2024年11月にオーストラリアを代表するゴルフ場「The Royal Melbourne Golf Club」と「Kingstone heath golf club」を訪問しました。
現地では、プレーだけではなく、メンバーやスーパーインテンダントとも交流を通じて様々なエピソードを聞いてきました。世界屈指の会員制ゴルフ場の運営を知ることで、日本の会員制ゴルフ場にも参考になればと思います。
オーストラリアを代表する2つの名門ゴルフ場
オーストラリアサンドベルトとは?
オーストラリアのメルボルン近郊には、「サンドベルト」と呼ばれる世界的に有名なゴルフコース密集地域があります。
サンドベルトとは、その名の通り砂質の土壌をベースにしたベルト地帯のことで、メルボルン市街地の南東部を中心に国際的な評価が高い有名ゴルフコースが連なっています。
サンドベルトが評価される要因は、まず独特の砂質の土壌が排水性に優れ、フェアウェイやグリーンを常に最高のコンディションで保ちやすいことから、コース設計者たちが戦略性と自然環境を巧みに調和させ、プレーヤーに対して高いゴルフ体験を提供している点も大きな魅力です。
サンドベルトの地形はコースメンテナンスにも適しており、フェアウェイからラフ、そしてグリーン周りのバンカーや植生に至るまで、自然の持ち味を生かしながら整備しやすいのが特徴です。
これはアメリカやヨーロッパの名門コースとも一線を画すオーストラリア独自の個性となっています。
日本でも近年「リンクス風」や「サンドベルト風」のコースが人気を集めつつありますが、世界中のゴルファーから高い評価を受ける“本場”のサンドベルトは、一度プレーしてみると、その個性がはっきりわかります。
ロイヤルメルボルンゴルフクラブ
そんなサンドベルトを代表する存在が、オーストラリア最古の名門クラブの一つであるロイヤルメルボルンゴルフクラブ(The Royal Melbourne Golf Club)です。
設立は1891年に遡り、オーストラリアはもとより、世界のゴルフクラブの歴史を語る上でも欠かせない存在とされています。
現在は「イーストコース(East)」と「ウェストコース(West)」の2コースを有しており、なかでもウェストコースは名コース設計家であるアリスター・マッケンジーによって設計された傑作として知られ、ボビー・ジョーンズが設立したオーガスタナショナルの建設や、世界最高峰のゴルフコースと言われるサイプレスポイントの建設にも影響を与えたと言われ、世界のゴルフコースランキングでも常に上位に位置づけられています。
ロイヤルメルボルンのコースの特徴は、豪快さと繊細さが見事に調和され、フェアウェイはゆったりと広いものの、最適な落としどころを見極めないとセカンドショットで深いラフや絶妙なバンカー配置に苦しめられるため、プロからアマチュアまで戦略性を楽しめるストラテジックデザインのお手本とも呼べる設計となっています。
また、グリーンのアンジュレーションやスピードも国際基準でもトップクラスに仕上げられており、メンバーはもちろん、世界中のツアープロも絶賛するほど高い完成度を誇ります。
ロイヤルメルボルンはPGAツアーやプレジデンツカップなど数々の国際大会の舞台となってきました。
これらのビッグトーナメントを通じて多くの名勝負が繰り広げられ、その歴史がコースとクラブの格をさらに高めてきたのです。
キングストンヒースゴルフクラブ
サンドベルトにはもう一つ忘れてはならない名門ゴルフクラブがあります。
それがキングストンヒースゴルフクラブ(Kingston Heath Golf Club)です。
1909年に設立され、クラブハウス移転などを経て、現在のコースは1925年に完成した現在コースは、設計者はダン・サトクリフで、マッケンジーが監修に携わったことで知られています。
キングストンヒースはロイヤルメルボルンに比べるとコース自体はコンパクトですが、その戦略性は「サンドベルト随一」と評する声も多いほどの完成度を持っています。
最大の特色は巧みに配置されたバンカーで、どのホールも視覚的かつ心理的にプレーヤーにプレッシャーを与えます。しかし、適切なルートを見極めることでパーやバーディも狙えるように設計されており、ゴルフの“リスクとリワード”を楽しめるコースと言えるでしょう。
キングストンヒースもこれまでにオーストラリアンオープンやゴルフワールドカップなど多数の国際大会を開催してきました。メルボルンの名門クラブとして、その地位を不動のものとしています。
会員とクラブの共創が作り上げる名門ゴルフ場
ロイヤルメルボルンやキングストンヒースのような国際的にも歴史あるクラブでは、メンバーがクラブの文化や伝統を「継承」しながら発展させていくことが何よりも大切だと考えられています。
日本でも会員制ゴルフ場は珍しくありませんが、両クラブが実践するメンバーシップは、単なるステイタスだけでなく、コースやクラブの価値向上に直接的に寄与する仕組みとして機能している点が特徴です。
まず注目すべきは、新規メンバーの選定プロセスです。
多くの名門クラブでは既存のメンバーからの推薦や、ステータスの審査が必要となりますが、ロイヤルメルボルンやキングストンヒースの場合は、単に財力や社会的地位で判断するのではなく、「クラブの伝統や文化を理解し、積極的に参加する意志があるか」が重要視されています。
新しく入会したメンバーは、先輩メンバーからクラブの歴史や価値観、プレーファストやコース管理への配慮など、ゴルファーとして、そして“クラブの一員”として守るべきマナーや理念を継承していくために、一定のウェイティング期間を経て、その期間に何度もメンバーとプレーをすることが必要だそうです。
実際に私たちがプレーした際にも、キャディはロイヤルメルボルンのメンバーであり、海外からのゲストに対してメンバーがコースの歴史や特徴を説明しながらプレーしてもらうことで、その文化や伝統を発信するという役割をになっています。
こうした文化はその家族であるファミリーメンバーにも継承されており、キングストンヒースでもキャディはロイヤルメルボルンメンバーの家族会員である娘さんでした。
質問してみたところ、サンドベルトの名門コースではこうしたメンバーによるボランティアキャディのグループがあり、そのグループの中で持ち回りで各コースのキャディをしているとのことでした(そのためこれらのコースではビジターの受け入れは曜日が限定されています)。
また、メンバー自体が運営や改善に意見を出し合う機会が設けられているのも、両クラブの特徴で、コースメンテナンスやクラブハウスのリノベーションなど大きな方針を決める際、クラブとメンバーが対話しながら“共創”していくプロセスは、クラブの将来ビジョンを共有するうえで非常に重要な役割を果たしているそうです。
実際にロイヤルメルボルンでは、新しい練習場建設の際に、景観への配慮から地下に駐車場を作ることになり、メンバーから多額の寄付が寄せられたそうです。
こうしたメンバー間のコミュニケーションが活性化しているからこそ、長い年月を経ても変わらぬクラブの魅力を保てるのです。
伝統と革新の融合
名門クラブであるがゆえに、伝統や格式を重んじる姿勢が強いのは言うまでもありません。
しかし、ロイヤルメルボルンやキングストンヒースでは決して守りに徹しているわけではなく、積極的に最新のテクノロジーやアイデアを取り入れ、コースや施設を常にアップデートし続けています。
一例としてロイヤルメルボルンでは、 気候温暖化に対応するために、雨の少ないオーストラリアで水を確保するために、海水を真水に濾過する装置の導入、各スプリンクラーが個別に稼働するバルブインヘッドスプリンクラーも導入し効率的な水管理を行うだけでなく、グリーンの更新作業を従来のコアリングではなく、ロイヤルメルボルンメソッドと言われる方法を採用するなど、たゆまぬ技術革新を進める一方で、グリーンの芝種を先端の改良品種から旧来のオリジナルに戻すなどの原点回帰にも取り組んでいます。
また、どちらのクラブも練習設備やクラブハウスのレストラン、ロッカールームなどは定期的に修繕が行われ、メンバーとゲストの双方が快適に過ごせる空間づくりを大切にしています。
特筆すべきは、こうした設備投資や運営方針の変更にもメンバーの意見が大きく反映されることです。
たとえば、若年層のゴルファー育成やジュニアプログラムの充実を目指すプロジェクトでは、伝統的なクラブでありながら、未来の会員層を育てることに力を入れています。クラブの排他性を高めるのではなく、門戸を広げることで「伝統を壊す」のではなく、「クラブが培ってきた価値観を共有しながら、どう新しい世代に継承していくか」を重視しているのです。
この「伝統と革新の融合」は、名門クラブのメンバーシップ制度にとって非常に示唆的です。
日本の多くのゴルフ場でも、会員の高齢化や競争環境の変化による経営課題が浮上していますが、そこに必要な発想は「新規会員をどう取り込むか」だけではなく、「新旧メンバーが一体となってクラブの文化を育み、新しいゴルファーに伝えていく仕組み」を整えることではないでしょうか。
まとめ
オーストラリア・メルボルンのサンドベルト地帯に位置するロイヤルメルボルンゴルフクラブとキングストンヒースゴルフクラブは、世界屈指の名門として長い歴史と高い評価を獲得してきました。
その背景には、恵まれた土壌や環境、コース設計の妙、最高峰の人材といった要素に加え、「メンバーシップ」を通じてクラブの文化と価値を守り育てる仕組みが存在します。
単に資金力やステータスがある会員を集めるだけではなく、クラブの理念や歴史や文化、そしてマナーを理解し、自ら主体的にクラブ運営に参加していく姿勢のあるメンバーを増やしてきたことが、これらのクラブを何十年、何百年も支えてきた大きな原動力です。
そして、伝統を大切にしつつも、時代の変化や新しい技術革新を積極的に取り入れ(ちなみにどちらのコースも完全キャッシュレスでした)、さらには若年層の育成にも積極的に取り組むことで、クラブとしての魅力をさらに高めています。
日本のゴルフ場経営では、会員制ゴルフ場は、どうしても「入会金」や「ステイタス」などの外形的要素によるフィルタリングが注目されがちですが、これらの名門クラブのようにメンバーが自発的にクラブ文化を継承し、さらには進化させる場となれば、そのゴルフ場の価値はさらに高まるでしょう。
クラブハウスやコースの定期的な修繕や改修はもちろん、会員間のコミュニケーション機会を増やし、お互いに情報交換や議論を重ねられる「文化の整備」をすることこそが、真の「名門」への道と言えるかもしれません。
「世界屈指の名門クラブ」と呼ばれるコースのメンバーは、単なるお金持ちというイメージよりも、メンバーの強い連帯感とクラブに対する誇り、貢献する意欲がひしひしと肌で伝わってきます。この姿を目の当たりにするたびに、改めてゴルフクラブの本質とは何かを考えさせられます。
まさに会員とクラブの共創こそが、唯一無二のコースを育む源泉となっているのです。
日本のゴルフ場においても、こうした取り組みをヒントに、これまで以上にメンバーと運営側の結びつきを強化し、クラブとしてのアイデンティティを深めていくことが、今後のゴルフビジネスをより明るいものにするのではないでしょうか。