ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第45回はのテーマは『職場の雑談がもたらす意外な効果』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
皆さんの職場では雑談は多いでしょうか?一般的に「雑談」というと、業務に関係ない話をして生産性の低下を招く印象もあり、あまり良いイメージを持たれていないかもしれません。
確かに過度な雑談は仕事の効率を下げる「無駄な行為」である一方で、クリエイティブな発想の源泉と言われたり、相互的な自己開示による信頼関係の醸成とも言われています。
雑談がもたらす効果
雑談は以下のような効果をもたらすと言われています。
関係性の構築
雑談は同僚間の親密さを増やし、信頼関係を築く手段となります。これにより、チームワークが向上し、仕事の効率が良くなることが期待されます。
組織心理学の研究では、職場での雑談が従業員間の信頼感と協力性を高めることが示されています。たとえば”Journal of Applied Psychology” に掲載された研究では、職場の非公式な交流を行ったチームの方がメンバー間の信頼を構築し、協力を促進することが報告されています。実際にGoogleの「Project Aristotle」では、チームの成功の鍵は個々のチームメンバーの技能よりも、「心理的安全性」にあることを判明し、雑談はこの心理的安全性を構築するのに役立つことが示唆されています。
注釈:Project Aristotle(プロジェクトアリストテレス)は、2012年にGoogleが発表した企業向けリサーチで。 生産性の高い「効果的なチームの条件」を調査して、定義づけることを目的とした研究。 古代ギリシャの哲学者・アリストテレスの言葉、「全体は部分の総和に勝る」にちなんで、「Project Aristotle」と名付けられた。
ストレスの軽減
軽い話題や面白い話は、仕事のストレスを和らげ、職場の雰囲気を明るくします。
社会的なサポートはストレス反応を軽減する重要な要素ですが、職場での友好的な雑談は、社会的サポートを感じる一つの方法であり、職場でのストレスの軽減に寄与します。Health Psychology誌に掲載された研究では、職場の支援的な関係がストレスレベルの低下と関連していることが示されています。実際に最近の大手企業では、社員がリラックスして交流できるオープンスペースを設けることでストレスの軽減を図っており、社員が自由にアイデアを交換できる開放的な空間を設計することで、創造性とウェルビーイングを促進することは常識になってきました。
情報の共有
雑談を通じて、仕事関連の有益な情報が自然に共有されることにより、チーム全体の知識が向上する可能性が高まります。
情報科学の分野では、非公式なコミュニケーションが知識共有の促進に効果的であることが広く認識されています。”Management Science” 誌の研究では、非公式な会話を通じて情報が社内で効率的に流通し、イノベーションが促進されることが確認されています。Zappos(“神対応”なカスタマーサービスが大きな話題となったEC企業、他社が真似出来ないような独自の企業文化を築いていることでも良く知られている)は、社内コミュニケーションと情報共有を促進する企業文化を持っていますが、意図的に社員同士が雑談をするような機会を作り出し、知識の共有とチームワークを強化しています。
創造性の促進
新しいアイデアや意見が自由に交わされることで、創造性が刺激されることがあります。
創造性に関する研究では、多様な視点やアイデアの交換が新しいアイデアの生成に寄与することが示されています。多くのヒット作を生み出す映画制作会社ピクサーでは、思考の枠組みにとらわれないよう、異なる背景を持つ人々との対話を重視しており、社員の雑談が促進されるよう、「アトリウム」(建物の内部に設けた中庭風の広場)を囲むように各部署のオフィスを配置し、移動する際には必ずその中庭を通ることで「何気ない会話」を意図的に作り出していることはクリエイターの中では広く知られています。
またデザイン企業のIDEOも、多様な専門知識を持つチームメンバーが自由にアイデアを交換することを奨励することで知られています。
雑談の注意点
一方で真っ先に述べているように、雑談というのは業務を止めてしまうため、生産性の低下を招いてしまったり、些細な会話から逆に関係性が悪くなるというケースもあります。
意図的に雑談を設計する際には以下のようなポイントに注意することをお勧めします。
適切な長さや頻度
雑談とは一般的に仕事の合間に気分転換として行われる5-10分程度の長さでされるものであり、それ以上だと「おしゃべり」になってしまいます。雑談ですから、もちろんしたい時にすればいいのですが、仕事の進行に影響を与えるようなタイミングは避けるようにしましょう。
適切な内容
雑談ですからあまり具体的な仕事の話ではなく、カジュアルな会話を心がけましょう。
趣味の話や、映画や本の話、旅行の話などが良いのではないでしょうか。
参考までに雑談の上手な方のフレームワークとして「きっかけ」というのがあります。これはリーダーがメンバーに関心を寄せていることを示すために声をかける「きっかけ」になる雑談の「きっかけ」としてそれぞれの頭文字をとったもので「キ = 気候」「ツ = 通勤」「カ = 家族」「ケ = 健康」というもので、まずはこれらの話題について自己開示をして、相手に⚪️⚪️さんはどう?と相手に質問をするという雑談テクニックです。
反対に不適切な内容は、政治や宗教など思想に関わる話、個人の悪口や噂話など職場の士気を下げてしまうような会話です。特に不満要因が多い職場ではこの話題に流れて行きやすいので、こうした流れを察知したら流れを止めて「きっかけ」に戻ってみてください。
定期的な雑談の場面を作る
定期的に行われる非公式なランチや、コーヒーブレイクなどはもちろん、従業員同士が自席を離れて集まれるオープンで居心地の良い休憩スペースのような場所があると雑談が促進されます。
またこうした場所は、前述した「アトリウム」のようにあらゆる部門の人がアクセスできる場所であることが理想的です。
とはいえゴルフ場のような業態では部署ごとにピークタイムが異なるため、どうしても部門を横断しての交流が少なくなってしまうので、休場日や業務後の時間を使った交流の場を作っていくことが現実的となります。