月刊ゴルフマネジメント連載#44 数値化による人事評価の落とし穴

ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。

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第44回はのテーマは『数値化による人事評価の落とし穴』です。

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多くの企業では人事評価制度を設計する際に「好き嫌いを排除し、公平で客観的に個人を評価しよう」という目標が掲げられます。

その背景には、全員が納得するような人事評価制度を作るという使命感や、評価によって生まれる不満を避けるためなど、さまざまな理由や意図が働いています。

その結果として、できるだけ恣意性(個人の印象や思いつき)を排除するための客観的な評価軸として採用されるのが「数字」です。

今回は評価制度としてよく用いられる定量評価(数値による評価)の課題について考えてみたいと思います。

目次

定量評価のメリット

実際に人事評価制度の定量化は多くの企業で採用されています。そのメリットをまずは理解しておきましょう。

透明性と説明責任

評価制度を運用する上で避けて通れないのが、被評者に対する評価の透明性と客観性です。例えば私がもし低い評価を与えられたとしたら、なぜ低い評価になったのか?という問いを上司にするでしょうし、その回答が納得のいかないものだったとしたら不満を募らせてしまいます。

評価者である上司は、常にこの事態を想定しているため、説明責任(アカウンタビリティ)を果たすために、測定基準や指標を設けて他者や平均値と相対的に比較したり、基準を満たしているかどうか、達成度合いなどの測定結果を報酬や配置と紐づけることを是としています。

実際に私たちは子供の頃から、数字による評価に慣れており、テストの点数、通知表、偏差値、体力テストなど、自分の能力や成果を数字で示されることで納得するという習性があるのです。

評価することへの労力の削減

説明責任の他にも数値を評価に取り入れる理由として、人事評価というのは莫大な労力がかかるというものがあります。

賞与のたびに行われる評価面談などがその例ですが、評価者である上司は常に評価するための仕事に多くの時間を割かれています。

数値化というのは、そうした評価の時間を短縮したり簡素化するという目的も含まれており、数値による基準のトップ10%はA評価、下位10%はD評価といった具合に評価の工数を大幅に下げる効果があります。

目標設定が容易になる

定量的な目標は明確に定義しやすく、従業員が何を目指すべきかを理解しやすくなります。またパフォーマンスの追跡が容易で、数値に基づく評価は、従業員の成果や進捗を時間とともに追跡しやすくなるメリットもあります。

このように数値による定量評価というのは、透明性や客観性があり、評価における上司の負担を減らし、評価の理由についての説明も容易であるというメリットがあるため、これらの合理的な判断のもと多くの企業で採用されているのが現状です。

定量評価がもたらす弊害

一方で、こうした数値による評価はさまざまな弊害ももたらします。

測れない成果の見落とし

仕事の質やチームワーク、創造性など、数値化しにくい要素が評価から外れるリスクがあります。

実例としてアメリカで子どもの教育格差をなくす目的で政府主導で行われた教育改革の話があります。その改革の一つに「教師の能力評価によって適切な報酬を配分する」というものがありました。
報酬の基準となる教師の能力を測る方法として正しく数値評価する必要があったため、「教師が受け持つ生徒の定期テストの点数で評価する」ということになったそうです。その結果は成績の悪い生徒を障害者クラスに分類する教師や、点数の改ざんや、答案に不正を加える教師が現れてしまうという結末になってしまいました。「教育」という本来の目的はもちろん、教育格差をなくすための改革が、逆に教育格差を作り出す結果となってしまったわけです。

またこの他にも、ボーナス評価に間に合わせた目標を組んでしまうため、短期的な成果だけを重視してしまう、同僚との競争によるストレスなど、数値による評価は一概に良い結果をもたらすわけではないことを覚えておきましょう。

数値による評価が向いている職場、向いていない職場

企業における評価とは一般的に言えば報酬への反映であり、それは利益を得ることを目的としたビジネスにおいては、利益に貢献した人が相応の分配を受け取るという意味において理にかなっているとも言えますから、会社の成果がチーム全体ではなく個人の能力に紐づくような企業や部署においては定量評価は機能する確率が上がります。

一方でゴルフ場のように、いろいろな部署が連動してサービスを提供し、それが付加価値となっているような職場においては測ることの弊害の方が大きくなるケースがあります。

他者を手伝ったり、励ましたり、助言を与えたり、指導を行ったり、という行為は職場の雰囲気や社風、さらにはチームワークを作る上で必要不可欠ですが、こうした行為や成果は定量化しにくく、また社風やチームワークというのは個人を測ることで把握できるものではありません。

特にゴルフ場のような職場では、働く人たちの雰囲気は重要ですし、会員制のコースでは長く勤める従業員の方と会員との関係性も付加価値の一つですから、こうした職場での定量評価の運用は特に気をつけるべきです。

ゴルフ場が採用したい定性評価

定量評価が測れるものを(すなわち数値)を重視するのに対して、定性評価は数値化できないもので評価する方法です。

コミュニケーション能力、協調性、リーダーシップ、創造性(独創性)、柔軟性(適応性)、などが代表的なものとして挙げられます。

こうして定性評価の項目を挙げてみると、サービス業ではこうした数値化できない項目の方が、相互作用や関係性に影響を与えることがわかります。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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