Future Perspective 2035 日本のゴルフ場が生まれ変わるヒント①:マクロ環境編

日本の人口は2035年にはピーク時の2008年から2000万人減少し、1億909万人になる総務省)と言われており、さらに2031年には日本人の平均年齢が50才を超え、2032年には生産年齢人口(15-64才)は7000万人を下回る予想です(厚生労働省)。

参照:国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(令和5年推計)

この極めて実現性の高い「人口減少」という潮流の中で、約10年後の2035年に向けて、今後日本のゴルフ場がどうなっていくのかを予測しながら、ゴルフ産業にもたらす課題を整理し、解決のヒントをまとめてみました。

これらの問題はゴルフ産業に関わらず、多くの国内産業にとって同じ意味を持つと思いますが、ゴルフという余暇産業、あるいは地方産業という視点をもつことで得られるビジョンを皆様と共有できればと思います。

目次

マクロ環境がゴルフ場に及ぼす影響

日本のマクロ環境における課題は、政治、経済、教育など様々ありますが、あらゆる課題の発端となっているのが少子高齢化と断定しても間違いないのではないでしょうか。

少子高齢化の現状

上述したように日本の人口は2008年のピーク時から2035年に向けて約20%減少します。

同じく生産年齢人口もピーク時である1995年の8726万人(69.5%)から、2035年には6343万人(56.6%)に低下しますが、減少率で見ると約28%になります。
1995年当時に比べると近年は労働者の休日や残業に対する規制が厳しくなっていますから、労働力不足は顕著な問題となることが予想され、労働生産性の向上は喫緊の課題となります。

労働供給の問題

不足部門をセクション別に見ていくと、特に「キャディ」と「コース管理」という屋外労働者の不足が顕著であり、すでに全国のゴルフ場の50%以上がコース管理スタッフの不足を認識しており、80%以上のゴルフ場がキャディの不足を認識しています(日本ゴルフ場経営者協会)。

参照:一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会「雇用状況実態調査」報告.jpg

キャディに関してはカートの技術革新によって解決できることが見込まれており、半導体の進化によってバッテリーはどんどん軽量化されることで乗り入れが主流となり、GPSやAIの精度も高まってくるため、キャディ業務の主な役割とされる「クラブの運搬」と「プレーのアドバイス」に関してはほぼ機械化され、キャディという仕事の機能的な必要性は低下してくると考えられます。

一方で、誰かに自分のプレーをケアしてもらっているというホスピタリティを代表とする情緒的な価値は、職業の希少性の比例してエクスクルーシブなコースを中心に引き続きニーズが残っていくと考えられます。

コース管理に関しては、自然相手であるため、生態系に関係する日照、雨量、風向、地形、土壌環境など、変数が多いことに加え、施肥や投薬の知識だけではなく、それをメンテナンスするための重機や灌水設備などの知識も必要で、広範囲にわたる専門知識と長期間のトレーニングが必要であることから、今後ますます希少性が高まっていくと予想されます。

これらの課題の解決のキーワードとなるのは、技術革新と人材のグローバル化への適応ですが、リテラシーや法整備、保守的な国民性や社会思想といった障壁が高く、これらは事業所単位よりも、政策や産業全体での取り組みが必要な課題となります。

消費需要の問題

また顧客であるゴルファーも同時に減少、消費者のほとんどが年金受給者となってしまうと購買力も低下しますから、需要が減少していくという問題も出てきます。

参照:The R&A Global Golf Participation Report 2023

ゴルフは幸いにも競技寿命が長く、他のアクティビティに比べるとこの少子高齢化の状況下において相対的には優位な産業であり、特に日本はコロナ禍で約70万人の新規ゴルファーが誕生(R&A Global Golf Participation Report 2023)するなど、世界屈指のゴルフ大国であり、労働不足問題に対して需要減少の問題はまだ顕在化していないのが現場の実感といえます。

参照:月刊ゴルフマネジメント

実際にゴルフ人口はゴルフブームだった頃の1990年頃の約1200万人から560万人へと半減しているものの、一人当たりのプレー回数は増加しており、ピーク時と変わらない年間約9000万人が利用しています(経済産業省:スポーツ未来開拓会議)。

これはインターネット予約の普及や、プレー料金の値下がりを理由とした「ゴルフの大衆化」が進み、参加障壁が下がってきていることが大きく貢献しています。

一方で、1986年には20代と30代で50%以上を占めていた世代別ゴルフ人口ですが、それから約40年が経った現在では50代以上が50%以上を占め、非課税プレイヤー(高齢者)が増えていることからも分かる通り、日本のゴルフ全盛期にゴルフを始めた人たちが、今後日本人男性の健康寿命である75歳を迎えるタイミングで引退していくことが予想されるため、75才以上の人口が2035年には今の1.8倍になる事を考えると、今後2035年までにゴルフ人口は約150万人程度減少するシナリオを予測しておく必要があります。

人口集中問題

少子高齢化問題が引きこおこしている新たな課題として挙げられるのが、人口の都市部集中問題です。東京、名古屋、大阪の3大都市圏では人口減少時代においても転入超過が続く一方で、それ以外の都市では現象が続いています。

1990年には3大都市圏における総人口割合は48.9%だったのに対して、2020年には51.9%まで増加し、さらに2035年には53.9%になると見込まれています(総務省政策白書:人口集中と過疎化の進展)。

さらに広がる地域需要格差

ゴルフにおけるこれらの最大の課題は、供給面においては地方での労働者不足がより深刻になるということです。
都市部以外の人口割合が低下すると同時に日本の人口自体も減っていくので、地方では需要の低下と労働不足は急激に実感が進むと思われます。

一方で都市部では相対的にゴルフ場の需要が高まっていくことが予想されます。
スポーツとウェルビーイングの関係性は今更言うまでもなく、都心部で中年以降も楽しめるアクティビティは限定されており、且つ年齢や性別を問わず会話を楽しみながらできるソーシャルアクティビティであるゴルフの需要は、特に可処分所得の高い都市部での需要は今後も高まるはずです。

以上のように日本の2035年時点でのマクロ環境を整理したところで、ゴルフ場が認識すべき課題と、今後取るべき対策について考えてみましょう。

(次号は2024年2月15日頃にメルマガにて配信予定です)

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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