昧であり、早すぎる介入は育成機会を喪失し、遅すぎる介入は問題が深刻化して手遅れになる可能性がある。
③メンバーからの申し出があれば介入する:
- メリット:メンバーが自己解決を試みた上で、必要な時にサポートを受けられる。主体性と支援のバランスが取れる。
- デメリット:リーダーが忙しかったり不機嫌だと、メンバーがサポートを求めるのをためらう場合があるため、信頼関係の構築が必要。
④必要に応じて何時でも介入する:
- メリット:常にサポートが受けられるため、問題が早期に解決できる。
- デメリット:過干渉になり、メンバーの自主性や成長を妨げる可能性がある。
ちなみに管理職研修の演習として使われるマネジメントテストの模範回答では①でしたが、AIが導き出した模範回答は③でした。権限委譲には答えがないというのは、委譲している仕事の重要度や緊急度も異なりますし、自分と相手との関係性、さらに相手の経験や知識やスキルによっても変わってくるからです。
ナポレオンに学ぶ権限委譲
権限委譲の重要性を理解し、実践したリーダーの一人、フランス革命の主役である「ナポレオン・ボナパルト」は、右腕とも言えるマーシャル・ミシェル・ネイに多くの重要な任務を委譲しただけではなく、前線で戦う将軍たちに対して独立した判断を行う自由を与えました。彼は、彼らが現地の状況を最もよく理解していると信じていたため、具体的な指示を与える一方で、現地の状況に応じて柔軟に対応する権限を委ねました。このアプローチにより、ナポレオン軍は高い適応力を持つことができたと言われています。
リーダーとしてのナポレオンの姿勢
後の研究者たちはナポレオンが権限委譲できた理由を以下の3つにまとめています。
信頼と尊重
ナポレオンは将軍たちを深く信頼し、彼らの能力を尊重しました。これにより、将軍たちは自信を持って行動し、自分たちの役割を果たすことができました。
明確な目標設定と手段は任せる
ナポレオンは各作戦の目標を明確に設定し、その達成に向けて将軍たちに具体的な指示を与えました。しかし、具体的な手段については将軍たちに委ねることで、彼らの戦術的な柔軟性を最大限に活用しました。
リソースの分配
状況に応じて迅速に判断を下すことが求められる戦場では、ナポレオンは将軍たちに一定の裁量を持たせました。これはすなわち人員や予算を使う権限ですが、彼らは現地の状況に応じた最適な判断を行うことができました。
メンバーの成長を実感できるまでの時間
世界を代表する経営コンサルティング会社McKinseyの研究によれば、リーダーがメンバーの成長を実感するまでの時間は、一般的に数ヶ月から1年程度かかるとされ、成長の速度は個々のメンバーのスキルや経験、チームの強さ、組織のサポート体制によって異なるとされています。
1年も待っていられないと感じる方も多いとは思いますが、それが人材育成の現実であり、リーダーはそうした成長への時間軸や期待値のコントロールを持って、長期的視点で育成することが重要と言えます。