ゴルファーの満足度を高めるゴルフ場の新しい類型

こちらの記事はUSGA(全米ゴルフ協会)に2021年8月6日に掲載された記事を紹介(意訳)し、最後にまとめとして私なりに日本のゴルフ場のマーケティングについて考察します。

元の記事はこちらです。

目次

ゴルフ場の満足度調査

日本のみならず、世界的にもゴルフ場の満足度が高くないことはよく知られています。
USGAが実施した2018年のゴルファーの体験調査によると、全米のゴルフ場に対する総合的な顧客満足度は69%で、これは行政施設や航空会社に対する満足度と同程度であり、ホテル(75%)やレストラン(82%)などのサービス業界の満足度を下回っています。

全米にある約15,000のゴルフ場の運営による売上は、460億ドルと言われるゴルフ市場の70%以上を占めているため、ゴルフコースの価値を改善し、ゴルファーの満足度を向上させることは産業にとって重要な課題となっています。

USGA Green Section Recordの記事「What a Golfer Really Wants(ゴルファーは本当は何を望んでいるか?)」では、USGAが収集したゴルファーの体験に関する調査の情報を紹介しています。
この記事では、コース選びから施設を出た後の交流に至るまで、ゴルファーのエンゲージメントの5つの段階を掘り下げています。(この記事は後日に紹介します)

この5つの段階には1,000以上のタッチポイント(企業と顧客の情報接点)が含まれており、インタビューやフォーカスグループ(情報を収集するために集められた顧客グループ)への調査によって特定されました。

さらにこの調査では、顧客やメンバーに提供する体験価値に基づいてゴルフ場施設を分類する最善の方法と、ゴルファーの満足度を向上させる要素に焦点を当てています。

ゴルフ場の新たな類型

従来のゴルフ場施設は、クラブ運営スタイル(パブリック、プライベートクラブ、リゾート)、所有/管理形態(中小企業/個人オーナー、運営グループ、自治体、一般社団法人)、ホール数(9、18、27以上)、地域、価格帯、その他の様々な要素によって分類されてきました。

しかし全米ゴルフ協会の研究では、ゴルファーの満足度を評価しベンチマークするための適切なゴルフ場の分類方法は、提供される顧客体験に基づいている必要があることが分かりました。

コースを顧客体験によって適切に分類するために、練習施設の充実度、スタッフのホスピタリティ、ゴルフショップの大きさ、提供される飲食物の数と種類、ゴルフ以外のイベントスペース、社交の場の有無などの特徴を調べました。 
また、ゴルフとゴルフ以外のアクティビティのバランスや、宿泊施設の有無、世界的に有名なコースであるかどうかも、分類の重要なポイントとなりました。

ここでは、6つのセグメントごとに詳しく説明します。

顧客体験に基づく分類

Focused Facilities(限定された施設)

「Focused Facilities」は、最低限の快適性を備えたゴルフコースです。ゴルフ練習施設は限定的(パッティングリーンだけ等)で。ゴルフショップでは、通常、ボール、ティー、グローブなどの必需品のみを販売しています
食べ物は、スナックバーや自動販売機などに限られるでしょう。イベントがある場合は、仮設の建物や多目的施設で行われます。

Enhanced Facilities(優れた施設)

「Enhanced Facilities」では、ゴルフコースにドライビングレンジを備え、チッピンググリーンやバンカー練習場などを備え、所属プロがおりレッスンを受けることができます。スターターやレンジャー(コース内を巡回する案内人)などのコース内サービスが提供されます。
ゴルフショップでは、必需品の他にもコースロゴが入った施設のブランド商品を販売しています。
施設内には、テーブルサービスによるレストランがある場合もあります。また、ゴルフ以外のイベントに使用できる多目的スペースも用意されています。

Comprehensive Facilities(総合施設)

「Comprehensive Facilities」は、ドライビングレンジを含む充実した練習場、完全なラーニングセンター(専任のプロが常駐するレッスン施設)を備え、プレーヤーをサポートするスタッフが常駐しています。キャディを付けることも可能で、年間を通じてゴルフができるように、シミュレーターも用意されています。
フルサービスのゴルフショップでは、コースのロゴ入り商品の他にも最新のクラブやシューズなどさまざまな商品を販売しています。
施設内には複数の飲食店があり、コース上でもコース外で様々なレベルの食事や飲み物を楽しむことができます。ゴルフ以外のイベントのために、バーやフルサービスの飲食スペースを備えるなど、プレー後の社交の場も用意されています。

Lifestyle Facilities(文化的施設)

「Lifestyle Facilities」では、ゴルフの有無にかかわらず、幅広い社交の機会を提供します。水泳、テニス、家族向けの設備など、充実したレクリエーションが利用できるため、ゴルフをしないで施設を利用するお客様や会員の方も多く、ゴルフとゴルフ以外の収入源として大きな効果があります。

Resort Facilities (リゾート施設)

「Resort Facilities」では、総合施設型ゴルフ場の内容に加えて宿泊施設がつきます。コース外でも様々なレベルの飲食オプションが用意され、ゴルフ以外のレクリエーションも充実しており、場合によってはスパも含まれます。
リゾートを利用するお客様や会員の中には、ゴルフをしない人も多く、ゴルフ以外の収入源が大きくなる傾向があります。

Destination Facilities(目的地型施設)

「Destination Facilities」の共通点は、施設の運営形態や立地や規模ではなく、憧れのゴルフ体験を提供していることです。これらの施設は、広く国際的に認知されている一流の施設であり、ゴルファーの心の中で高い地位を獲得しています。
このような施設は、ゴルファーの心の中で高い地位を確立しており、料金やアクセス方法もそれに見合ったものとなっています。

ゴルファーのディスティネーションとして有名な、St.Andrews Resortや、Pebble Beach Resortなどがこうした施設に数えられるでしょう。

類型別のゴルファー満足度の違い

このコース類型を用いて2018年の「Golfer Experience Study(ゴルファーの満足度に関する研究)」で収集したゴルファーの満足度データの統計分析を行いました。

その結果、類型ごとにプレーするゴルファーのニーズには大きな違いがあり、その違いがコース運営に影響を与えていることが分かりました。これらの違いを理解することで施設は特定の顧客に最も影響を与える方法でゴルフ体験を改善することができます。

下記の表は、ゴルファー全体の満足度と、コース上のタッチポイントとカテゴリーに対する満足度を0~5段階で示したものです。

タッチポイント毎のカテゴリー別満足度

全体的な満足度は、Lifestyle Facilities(文化的施設)の利用者が他の3部門のゴルファーよりも統計的に満足度が高く、Comprehensive Facilities(総合施設)の利用者はFocused Facilities(限定された施設)の利用者よりも満足度が高かったです。

個々のタッチポイントについては、従業員のタッチポイントに対する満足度は、施設カテゴリー間で統計的な差は見られませんでしたが、Lifestyle Facilities(文化的施設)とComprehensive Facilities(総合施設)の利用者は、Enhanced Facilities(優れた施設)とFocused Facilities(限定された施設)の利用者よりも、コース演出、フェアウェイの状態、グリーンとティーの状態、サービスに対する満足度が高かった。
Lifestyle Facilities(文化的施設)のゴルファーは、他の3つのカテゴリーの施設のゴルファーよりも、プレーのペースに満足していました。

すべての施設カテゴリーの平均満足度の数値差は「コース演出」 > 「従業員」 > 「全般」 >「グリーンやティーのコンディション」>「フェアウェイのコンディション >「プレーのペース」>「サービス」となっています。

考察

以上の内容が紹介したサイトに書かれていることですが、実際には米国のゴルフ場に向けた「改善の機会」や「具体的に取るべきアクション」が書かれていますが、日本の事情と大きく異なったので割愛しています。

一方でこの記事から私が得た示唆としては、日本のゴルフ場はタッチポイントによる差別化がほとんどないためコース類型が旧来型の立地や運営形態によるものであるということ、もう一つはそのタッチポイントの中でも圧倒的に「コース演出」と「従業員の質」が低いということです。

日本のゴルフ場には類型や差別化という概念がない

1つ目のタッチポイントの差別化ですが、日本のコースを今回のUSGAの分類に当てはめようとしても、おそらく7-8割のゴルフ場がFocused Facilities(限定された施設)に分類され、残りの2-3割のコースもほとんどがEnhanced Facilities(優れた施設)止まりとなってしまいます。Comprehensive Facilities(総合施設)に該当するようなラーニングセンターが備わっていて且つ自社のブランディング商品を取り扱う日本のゴルフ場は私の知る限りでも両手で足りる程度ではないでしょうか。

これは「日本とアメリカではゴルフ文化が違う」と片付けていい話でしょうか?
実際に私を含む多くのゴルファーが海外のゴルフコースに行って感動して帰ってくることは珍しいことではありません。

日本のゴルフ場は演出が足りない

この記事の中でも驚いたのは米国のゴルフ場のゴルフ場の演出に対しての評価が全てのタッチポイントの中で最も高かったこと、そして二番目に高かったのが従業員だったことです。

演出とはわかりやすく言えば、ユーザーの五感にうったえることで、商品やサービス効果的に見せたり、雰囲気を作りあげることで際立たせたりすることです。一般的にはそのためのデザインや装飾を意味しますが、ゴルフ場のロゴやフォント、色や素材、設備の仕上げやサイネージに至るまで、日本のゴルフ場にはそういった「演出にこだわる」という概念が欠けているコースが多いのは事実です。

過剰な演出を毛嫌いする謙虚な国民性というのも多分に影響があると思いますが、来場されたお客様に良い顧客体験を提供することもサービスであると考えると、ゴルフ場を魅力的に魅せる演出も良い1日を過ごしてもらうためのサービスと言えます。

例えばハウス中には注意書きの張り紙やポスターを敷き詰めていないでしょうか?仮に必要なものであったとしても、そうした掲示物に使われているロゴ、フォント、色は統一されているでしょうか?ハウスの内装に使われている素材と家具の素材や色はコーディネートされているでしょうか?

そうした掲示物やインテリアはゴルフ場の魅力やサービスを効果的に魅せることに役立っているでしょうか?

そうした細かな演出への心配りが顧客満足を高め、また演出の一部である従業員の質を高めることにもなるのではないでしょうか?

いま日本のゴルフ場に必要なのは、従業員の接遇研修よりも、演出やデザインの研修かもしれません。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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