文部科学省(スポーツ庁)は税制改正要望でゴルフ場利用税の「廃止」を求め続けてきていますが、未だに実現されていません。
私も利用者としてはもちろん、事業者としてもこの問題に高い関心を持っていますが、この問題はゴルフに従事する私からすると「税金を払いたくない」「ゴルフ産業を発展させたい」という気持ちからポジショントークになりがちです。ゴルフ場利用税は地方税として扱われているので、その歳出先であり、特に今日本が抱えている社会課題である地方創生と合わせて、客観的なデータとともに今回コラムとしてまとめることで、みなさんと一緒にゴルフ場利用税について考えてみたいと思います。
ゴルフ場利用税とは
ゴルフ場の利用者に対し、1日ごとに定額で課せられている税金で、ゴルフ場の等級に応じて1人用あたり800円〜1200円の利用税が課せられています。
ゴルフ場利用税の問題点
冒頭の文科省からの要望にもある通り、「スポーツに税金を課すなんてけしからん」というゴルフ場利用税撤廃の声は年々大きくなっています。他のスポーツに税金はかならないのになぜゴルフだけ税金が?という疑問と、およそプレー代の10%程度に相当する利用税はゴルフ場という産業全体の競争力を低下させている問題があります。また国民の心身の健康につながるスポーツに課税することが、「国民の生命を守る」という国家の目的に反しているのではないかという意見もあり、長く撤廃について議論されているものの、地方の貴重な財源になっているという理由から結論が出ていません。
ゆらぐ徴税根拠
またゴルフ場利用税の徴税根拠は①応益(=地方が整備するゴルフ場に通じる道などから利益が生まれているので相応の負担があるべき)と、②担税力(ゴルフは高価なスポーツなので利用者に担税力があり累進課税同様にそれに即した課税ができる)の2つです。
①に関してゴルフ場は成熟期を過ぎて既に決して高い収益率の事業とは言えない一方で、事業活動によって地域の収益や雇用も生み出すことで投資に見合うリターンを出しています。②に関しても徴税が開始された1950年以降からバブル崩壊の1990年初まではゴルフ場の土日プレー代金は3万円前後と高かったものの、現在のゴルフ場のプレー代金全国平均は諸経費を含めても9000円代とディズニーランドの大人1日入園料9400円と変わりませんから、他のレジャーに比べて決して高価とは言えず、その合理的根拠に対しての疑問が起こります。
一方でゴルフ=富裕層というイメージについて、検索サービスのビッグデータから年収1000万円以上の20%以上がゴルフをやっているという統計もありますが、年収1000万円以上は就労人口の5%以下なので、このうちの20%がゴルフをやっていたとしてもゴルフ人口のうち65万人つまりゴルフ人口約600万人の10%程度ということになります。
地方の財源
ゴルフ場利用税は地方税として財源の乏しい市町村の貴重な財源となっており、ほとんどのゴルフ場が首都圏以外の場所にあることを考えると、その税収(ゴルフ場の数が最も多い千葉県は約40億円)が地域活性の一助になっていることも考慮しなくてはなりません。
一方で千葉県の税収は2兆2000億円。県税収入だけでも約8000億円ありますから、0.5%の構成比が果たして「貴重な財源」と呼べる程度の規模なのかは行政に疎い私達からすると疑問です。
地方創生という社会問題
地方創生とは、都市への一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした一連の政策ですが、なぜ地方創生が必要なのかという事をまずは整理したいと思います。
1.) 資源確保という合理的観点
人が生活や生命を維持するために食料やエネルギーは不可欠ですが、昨今のコロナやロシア問題などからも肌で感じるように、食料やエネルギーの自給は、日本という国が国民の生命と財産を、異常気象や世界情勢から守る上で必要不可欠です。
都心に田んぼや発電所がないことからもわかるように、これらは生産に適した地方で作られており、コストや環境の面から人口密集地との相性がよくありません。
だから、国民の生命と財産を守っている食料やエネルギーの生産に従事する人たちは地方に定住している必要があり、そうした地域に住む人達の生活機能や魅力を維持することが国力の維持向上につながるという観点です。
都市に住む私達が安全で美味しい肉や野菜や魚を食べられているのも、水や電気が安全に使えるのも、あるいは住宅や家具に使われる木材も、それを生産する地域に住んでいる人がいるからなのです。
実際に日本の食料自給率は生産額ベースで67%、カロリーベースで37%となっており、カナダ、オーストラリア、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、イタリアといった先進国と比較してもいずれも相対的に低く、これが国力や国民の幸福度にも影響を与えています。
もちろん現在社会ではその多くを輸入に依存していますが、今回のような有事の際にそれらを国内で生産しているということは、防衛と同じくらい重要だと言われています。
2.) 文化や多様性という社会的観点
例えば旅行という文化も、その旅行先にホテルやレストランや土産物、また伝統的な建築物やまつりなど、そこに住む人達が継承してきた文化があるから魅力的なのであって、それがないと魅力のないただの森になってしまいます。
名物料理や地酒や温泉もその地域の自然や生活様式に根付いたものだから価値があるのであって、その地域の生活=文化が消えるということは、そうした価値ある文化も消えてしまうため、国全体での魅力の低下=観光資源の減少にも繋がります。
またゴルフ場もコース管理や、レストラン、フロントなど遠隔では出来ない仕事が多くを占めているため、地域に人的資源が不足するとゴルフ場が人手不足により経営ができない、あるいは施設やサービスの品質が損なわれる可能性が出てきます。
実際にゴルフ場ではほとんどの従業員が地元出身者であり、私達ゴルファーが日本中の様々なゴルフ場でゴルフを楽しめるのは、こうした地域に根づいた人々がそこで暮らしているからであり、こうした地域の生活の魅力を維持することや、都市以外で住む、働くといった人生の選択肢(キャリアの多様性)という意味でも地域は必要である、というのが社会的観点から見た地方の必要性です。
3.) 地域に住むデメリットと価値のトレード
地方に住んでいる居住者のデメリットを一言で言えば機会の損失です。
教育の機会、就業やビジネスの機会、医療の機会、人との出会い(=恋愛や結婚の機会)、移動や体験の機会が得られない。あるいはこれの延長にある経済的便益が得られないという問題です。
一方で、こうした地方のインフラ機能の維持や、上記に挙げたデメリットの解消には多額の税金(地方交付税は国税収全体の3-4割+市県民税)が使われていますから、地方非居住者にも地方が衰退していくデメリットがあるのです。
皮肉にも、富や機会を求めて人々が都会に向かえば向かうほど、私達は地域で生産された食料やエネルギーの大半を都会で消費し、その一方で都会で生産された富の大半を田舎で分配しているという相互扶助というトレードがあることにります。
地域活性や地方創生というキーワードは一見すると、「地域で暮らす人々のために」と連想しがちですが、実はこうした国力維持を実現しながらも、国税の大部分を占める地方交付税の負担を減らすことは中央政府の課題なのです。
ゴルフ場利用税に関する提言
以上を踏まえて、私は以下の意見を持っています。
・ゴルフ場利用税が制定されたのは1950年で既に70年以上が経過しており、当初の徴税根拠が形骸化している。
・地方創生の観点から地方税収は必要だが、ゴルフ場利用税の歳入構成比は全国的に見ても県税歳入額の0.5-1%(千葉県で県税歳入の0.5%)であり、県税以外も含めた歳入全体でみると0.1-0.3%程度の構成比と推測できる。仮に撤廃しても影響は小さいと考えられる。
・地方創生という観点で見れば、首都圏からの利用者や関係人口が増えたり、その結果企業収益が改善され、雇用が維持されることの方が地方生活者の機会損失の回避につながると考えられる。
・ゴルフは老若男女が楽しめるスポーツであり、運動習慣や、コミュニティの醸成という観点からも他のスポーツに比べて高い参加率が見込めるため、利用料相当にあたる10%程度の料金が下げることで、国民の健康や幸福度にもポジティブな影響があると考えられる。
以上の理由から、撤廃もしくは軽減(特に担税力に相当する部分)を検討するべきタイミングであると考えています。
皆さんは今回の記事を読んでどう感じたでしょうか?
この記事に日本を変える力は無いかもしれませんが、一人でも多くのゴルファーがゴルフと社会との関わりについて関心を持っていただくきっかけになればと思います。