月刊ゴルフマネジメント連載#19 「言っても無駄」という組織にならないために 学習性無力感への対応

ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。

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第19回はのテーマは『「言っても無駄」という組織にならないために 学習性無力感への対応』です。

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みなさんの会社には「私が何をしてもこの職場は変わらない」「うちの上司には何を言っても無駄だ」という空気は流れいていないでしょうか?今回のテーマは「学習性無力感」についてです。

目次

「言っても無駄」、「やっても無駄」の正体は『学習性無力感』

アメリカの心理学者マーチン・セリグマンは1967年に犬を使った実験で、努力することを諦める「学習性無力感」という心理学理論について発表しました。

この実験は犬を2つのグループに分けて電気ショックを与え、グループAはパネルを押すと電気ショックが止まりますが、グループBはパネルを押しても電気ショックが止まりません。 その後グループBは電気ショックから逃れられる状況になっても、電気ショックに耐える行動に出ました。 この他にも同様の実験はいくつかあり、これらから努力しても回避できない状態が長期間継続すると「何をしても無駄」だと学習し、抵抗することさえしなくなるという現象を示すことが分かりました。

このグループBの犬と同じような状況は職場でも起こり得ることがあります。例えば職場環境や業務効率化について提案をしても、否定される状況が続くと、「言っても無駄だ」と認識してしまったり、良い行動や成果に対して全くフィードバックがない状態が続くと「やっても無駄」と思うのがそれに当たります。

学習性無力感が引き起こす問題

こうした学習性無力感は組織に様々な影響を及ぼします。

モチベーションへの影響

学習性無力感は組織や個人のパフォーマンスが低下します。労働意欲が低下し、言われたことだけやれば良いという態度は思考の停止を引き起こし、ミスやクレームも増えて、それがまた自己肯定感に低下に繋がり、モチベーションを低下させるという悪循環に陥ってしまいます。

クリエイティビティへの影響

意見や提案の量が減ってしまうと、組織のアイディアの質も低下します。結果的に組織の創造性や変化に順応する組織能力が低下し時代遅れの組織や人材を多く作り出してしまいます。思考を言葉にするというアウトプットによる自己認識や、そうした対話を通じての個人の成長も阻害してしまいます。

周囲のメンバーへの影響

学習性無力感が引き起こす言動は本人だけではなく、「言っても無駄」という思考や言動が蔓延すると周囲にも悪影響を与え、組織を蝕んでいきます。愚痴っぽい人や、働かない人が多い職場ではこうした状況に陥りやすいので注意しましょう。

離職やメンタルヘルスへの影響

学習性無力感は情緒の不安定やうつ症状への影響も大きいと言われています。それからの退避手段として離職を決断するスタッフも増えてしまいますから、やる気があって意見を積極的に言う社員から辞めてしまうという特に会社は要注意です。

こんな組織は要注意

学習性無力感は上司の否定的なコミュニケーションが引き起こすケースだけではなく、社員の中には無意識のうちに「私はこの場で意見をするべき人間ではない」というような認識を抱いているケースがあります。

特に日本の組織の中には「考えて判断する役割」と「言われたことを実行する役割」に分類されているケースが多くあります。もしあなたの職場で「上の者」と「下の者」や、「事務所の人間」と「現場の人間」というような表現が定着していたとしたらその職場は要注意です。そのような表現が使われる職場の多くは、否定される前から「自分たちは意見をしても無駄」という空気が存在している場合があります。

そうした組織の特徴として、年上や役職者に対して過剰に気を遣う組織文化や、保守的で変化に対して強硬的な組織文化(おそらく多くのゴルフ場がそうではないでしょうか)、またはそうした上司や役員が長くそのポジションに在籍していて組織が固定化されているというケースがほとんどです。あなたの会社はどうでしょうか?

学習性無力感を防ぐには

コミュニケーション量を増やす

学習性無力感が蔓延している組織ほどコミュニケーションの量は低下します。コロナ禍では会食なども減っていますから、職場でも会話の量が減っているところは多いと思います。また一部の幹部だけが会議をやっていて、一般社員は会議にも呼ばれないという会社はそもそも意見表明の場もないという事になってしまうので論外です。今はデジタルツールを活用すれば社内アンケートも短時間で簡単に実施できますし、そのアンケートに全社員が参加しないという会社はまさに「意見を表明しても無駄」という思われているのですから危険信号です。

まずは挨拶や声掛け、肯定的なフィードバック、仕事に対しての感謝を伝える、などの日常的なコミュニケーションを増やすことも効果的な取り組みです。

心理的安全性の確保

前述したアンケートも匿名で行うことで評価や批判にさらされずに意見を言いい易い環境を整えることにつながりますし、会議では役職者や年長者の意見を立てて追随する(空気を読む)ことがないように、まず話し合う前に全員が意見を出してから会議をスタートするなどの工夫も有効です。

実際にクリエイティブで生産性が高い職場では匿名で全体の意見を集約してから会議を始めるというルールを設けているケースや、発言量は役職に比例するというデータが示すとおり、会議などでの発言は偏りがちなので、参加者の発言量を均等にするために発言の少ない人に意見を促すファシリテーターの設置をルール化しているところもあります。

定期的な配置転換や役職者の脱固定化

中でもゴルフ産業は特に若い管理職や女性管理職といった多様性がかなり低い状態にあります。10年以上も部長職や支配人職が続いているいわゆる「固定化された職場」では、ある日を境に社風を変えるというのが難しくなってしまいますから、定期的に社員や管理職の配置転換を行っていくのも重要な仕組みです。

またそうした配置転換や役職者の異動が難しい場合は、会議のメンバーを変えるというのも有効な取り組みになります。「私は会議に呼ばれない = 意見を求められていない」というメッセージになってしまう場合もあるので、で会議の参加メンバーを柔軟にアサインしていくというのも有効な手段となります。例えば部門会議に他部門の管理職に入ってもらうと直属の上司ではないので意見が言いやすいなどの効果が発揮される場合があります。

複雑化する現代は全員で思考と実行をする時代

VUCA時代と呼ばれる現代は正解のない時代とも呼ばれ、いくら経験や知識がある管理職の決断であってもそれ自信がもてなかったり、あるいは価値観の多様化によって顧客のニーズも多岐に渡り、アイデアの数=企業の組織能力となる時代です。そんな時代に「言っても無駄」でルーティーンワークをこなすだけの社員が多い組織と、全員思考型の組織では大きな差が生まれることは明確です。読者の皆様の組織でも学習性無力感の傾向が出ていないかチェックしてみてください。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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