日本のゴルフ場が人手不足問題から抜け出すために。米国のMake Golf Your Careerの本気から考える道標

Make Golf Your Thingsはコロナによるパンデミックで勢いを取り戻した米国ゴルフ業界が、「このチャンスをものにしよう!」と設立された業界横断の非営利組織で、USGAやPGA tourなどの業界団体の他、テーラーメイドやキャロウェイなどの用具メーカー、Golf TecやTop Golfなどのサービス企業などもパートナーとして名を連ねています。

Make Golf Your Thingsのパートナー一覧

主な活動として、ゴルフへの参加率が低いセグメント(子供や女性やマイノリティー)に向けた「ゴルフ普及活動」「ゴルフビジネスの新規参入サポート」「ゴルフ業界への求人」を行っています。

中でも注目を集めているのがMake Golf Your Careerで、世界的に不足しているゴルフ業界のワーカー(労働人材)の獲得と、デジタルやアートやバイオテクノロジーなどの高度専門職人材の獲得を目指し、My Journey Golf という求人プラットフォームを運営しています。

https://makegolfyourcareer.org/

これは、コロナ禍でゴルフに参入した若年ゴルファーを、産業の未来を担う人材としても活用していこうという取り組みです。

目次

米国のゴルフ求人の本気度

https://myjourney.golf/

「Make Golf Your Career」の取り組みですが、ゴルフ業界で働きたい若年層に向けて、アプリ内で労働価値観(キャリアバリュー)のアセスメントを実施したり、目標とするキャリアパスのロールモデルとなる人物をメンターにできたり、レジュメの添削をしてくれたりと、まさに至れりつくせりというサービスで本気度が伝わります。

産業の発展には、その産業に貢献してくれる優秀な人材の獲得は必要不可欠ですから、こうして業界団体が一つになり、人材の獲得に資金を投じていることは、産業生き残りのための合理的な意思決定とも言えます。

ゴルフ業界と人手不足の問題

こうした背景にあるのは世界中のゴルフコースで起こっている人手不足の問題です。

人手不足の原因として、コロナ禍で増えたゴルフ人口(R&AやUSGAの調査によると世界のラウンド人口がコロナ前と比較して10%程度増えている)に対して、ゴルフ場などのホスピタリティ産業は、世界的な賃金の上昇や、成長企業の株価の上昇により採用競争力が相対的に弱いことや、地方に位置するゴルフ場は通勤可能範囲での採用が難しいという障壁があります。

また、ゴルフコースやクラブハウスというのは、来場者数に関わらず、サービスの提供や施設の維持に多くの人手を要するため、人手不足が顕在化すると、社員の労働負荷が高まり、その結果ES(従業員満足度)が低下して離職率が上昇するという悪循環に陥ってしまいます。

世界的に最も不足しているのはコースの管理をするスタッフで、次にオペレーターと言われるいわゆる受付やマーシャル(マスター室)のようなスタッフが特に不足していると言われています。

特にインフレが顕著な欧州の一部のコースでは、人手不足により営業時間を短縮したり、サービスを限定しているコースも出てきているようです。

日本のゴルフ求人についても、こうした世界の潮流と同じく人手不足状態ですが、実態はそれよりも遥かに深刻です。

深刻な理由の1つ目は海外のゴルフ場と比較して日本は、ポーター、フロント、風呂場(リネン)、レストラン、キャディなどの欧米のゴルフ場では一般的ではないゴルフ以外のサービスの提供が求められているため、サービススタッフが多くなる傾向にあり、米国の1ゴルフ場あたりの平均従業員数が19.7名に対して、日本は61名と3倍以上も人手をかけてクラブを運営していることになります。

2つ目は、日本の就労人口全体の減少です。
日本のゴルフ場の開業が盛んだった1980年代に成人を迎えた1960年代の出生数(1965年は約180万人)と、現在に成人を迎える2000年代の出生数(2005年は106万人)を比較すると約半数にまで減少しています。

要するに、日本は施設やサービスの提供に多くの人手がかかるオペレーションを、より少ない就労者を安い労働賃金で、行わなくてはならないのです。

これでは労働者もゴルフ場企業も幸福になれません。

日本のキャディ不足問題と、日米のキャディ人材の比較

また日本ではキャディ不足が深刻と言われていますが、民間アンケートによると日本でもキャディ付きプレーは国内で消費される全ラウンド数の20%以下にまで減少しており、おそらく今後もキャディ需要が減少していくことを考えると、セルフ化は不可避と考え、「するか、しないか」ではなく、キャディ付きに慣れた団塊世代が引退するタイミングを見計らいながら「いつするか」の問題と捉えているのが実情です。

また日本のゴルフ場キャディのほとんどが女性従業員(正社員)による労働なのに対して、米国のキャディは92%が男性で、平均年齢は34歳で、63%が白人、79%が大卒というデータからもわかるように、ゴルフ好きの男性が週末に趣味で働くというイメージです。

私も米国で何度かプレーしていますが、たった一度だけ全米オープン開催コースをプレーする際にキャディを頼みましたが、50歳前後の白人男性にバッグを担いでもらい、彼は近くのゴルフ場のメンバーだと言っていました。

週1回のキャディで得た報酬で、ゴルフを楽しんでいると言っていました

日本でも最近は副業解禁の議論が盛んなことや、ゴルフ好きなサラリーマンは多いので、アメリカのようなキャディ人材の登用が、唯一キャディ付きプレーを維持することになるかもしれませんね。

日本のゴルフ場が人手不足問題から抜け出すために

ここまで書いてきた内容から、私は以下の3つの提案が日本のゴルフ場の人手不足問題を解決すると考えいています。

1.) 省力化

受付や精算の自動化、モバイルオーダー、経理や総務などの間接業務のDXによる省力化はもちろん、現在の日本のゴルフ場のほとんどはバブル以前(30年以上前)の開業で、多くの施設が大規模修繕のタイミングを迎えていることもあり、このタイミングで施設そのものを将来に向けて少人数でオペレーションできるように改修したり、あるいはバッグドロップやカートプールなどのバッグの積み下ろしをセルフ化が出来るような導線設計をして、顧客のゴルフ体験に影響を与えることなく省力化していくことが重要です。

省力化と言っても、オペレーションを変える際にはスイッチングコスト(切り替えコスト = 変える手間や費用)が発生しますから、人手や資金が切羽詰まってからやるのは現場スタッフや会社の財布にかかる負荷も増えてしまいますので、余裕のある状態から徐々に行っていくのがポイントです。

2.) 副業人材、高度人材の登用

日本は幸運にも世界で第3位のゴルフ大国であり、ゴルフ好きな就労者が全国に数百万人いますから、優秀なビジネスマンでゴルフの仕事を手伝いたいという方は意外に多いと思います。
米国のようにキャディというのは非現実的かもしれませんが、プロジェクトワーカーとして上記のようなオペレーション改善を依頼したり、DXに長けた方をプロジェクトリーダーとして迎えたり、あるいはリクルーターとしてリファラル求人を依頼することも可能かもしれません。

特に組織融和を過度に重要視する日本の社会では、大胆な改革をする際にはコミュニティの外にいる人にリーダーシップを発揮してもらう方がうまくいくことは戦後の歴史や、企業の改革からも証明されているので、ここは改革意欲のあるリーダーによる社内の合意形成や意図的な人事が必要な部分だと思います。

3.) 企業や団体が一致団結してゴルフ文化を変革

日本のゴルフ場の最大の問題はユーザーが「当たり前と思っているサービス」に人手がかかりすぎることです。
自家用車やカートへのバッグの積み下ろし、チェックイン、ロッカーの利用、フルサービスのレストラン、大浴場、キャディなど、欧米ではごく一部の超高級プライベートコースかリゾートコースでしか提供されないようなサービスを1万円以下で提供しているという時点でビジネスとして無理があります。

これでは従業員の賃金はいつまでたっても上がりませんし、賃金が安く多くの仕事をやらされる職場で離職者が増えるのは必然です。かといってどこかの1コースがこれを廃止すると「なぜこのコースでは○○しないんだ」とユーザーから不評をくらってしまい事業として存続できなくなってしまいます。

顧客教育も含めて、冒頭のMake Golf Your Thingsのように、団体や企業が一致団結して、こうした時代錯誤のサービスを廃止し、産業が持続的に発展するための啓蒙活動が求められています

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

目次
閉じる