Future Perspective 2035 日本のゴルフ場が生まれ変わるヒント②:産業への提言編

前回の投稿では、今後のマクロ環境の変化と、それがゴルフ場産業に与える影響を整理しました。

今回の投稿では、課題を整理した上で取るべき対策について考えていきます。

一言に取るべき対策といっても、各ゴルフ場の立地条件によっても異なるのに加えて、事業所単位だけではなく、産業全体で取り組むべき課題も関連してくるため、今回の記事では「事業レイヤー」「産業レイヤー」という2つのレイヤーに分けて考えてみました。

事業レイヤー

事業レイヤーでは先述したマクロ環境を踏まえて「都市型ゴルフ場」「郊外型ゴルフ場」「地方型ゴルフ場」という3つの分類に分けて、それぞれのゴルフ場にとって重要なポイントをキーワードとして考えてみます。

都市型ゴルフ場

都心部に近いゴルフ場では、今後はプレーニーズや会員権ニーズがより高まっていくことが予想されます。

前回の投稿で述べたとおり、日本の人口減少に伴い産業、医療、教育といった社会インフラが脆弱化する地方の過疎化は加速度的に進み、人口は都市部へと集中していきますから、自ずと富や人的資源も都市部へと集中します。都市と地方の格差がさらに拡大するというのがマクロ環境のメインシナリオになります。

実際に都市近郊にあるゴルフ場の会員権相場は2011年をボトムに2024年まで上昇傾向で、関東圏では2020年からの3年間で15%値上がりしています(例:神奈川県の磯子CCは2011年に1100万円→2024年2700万円)。今後も都市部のゴルフ場では需要が供給を上回る状態が続いていくでしょう。

そうした中で、都市部のゴルフ場(おそらく古い時代に開場された立地の良いゴルフ場)はその価値を高めていく一方で、時代のニーズに合わせたサービス開発や設備投資の問題に悩まされることが予想されます。

特に高齢化する会員に向けた乗り入れカートの導入や、それに合わせた散水や排水の整備、カート道の更新、老朽化したハウスの修繕などに多額の投資が必要となり、その原資は年会費などの会員からの支払いによって賄われるため、こうした設備投資に向けた会員組織の合意形成が鍵になります。

そういった予測から、都市部のゴルフ場は、修繕計画(ロードマップ)の明確化による機能的価値の向上、会員のステータスやベネフィットの向上、社会的地位のある会員組織を導くリーダー人材(経営者や支配人)の育成が重要な鍵になると予想されます。

郊外型ゴルフ場

郊外のゴルフ場の定義は、都市中心部から日帰り可能(おおよそ片道60-80分圏内)なゴルフ場を指します。
こうしたゴルフ場の多くは価格と価値の均衡点であり、値下げをすれば集客が可能というコースです。
おそらく3大都市圏にあるゴルフ場の約半数以上はこうした郊外型のゴルフ場であり、近隣コースとの価格競争も厳しいステージです。
もちろんその中でも地方都市に近い幾つかのゴルフ場では厳格なメンバーシップによる都市部型のような運営が可能かもしれませんが、大抵のゴルフ場ではビジター中心の運営を余儀なくされます。

これらのゴルフ場は、少子高齢化と都市集中によって2つの問題に悩まされることになります。一つは前述している通りの労働者の確保であり、おそらくほぼ全てのセクションで人員不足に陥ると思われます。

そして一方で需要については、都心部に近い高価なゴルフ場の受け皿として、価格感度の高い顧客のニーズを満たす大衆向けのゴルフ場として一定の集客は可能で、その価格感応度に比例して利益率が低く、資源のほぼ全てが運転資本や事業運営費に回さますから、常に損益分岐点ギリギリでの運営が長期的に続くことが容易に想像できます。

こうした郊外のゴルフ場の多くは、バブル期(1980年代から90年前半)に開場していますから、ハウスやコースの散水や排水などの大型設備の耐用年数が限界を迎える2025年以降あたりから、数億円規模の設備投資をしてまで事業を継続していくべきかどうかの大きな判断を迫られることになります。

課題の複雑性は高いですが、一つ言える確かなことは、戦略の明確化(差別化 or コストリーダーシップ)が鍵になります。

コストリーダーシップに関しては、すでに大手ゴルフ場グループが「高効率オペレーション」・「集中購買による仕入れ価格の抑制」・「リソース(顧客資産や情報資産)シェア」という規模の経済性を活かした経営を実施しており、単独のゴルフ場オーナー企業がこれを超える生産性を実現することは非現実的であると感じますから、コストリーダーシップという視点で見るとM&Aによる統合や協業が加速する可能性が高いと思われます。

もう一つの基本戦略である「差別化」に対してヒントになるのはスコットランドのエジンバラに2023年夏にオープンしたGolf itかもしれません。
スコットランドの首都エディンバラから80km離れた場所に作られた総合ゴルフ施設で、9ホールのゴルフ場、練習場、フィットネス、カルチャーセンター、レストランなどが組み合わされた複合施設です。
ゴルフだけではなく、地域のお祭りやライブ会場としての活用、女性やジュニアのみを対象としたスクールなど、家族で楽しめるコミュニティ施設として活用されています。

ここで大事な論点として押さえておきたいのは、ゴルフ場施設にも関わらずノンゴルファーやノンプレイヤーを対象としている複合施設、そして9ホールという点です。

18ホールのゴルフ場には50-60万平米の土地が必要ですが、その面積が半分になるとコスト要因の中でも最も大きな構成要素であるコース管理費が大幅に削減されます。

また9ホールプレーは世界的にブームになっており、イギリスでハーフラウンドのスコア提出件数は2014年に7万件、2019年に17万5000件、21年には40万7000件と年々加速度的に増加しており、日本でも鎌倉CC(神奈川)の薄暮ハーフの会員予約は人気枠となるなど、その兆候は世界的にもデータで示されています(R&A Global Golf Participation Report 2023)。

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郊外型のゴルフ場では、人材不足と価格競争に対応する生産性の向上、需要サイドではノンゴルファー獲得によって収益率を高め、事業を維持していく可能性が高まります。

地方型ゴルフ場

地方型ゴルフ場は、先ほどの日帰り圏外にあるゴルフ場です。

こんな事を言ってしまうと酷に感じますが、地方型ゴルフ場で残れるのは限られた一部のゴルフ場になる可能性が高いと思われ、実際にゴルフ場の数が過去最大だった2006年の2356コースから約1割の230コースほどが閉鎖しています。

地方型ゴルフ場では先述しているような労働者や顧客の獲得という課題に加えて、移動(交通)という高い障壁が待ち構えています。

日帰りが可能と言われる片道90分圏を出てしまう場合、宿泊との組み合わせを考慮する必要がありますが、宿泊者を満足させる睡眠や食事への期待値や、こうしたサービスを提供する人材確保は、いちゴルフ場事業者が提供できるレベルを超えています。

こうした地方型のゴルフ場に必要なのは、補完的アライアンスであり、特に「交通」「宿」「食事」などのゴルフの周辺価値は自社ではなく、地域行政や専門企業との連携によって初めて「目的地型ゴルフ場」としての類型が達成されることになります。

国内事例では西酒造がウィスキー蒸留所と併設するゴルフリゾートとして現在再開発している鹿児島ゴルフリゾートも同じくゴルファー以外のニーズを取り込む戦略と言えます。

GDOニュース
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特にジャパニーズウィスキーは世界的な注目度も高く、インバウンドの需要も見込まれることから、地域の観光資源としても活用が期待されます。

こうした連携がうまく進んだ場合、幸いにも日本のウェルネスは世界から注目度が高く、温泉や日本食は特に人気のコンテンツなので、海外からの投資も集めやすく、滞在型目的地として外国人需要も狙えて、付随して外国人労働者の受け入れなどによって供給の問題も解決できる可能性が高ります

実際に日本のゴルフ場での外国人の利用者数は大手ゴルフ場運営会社のデータで3%、北海道や沖縄のリゾートコースでも10%未満だそうですから、まだまだ伸び代はありそうです(日本ゴルフジャーナリスト協会)。

こうした軌道にのらないゴルフ場は、ゴルフ場としての役目を終え、太陽光発電や樹木葬施設などの他業種施設へと変わっていくことになるでしょう。

ゴルフ産業に身を置くものとしては心苦しい未来ですが、産業を健全に残していくために、トリアージは必要ですし、成長の可能性がない産業に貴重な日本の労働資源を引き止めることは国家繁栄にとってもマイナスですから、今ある全てのゴルフ場を残すことを前提とせず、こうした不採算ゴルフ場の事業転換推進も産業維持のための必要処置と考えることは重要です。

産業ステージ

産業ステージでは、一事業所ではなく産業全体、例えば協会や団体単位で取り組むべき課題について考えてみたいと思います。

啓蒙活動改革

現在もあらゆる団体が、ゴルファーを創出するためにジュニア育成などを中心とした活動を実施していますが、その枠組み自体は、「ゴルフを知ってもらう」ことを目的とした活動であり、「ゴルフの需要を創出する」ことを目的とした活動になっていません

これは「非需要創造型マーケティング」と、「需要創造型製型マーケティング」との比較と同じく、前者は認知や販売に重きを置いた啓蒙活動なのに対して、後者は顧客がまだ気づいていない潜在的な価値を軸にした需要創造をするマーケティングです。

誤解を恐れずにいえば、日本のゴルフ人口減少の原因の一つは、不便なドレスコードやプレーカルチャーが原因の一つと認識されているにもかかわらず、その不便さを懸命に若者に伝える創出活動には疑問を感じずにはいられません

具体的にいえば、マーケティングの活動フィールドをゴルフ場や練習場から市街地のインドア施設やゲームセンターに変えることや、人気ファッションブランドとのコラボレーションによって認知を作り出す方が現時点においては合理的な戦略だといえます。

ニューリーダーの登用

2つ目はニューリーダーの登用です。

日本は年上を敬う儒教思想の影響、さらに高度成長期の経済発展が現在の社会基盤となっているため、この時代に成功した世代による既得権益の力が強く、その結果高齢男性中心の執行機関になっていることがほとんどです。

これほどまで改革が必要な時期になっても、人口ボーナス期による過去の成功体験しかない人をリーダーにしても得られる成果はなく、日本のゴルフ産業が今後も堅実に維持発展していくためには、前例のない事業改革が必要であり、その軸となるのはIT、グローバル、ダイバーシティといった現代社会概念を身体感覚で理解しているニューリーダーです。

「ゴルフ業界で幅を利かす先輩を締め出せ!」と主張しているのではなく、若者、外国人、女性、外部産業のニューリーダーを迎え、権限を与え、世代や性別や国籍や業界を超えた対話をしないと、時代に適応できないという現実に向き合う必要があります。

ゴルフ場利用税撤廃のロビー活動

昭和29年に創設された「娯楽施設利用税」の一種ですが、昭和63年に税改正においてゴルフ場以外の娯楽施設の利用税は全て撤廃されましたが、なぜかゴルフ場だけが徴税施設として今もなお残っています。

利用税については過去の投稿でもその必要性の是非について述べています。

次世代へのノウハウの共有

事業所単位でみれば競争優位性の確立は事業の至上命題ですから、自社のノウハウを積極的に外部に公開する企業はいません。一方で、日本のゴルフ場では事業承継によって2世3世という若い経営者も増えてきており、こうした次世代経営者に向けた事業ノウハウの共有は産業全体のレベルを押し上げることになります。

幸いゴルフは商圏が事業所から数十キロ圏内と限定されていますから、遠く離れたコースになら共有しても差し障りがない事業のヒントも多くあると思います。

こうした産業のマネジメント層に先人や高度人材の叡智を共有していくことも協会、団体、メディアなどの存在意義になっていくはずです。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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