月刊ゴルフマネジメント連載#18 日本の組織だからこそ育みたい主体性

ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。

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第18回はのテーマは『日本の組織だからこそ育みたい主体性』です。

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ゴルフ場だけではなく、多くの企業から社員の主体性についての課題が挙がります。「言われたことしかやらない」「自分から動かない」「自分で考えない」などの皆さんの職場にも当てはまることが多いのではないでしょうか?

目次

日本人は主体性がない?

私達日本人は世界的にみると特に主体性がない国民性であるとよく言われます。

紀元前5世紀の弥生時代から稲作に代表されるような「集団」の中で協力しながら生きるというアイデンティティーが育まれ、奈良時代に聖徳太子が制定した17条憲法の第一条は「和をもって尊しとなす」から始まります。日本仏教も儒教の影響を多大に受けたことから、年上や目上の人を重んじるという文化が根づいていますし、江戸時代には徳川幕府による「五人組制度(五人一組でお互いに監視しあう制度)」という相互監視システムが作られ、これが徳川の長期政権に大いに貢献しています。

また日本の高度成長期は重工業(工業製品のモノづくり)で一斉を風靡しており、この頃には働く人々が「言われたことを忠実に実行する」ことで、高品質+大量生産を実現することで世界トップクラスの経済大国となりました。

すなわち私達日本人は紀元前の弥生時代から、高度成長期と言われる1990年までの長い期間において、「個を捨て和を大切にする」ことで幸せに暮らしてきたという成功体験があり、これを失われた30年という年月の中で急に変えろと言われてもなかなか変わらないというのが正直なところです。

さらに日本が太平洋戦争に負けた原因を組織研究の専門家が研究した「失敗の本質」という本の中でも、日本の敗戦の原因はとして「グランドビジョンの欠如」

「科学的検証の不履行」「人間関係と組織融和の過度な重視」が挙げられており、私達日本人にとって「人の顔色を伺う」ことはDNAレベルで染み込んだアイデンティティーとも言えます。

このことから言えることは「うちの社員は言われたことしか出来ない」というのはほぼ全ての日本人に共通する問題と言えるかもしれません。

主体性とは?

では果たして主体性とは何なのでしょうか?

主体性とは「自分の意志・判断によって、自ら責任を持って行動する態度や性質」と書かれています。要するに誰かに言われたからやっているのではなく、「自分がやると決めたからやっている」という状態が主体性があると定義されます。

この前提は「当事者意識」や「自分ごと化」とも言われますが、それを「自分のこととして認識する」、それに自分が関係しているという自覚や責任が芽生えている状態とも言えます。

実際に「主体性なきリーダーシップは存在しない」とも言われる通り、組織や社会全体の課題に取り組むリーダーには必ず主体性が備わっているのを想像するとわかりやすいと思います。

なぜ主体性が大事?

主体性では「自らやると決めた」という前提がある通り、「やる or やらない」の意思決定を自らしているということになります。

私も、おそらく皆さんもこんな経験はないでしょうか?社内で何か新しいプロジェクトが始まったり、課題が見つかったときに「誰かこの仕事をやってくれる人はいませんか?」と言われて手を挙げなかった経験です。「私が言うべきではない」「私よりも適任者がいるだろう」「私は忙しいから余計なことをする余裕はない」、というマインドは文字とおり「組織融和の過度な重視」が引き起こす当事者意識の欠如といえます。

このとき私達の心や頭はどんな状況になっているのでしょうか?

まず私達には損失回避性という性質が備わっています。私達は1の利益や成功よりも、1の失敗や損失を2.5倍高く見積もるという脳の働きを持っています。これは人間の生存本能の一種でリスクを避けるための自然な認知行動ですが、ようするにその仕事によって得られる利益が失敗のリスクの2.5倍以上じゃなければ「やらない」という選択をしてしまうのです(プロスペクト理論)。

そうなると人は自ずと保守的になり、困難な課題や、リスクの高い挑戦を避けるようになってしまうため、成長が止まり、結果的に仕事や人生においてのパフォーマンスが低下してしまいます。

ではその仕事に2.5倍以上の高い報酬を設定すればいいじゃないか?という意見もありますが、報酬(給料やインセンティブ)や罰則などによる外発的動機付けは、内発的動機付けに比べてパフォーマンスや継続性が大きく低下することが科学的に証明されていますし、昇進や評価や報酬をチラつかせないと動かない社員ばかりでは低パフォーマンス高コストの弱い組織なってしまいます。

一方で主体性を軸にした「内発的動機付け」では、行動に対しての自己決定性の高さが学業成績や仕事のパフォーマンス、さらには精神的健康等にも影響を及ぼすという「自己決定理論(SDT:self-determination theory)」として証明されていて、自由選択や自己主導の機会、励ましや肯定的なフィードバックを得られることは、私達の自律性や有能感を促進させ成長に大きく貢献することが分かっています。

このため、「自らやると決めて行動できる社員=主体性のあるメンバー」の育成は成長する企業には必要不可欠であり、これが近年コーチングの重要性が高まっている理由でもあります。

主体性を育む

主体性を発揮する上でその前提となり、もっとも重要なのは「自己肯定感」です。

「間違っても大丈夫」「失敗しても大丈夫」という安心感がなければ、「誰かこの仕事をやってくれる人はいませんか?」と言われて手を挙げることは出来ませんし、「私にはできる」「挑戦によって成長できる」という自分への期待があって初めて、「やってみよう」「挑戦してみよう」と思えるのです。

自己肯定感を高めるためには、この連載の#16でも紹介しているように「相手を批判しない」「相手を褒める」「名前で呼ぶ」「感謝を頻繁に伝える」「相手に興味を示す」といったコミュニケーションが有効に作用することが分かっています。

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もちろん人間ですから、ある日を境に急に人格が変わることはありませんが、このようなコミュニケーションを心がけることで、少しずつメンバーの自己肯定感が育まれ、気づいたら手を挙げてくれる社員が増えてくるというのが私達が目指すべきコーチングです。

主体性を利用した「やりがいの搾取」には注意

一方で昨今は「やりがいの搾取」や「Willハラスメント」という言葉があるように、一部の主体的でやる気がある社員に仕事が偏った結果、その社員が疲弊してしまい、評価を不満に離職してしまうケースもあります。

こうしたケースは個人の「夢」や「やりがい」「意思」を組織や上司が道具化してしまった結果とも言えますが、やはり主体的に行動して成果を出した人には対話を通じて非金銭的報酬(感謝や新たな成長機会)を与えることはもちろん、本人が希望するインセンティブをヒアリングして与えるなどのケアがより一層重要になります。

こうした主体的な社員は会社にとってはかけがえのない資源ですから、より一層の時間をかけて扱うことも人材育成の大切なポイントです。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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