ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』さんで、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第29回はのテーマは『チームを育てる。最強のチームの作り方(1)』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
これまでは個人の育成に焦点を当ててきましたが、優秀な個人が集まれば成果が出る組織になるか?というと実はそうではありません。
特にゴルフ場などの大きな施設は一人で運営することはできませんから、部門間の協力が必要ですし、問題を解決したり、新しい取り組みをはじめる際にはチームで意見交換をすることで新しい発想や創造性が生まれ、協働によって生産性があがり、困難な課題や目標も達成可能になります。
「マシュマロ・チャレンジ」で分かったチームワークのコツ
チームワークを評価するワークショップとして有名な「マシュマロ・チャレンジ(乾燥パスタとマシュマロを組み立てて高さを競うシンプルなゲーム)」をMBAホルダー、CEO、幼稚園児、建築家、一般の人などで実験した結果がある。常識的に考えれば、リーダーシップやチームワークを科学的に学んだMBAホルダーか、建造物の構造を知り尽くした建築家か、あるいは常に組織を率いるCEOのチームが成績が良さそうだが、一番成績がよかったのは実は幼稚園児のグループだった。
幼稚園児のグループは「誰が主導権を握り指示をするか」、「どんな計画を立るか」など考えずに、とにかくつくる。まずはマシュマロを乗せて、壊れたらまたつくる。つまり“試行錯誤”をしてダメな点を改善していく“反復型プロセス”を愚直に繰り返す。その結果、もっとも高くマシュマロを積み上げました。
一方で一番成績が悪かったのは数々のケーススタディを学んできたはずのMBAホルダーたちで、彼らはまず「課題」と「目的」を確認して「ゴール」を設定し、誰がリーダーシップを取るべきかを探り合い、手を動かすよりも先に計画と準備に時間を割く。話し合いの末に綿密に練られた計画が、頓挫すると再度組み立てる時間が充分にとれないまま終わってしまいました。
このことから分かることは、優秀なメンバーを集めれば優秀なチームになるとは限らないということです。
見方を変えれば優秀な人材を揃えなくても、いいチームを作ることはできるということです。
強いリーダーではなく、強いチーム
理想のチームの条件とは何か調査していくと、能力に優れたリーダーが率いるチームよりも、帰属意識(自分はチームの一員であるという自覚を持つ感覚)を備えたチームの方が成果を上げることが分かっています。帰属意識をもつためには「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標を持つ」の3つが必要であり、いずれも近年のマネジメントで注目されている要素です。(THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法 より)
安全な環境 = 心理的安全性
「安全な環境をつくる(Build Safety)」は組織論では「心理的安全性」という言葉で表現されます。具体的には自分がその場所にいてもよいという「安心感」、奇抜な意見や、批判的な意見も、ちゃんと聞いてもらえる、むしろ意見の対立は組織として議論を深めより核心へと近づくプロセスであると思えるという状態です。しかしながら私たち日本人は上司や年長者を無条件に敬う文化や、過度に調和を重んじるという文化があるため、会議で違う意見を言ったり、あるいは批判的な意見を言うことに対して抵抗があるというのが本音だと思います。そうした「実は…」という意見は会議の外で言われることが多く、これを会議で発言しても良いという状況を作り出すのもチームを率いる際のコーチの役割と言えます。
弱さの開示
人は誰でも自分の弱みや欠点を他人に知られることに抵抗感があります。できれば知られたくない思うのが本音ではないでしょうか。
一方で私も皆さんも含めて、完璧な人間ではありませんから、欠点や弱みはあります。「弱さの開示(Share Vulnerability)」とは、心理的安全性が確保されている環境下では、強がったり、自分を大きく見せる必要はなく、自分に何が不足しているかを素直に認めることで、チームにいる仲間や外部の人材に適切な支援を求めることができるという状態です。
実はチーム内で欠点を認めにくい組織の特徴として「過度な成果主義」や、「長時間労働を誇示する文化」「仕事最優先」などの男性性が強い職場に多く見られるという研究もあります。
もちろん人として成長や向上を目指していくというのは人生において一つの重要な目標ですが、本来私達には強みと弱みがあり、それが個性や人間性を作り出しています。それの片方を隠すというのはパーソナリティを殺しているということであり、それを認めあい、補い合うことで、チームのパフォーマンスは最大化され、より大きなインパクトを生み出すことにつながるのです。
自分の良さをさらけ出すことは勇気のいることですが、まずはリーダーやコーチ自らが、自分の不得意なこと、苦手なことを客観視し、それを受け入れてもらうということからスタートしましょう。
共通の目標を持つ
「共通の目標を持つ(Establish Purpose)」とは、中期経営計画や年度予算などではなく、より高次の存在目的「パーパス」や「ビジョン」のことです。『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』の中では「理想と現実をつなぐ物語」という表現が用いられていますが、これは組織が実現したい未来と現実とのギャップを埋めるための行動指針ということになります。
実は給料や福利厚生などの待遇よりも、その組織が掲げる「意義」に共感できるかで仕事を選ぶ人が増えているという調査結果が最近発表されて話題になりました(ハーバード大学が2018年11月6日に公開した「職場における意義と目的」の調査で26業種で9割の人が、より意義深い仕事ができるなら、生涯賃金の一部と交換しても構わないと回答した)。
また80%の回答者が、いまの収入が20%上がるよりも、仕事での意義の発見や成功を後押ししてくれる上司を持つほうが望ましいとも回答しています。
このことから分かることは、メンバーにチームの一員として力を発揮してもらうためには、組織の社会的な目的(パーパス)を明確化し、それを内外でしっかりと共有することの重要性が高まっています。
強いチームを作るリーダーの特徴
今回の内容は成果を上げる良いチームには「帰属意識」が必要であり、その帰属意識を醸成するためには「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標を持つ」の3つが必要で、それを意図的にコーチ(リーダー)が作り出すことの重要性を述べてきました。アメリカ軍で優秀なチームに対して行われたアンケートでは「好きな上司は誰か?」という問いに対して、最も票を集めたのは優秀な上司ではなく「気さくなタイプの上司」でした。この気さくな上司は共通して「部下に自分のことを肩書で呼ばせない」「命令するのではなく対話を重視する」「自分の弱みを見せる」などの工夫をしていたそうです。