ゴルフ場のプロショップの類型とマーケティング戦略

いまゴルフ場のプロショップに求められていることは何でしょうか?

アメリカやオーストラリアのゴルフ場でプロショップと言えばそこには所属プロが常駐していて、ゴルフ用品の購入はもちろん、プレーやドライビングレンジのチェックイン、ゴルフレッスン、コンペティションの申し込みなどゴルフに関わるサービス全般を提供していますが、日本のゴルフ場ではボールやグローブなどの消耗品や雨具など、クラブハウスの一角でキオスク的な位置づけになっている印象が強いのではないでしょうか?

一般的には狭いところで10坪前後が標準的ですが、最近では客単価アップのために売り場面積を拡張して商品を増やしたり、大手量販店のインショップ型のプロショップの登場など多様になっており、在庫の増加に従い25坪〜35坪くらいの面積をもつゴルフ場プロショップも出てきました。

目次

ゴルフ場プロショップの類型

ゴルフショップはゴルフ場の運営目的や、立地や広さ、提供するサービスや商品によって大きく4つに分類されます。

Necessary(必要なもの)

ゴルフボール、ゴルフグローブ、ティー、マーカー、キャップ、雨具や防寒具など、プレーに必要なものをマーチャンダイズしています。
プレーに必要最低限の商品を陳列することで、プレーに支障がないように運営されています。
この分類のプロショップでは多くの売上は見込めませんから専任の販売員を置かず、フロントやマスター室などの近くで10坪程度のコンパクトな売り場面積で運営されます。

Optional(選べる)

上記の必要最低限に加えて、ゴルフクラブ、キャディバッグ、アパレル、ゴルフシューズ、ヘッドカバー、その他アクセサリーなどのソフトグッズをラインナップしています。
その名の通り、顧客に選択肢が多く「見る楽しさ」「選ぶ楽しさ」を提供します。
売り場面積にもよりますが、専任のスタッフが常駐している場合が多くなります。

Selected(厳選された)

上記のラインナップに加えて、オリジナル商品やゴルフに関連しないお土産などの商品なども販売しています。

特にゴルファー憧れの「ディスティネーション型」「リゾート型」のゴルフ場では、コースのロゴ入りのオリジナル商品がお土産として売られているケースもあります。
名門コースや、高級ゴルフ場は、量販店などでは打っていない希少な商品や、ゴルフブランドとのコラボレーションアイテムを置くことで、会員サービスにつなげているケースもあります。

Related(関連している)

プレーやレッスンの予約、カフェやラウンジなどが併設しているプロショップで、プレイヤー以外も利用できるような総合型のプロショップで、このタイプになるとクラブハウスの一角ではなく、独立した建物で運営されているケースがほとんどです。

ゴルフ場プロショップのマーケティング

プロショップの売上に影響を与える重要な指標は「来店者数」×「購買率」×「客単価」という3つです。

これら3つの指標に対して適切なマーケティングを行うことで、ゴルフ場はプロショップをプロフィットセンター(収益を生み出すセクション)に変貌させることが出来ます。

プロショップへの来店者数を増やす工夫

なにはともあれ、プロショップに足を運んでもらわなくてはなりません。

最も効果的な来店者数を増やす方法は、プレイヤー導線上にプロショップを配置することです。
ゴルフ場に行くと、ロッカーからフィールドに出る導線上にプロショップが置かれているケースをよく見ます。これは最も効果的な来店者数を増やす工夫ですが、通常ロッカーからフィールドまでの導線上はフロントやマスター室からも遠い(あるいは死角)になっていることがほとんどなので、専任者を配置しなくてはいけません。ですからこの方法でプロショップを運営する場合は少なくとも20坪前後の売り場面積がないとプロショップがコストセンター化してしまうので注意が必要です。

またプロショップの横にソファやテレビを置いてプレー後に立ち寄れるスペースを作ったり、コーヒーの無料サービスを実施やスコアカードを持っていくとそのスコアでドリンクが買える(スコアが90だったらコーヒーが90円で買える)などの特典を付けたり、コンペの商品をプロショップ受け取りにする、ゴルフボールやゴルフシューズのオウンネームサービスや、最新ゴルフクラブの試打イベントなど、顧客がショップに立ち寄る導線やサービスの設計をすることが重要です。

プロショップの購買率を上げる工夫

購買率を上げる工夫はゴルフショップに限らずに「価格」「選択肢」「安心感」の3つが重要と言われています。

価格

海外の会員制ゴルフ場では会員はプロショップでの買い物が常時10-15%割引で買えたり、新作が出るシーズン初旬には新作クラブを割引価格で販売したり、シーズン終わりの在庫処分品を格安価格で買える会員限定セールなどを実施しているケースが多く、これが同時にメンバーベネフィット(会員便益)となり、会員権価格にも影響を与えているケースもあります。

選択肢

選択肢で誤解してはいけないのは、商品の在庫やラインナップが多ければ多いほど良いということではありません。過剰な商品選択肢は消費者にかえって負担になり、購買意欲を抑制してしまう現象(選択のオーバーロード現象)が報告されているように、多すぎる選択肢はかえって購買率を低下させてしまいます。

一方で自分の気に入ったものが置いてないと当然人は買う動機がおきませんから、絞りすぎてもいけません。

選択肢と高倍率の関係については「ジャムの法則」が有名で、一般的には5-9の選択肢(すなわち7前後)が最も高倍率が高いと言われていますが、ゴルフ用品の場合も例えばスペックを揃える必要がないパターなら9種機種を基準にしたり、サイズや色などのSKU(Stock keeping Unit = 在庫管理上の最小品目数)が多いウェアの場合は5ブランドに絞ったりすることで、高倍率を上げることが可能になります。

安心感

最も重要なのは価格と書きましたが、実は消費者はより安く買いたいのではなく、損をしたくない(プロスペクト理論 = 損失回避傾向)というのが深層心理です。出たばかりの新製品が定価でも売れるのは、値下げしない安心感も相まってのことです。
他にも「自分に合っていなかったらどうしよう」という不安に対しては、買取保証や返品保証などをつけることで消費者の安心感を増加させ、購買に繋げることができます。

販売員の接客は商品やサービスの説明により、この安心感の醸成に繋げることが重要です。

プロショップの客単価を上げる工夫

客単価と聞くと、高額商品を売れば良いと考えるのは安直で、高い商品ばかりの店舗では買い物をする意欲が低下してしまいますから注意が必要です。

クロスセル

クロスセルは、例えばシューズを買ってくれたお客様に靴下やパンツを勧める。アイアンを買ったお客様にウェッジも勧める。という具合に既に購入した商品に関連する商品を販売する手法です。

アップセル

アップセルは販売を決めた商品の上位モデルを提案したり、既存商品からの買い替えを提案する方法です。例えば標準シャフトのドライバーの購入を決めたお客様に対してカスタムシャフトを提案するという具合です。

CRM

これらの方法以外にも、まとめ買い、多様な決済手段の提供、顧客管理マーケティング(CRM)によるLTVの向上など、客単価を上げる手法は多く存在しているので、自社のショップ運営のスタイルに合わせて適切な戦略を取ることが重要です。

まとめ

ゴルフ場のプロショップの売上を獲得するためには、まず自社の店舗の条件(立地、人員、面積)などを把握した上で分類を定めること、そして「来店者数」×「購買率」×「客単価」という3つの変数を常に意識しながら、それらに影響を与えるマネジメントのPDCAサイクルを実施していくことが重要になります。

しかし最も重要なことは、売上や利益ばかりにとらわれず、顧客に「選ぶ楽しさ」や「買う楽しさ」をレクリエーション施設として適切に提供することや、会員制ゴルフ場であればメンバーベネフィット(会員便益)として会員にワンストップのゴルフ体験を提供するという、ゴルフ場としての本質的な価値(顧客中心デザイン)を提供することです。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

目次
閉じる