ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第53回はのテーマは『管理職に必要な能力を可視化するカッツモデルの活用』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
なぜ出来る社員を昇進させても良いマネージャーにならないのか?
優秀な社員を昇進させたものの、期待していたほどのマネージャーにはなれないケースは少なくありません。これは現場で成果を出す能力と、組織全体を管理する能力は異なるためで、社員としてのパフォーマンスが高いほど、その人が管理職としての能力を備えているというわけではないのです。
管理職には、部下を育て、チームをまとめ、戦略的な視点で業務を進める能力が求められます。昇進の際に、これらの能力が備わっているかどうかを見極めることが重要です。ここで役立つのが「カッツモデル」です。
マネージャーのスキルを明確化するカッツモデルとは?
1970年代にアメリカの経営学者ロバート・カッツによって提唱された「カッツモデル」は、管理職に必要なスキルを「テクニカルスキル(職務上の技術的なスキル)」「ヒューマンスキル(人間関係スキル)」「コンセプチュアルスキル(概念的スキル)」という3つに分類し、それぞれの階層や役職に応じた必要度を可視化する手法です。このモデルを使うことで、各階層においてどのスキルがより重要であるかを明確にし、適切な人材育成や評価を行うことができます。
特に中小企業では、現場での即戦力を重視しがちですが、組織全体を見渡す視野や部下とのコミュニケーション能力が欠けていては、長期的な成長を妨げる要因となることがあります。
カッツモデルの3つのスキルとその具体的な事例
カッツモデルで定義される3つのスキルについて詳しく解説します。
テクニカルスキル
特定の仕事を遂行するための専門知識や実務能力です。具体的に言うと、コース管理として芝を管理する技術が高い、レストラン部門の中で調理の技術が高い、接客の技術が高い、あるいは総務や経理として事務作業を処理する能力が高いなどです。
ヒューマンスキル
チームをまとめ、部下との円滑なコミュニケーションを図るための能力です。人事や組織の関係に関する課題の解決や、メンバーのモチベーションを向上・維持するためのフィードバックが求められます。中小企業では、少人数のチームを管理することが多いため、このスキルは特に重要とされています。
コンセプチュアルスキル
全体的なビジョンを描き、戦略的に組織を運営する能力です。企業の長期的な目標を設定したり、方針や方向性を示す能力です。
こうしたコンセプトを定めるためには、大局観を持っていることが必要とされますから、社会全体の動向や、組織を俯瞰して見るなどの高い視座が求められます。
経営層に近いポジションほどこのスキルが重視され、大きな決断が求められる場面で重要な役割を果たします。
これらのスキルから分かることは、たとえ現場のプレイヤーとして優秀であったとしても、チームを束ねるためのコミュニケーションスキルが欠如していたり、育成ができないということでは優秀なマネージャーにはなれませんし、優秀なマネージャーであったとしても大局観や高い視座を持っていないと優秀なリーダーにはなれないと言うことです。
それぞれの階層にあった評価制度と人材育成システムとは?
特にゴルフ場のような中小企業においては、各階層に応じた評価制度を導入することで、適切な人材育成が可能になります。
例えば、現場に近いスタッフには技術的スキルを重視した評価が必要ですが、より上位の管理職層や経営層では、部下の育成能力や、組織としての成果を評価項目に取り入れるべきです。また経営層になることが期待されるスタッフに対しては、より大きな目標設定や課題の定義や課題解決ができるかどうかも重要な評価項目になってきます。
このように階層ごとの役割に応じたスキルの評価基準を設定し、それに基づいた教育プログラムを導入することで、長期的な企業の成長が見込めます。
また、人材育成システムも階層に応じて異なるアプローチが求められます。例えば、技術的スキルの強化には専門的な研修が有効ですが、マネジメントスキルの向上にはケーススタディの活用や、コーチによるメンター制度が役立ちます。定期的なフィードバックを通じて、それぞれの役割に合わせたスキルの向上を目指す取り組みが重要です。
管理職の能力不足に悩む中小企業が実践したい良いマネージャーを育てる仕組み
多くの中小企業が、管理職の能力不足を課題に感じています。
これは優秀な社員が必ずしも優れたマネージャーになるとは限らないため、優秀な人を昇進させたはずなのに、組織としての成果が上がらないというジレンマが起こるためです。こうした問題を起こさないためにも、以下のような取り組みを参考にしてみましょう。
カッツモデルに基づくスキルの可視化
現職の管理職や将来のリーダー候補に対して、カッツモデルを使ったスキル診断を行い、どのスキルが不足しているかを明確にする。
メンター制度の導入
経験豊富な上司や外部コーチが若手マネージャーを指導するメンター制度を導入し、リアルな課題解決力を身に付けさせる。
人間関係スキルのトレーニング
特に中小企業では、直接的なコミュニケーションが重要です。対話やフィードバックのスキルを向上させるためのトレーニングを実施する。
概念的スキルを高める教育
経営視点を養うための研修や、外部セミナーや社外活動への参加を奨励し、視野の拡大や視座の昇華を目的として、企業の方向性を示し、戦略的に行動できるようにする。
これらの仕組みを取り入れることで、優れたマネージャーを育成し、組織全体の成長を促進することが可能です。