月刊ゴルフマネジメント連載#51 リーダーが覚えておくべき「エージェンシー理論」と職場での活用方法

ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。

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第51回はのテーマは『リーダーが覚えておくべき「エージェンシー理論」と職場での活用方法』です。

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ゴルフ場やゴルフ場施設のオーナーや経営者は、常に事業や組織の成果を最大化するという目的をもっています。その一方で「うちの従業員はやる気がない」「うちの従業員には危機感が足りない」というような、リーダーとメンバーの間にある意識のギャップに悩む方は多いと思います。

「エージェンシー理論」はこうした組織内の人間関係を改善するための重要な視点を提供してくれます。

目次

エージェンシー理論の概要

エージェンシー理論は、プリンシパル(オーナーや経営者などの依頼者)とエージェント(従業員やマネージャーなどの代理人)の間に生じる利害の不一致や情報の非対称性を分析する理論です。

目的の不一致

プリンシパルはこの関係性において業務をエージェントに”委託”しますが、両者の目的や利益が完全に一致しないというケースが起こります。

具体的な事例として「給料以上に働いて欲しい経営者と、給料以上の働きをしたくない従業員」や、「新しいサービスを提供したい経営者と、仕事を複雑にしたくない(増やしたくない)従業員」という具合です。

このようにエージェントは常に組織利益よりも自己利益を優先する行動を取る傾向があります。具体的には「仕事の手を抜く」「新しいことや挑戦に消極的」「ハラスメントや不正などのスキャンダル」などが典型例です。これは「エージェンシー関係における目的の不一致」と呼ばれ、組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

情報の非対称性

「情報の非対称性」とは、組織内においては、プリンシパルよりもエージェントの他がよりも多くの情報を持っている状態を指します。これは業務の詳細や現場の状況に関する情報を多く持っているために生じる情報格差のことであり、これによる歪んだ意思決定や、不利益な意思決定が生じる可能性が高くなります。

例えばゴルフ場などの施設においては、経営者や支配人は芝草管理の専門家ではない場合が多いのでコース管理については素人ですが、グリーンキーパーは日々の業務の内容だけではなく、芝草に関する専門的な知識、従業員の特性などの情報を持っているため、コース管理部門の運営について議論するときにも、大きな情報のギャップが存在することになります。

ここに上述したような、費用を削減して利益を最大化したい経営者と、重機や肥料を増やして少しでもラクをしたい従業員との「目的の不一致」が加わり、その結果、プリンシパルが重機や肥料の購入の設備投資の妥当性がわからない、適切な従業員数がわからない、不正や隠蔽に気づかない、などの問題が起こりやすくなります。

もちろんこれらは典型例であって、組織の利益を最優先するエージェントもいますから、あくまでも「こうした傾向がでやすいことをリーダーとして知っておくべき」ということも補足しておきます。

リスク回避傾向

エージェントは、自身の評価や報酬が不確実になることを避けるため、リスクを回避する傾向があります。これは以前にこのコラムでも書いた「現状維持バイアス=慣れ親しんだ状態を「安定」と捉え、変化や別の選択をしたときの失敗を恐れて現状維持し続けようとする心理傾向」や「プロスペクト理論 = 人間は得られる利益よりも損失を多く見積もり、損失を避けようとする習性がある」にも共通していますが、プリンシパル(評価する側)と、エージェント(評価される側)では、エージェントのリスク回避傾向はより強くなることを示しています。

エージェンシー理論の活用方法

エージェンシー理論を活用し、部下の育成や組織運営における潜在的な傾向や課題をあらかじめ予測し、効果的な対策を講じることができます。

目的の不一致を解消する

組織のビジョンや戦略やゴールを明確にし、それを部下と共有します。これにより、個人の目標と組織の目標を一致させ、部下のエンゲージメントを高めたり、インセンティブ制度の整備して、部下の報酬や評価を組織の業績や目標達成度と連動させ、動機付けを強化します。

情報の非対称性を減らす

定期的なミーティングや1on1の面談を通じて、情報を双方向に共有し、情報格差を縮小します。また情報共有システムとしてメールや社内SNSを活用して、情報の透明性や蓄積性を高めます。

エージェントのリスク回避傾向を克服する

失敗を許容し、挑戦を奨励する文化(心理的安全性)を育てます。これにより、部下は新しいアイデアやプロジェクトに積極的に取り組むようになります。

リスクテイクを評価する制度を設けることで、結果だけでなく、プロセスや挑戦した姿勢を評価し、革新的な行動を促進することや、部下のスキルや知識の向上を支援し、自信を持って業務に取り組めるようサポートすることもリスク回避傾向を低減します。 

エージェンシー理論の注意事項

エージェンシー理論は現代の組織理論において有効なフレームワークの一つであることは証明されており、部下との信頼関係を構築し、組織の目標と個人の目標を調和させるための考え方として多くの企業で取り入れられています。

一方でグリーンキーパーのところでも述べたように、全てのエージェントが単純に自己利益を追求すると断定することは危険ですし、エージェントの中にも、高い社会的欲求、倫理観、組織への忠誠心などをもっている場合もあります。

エージェントの倫理観を軽視したり、あるいは過度なモニタリングは信頼関係を損ない、モチベーションの低下や生産性の減少を招く可能性もあるので、注意してください。

人間の複雑な動機や組織文化の重要性を理解し、組織の目標と個人の目標を調和させ、持続的な成長と成功を目指しましょう。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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