ゴルフコース設計の祖、アリスター・マッケンジーが残したゴルフコースの設計の心得13ヶ条とは

イギリスの伝統的なゴルフメディアLINKSに掲載されていた「The Value of Variety in Golf Course Design(ゴルフコースデザインにおけるバラエティーの価値)」という記事が目に止まりました。

アリスター・マッケンジーや、ドナルド・ロスといった歴代の名ゴルフコース建築家はもちろん、現在ゴルフコース設計家として活躍するトム・ドークや、ビル・クーアなども18ホールの中で、さまざまなホールが存在していることの重要性や価値を説くとともに、一方でバラエティーを追求するあまりに自然の造形や景観を変えてしまうとその場所の魅力を失ってしまうことへの懸念から、設計家はそのバランスを見極めることが重要であると語っています。

また以前にこちらに寄稿させていただいた、ゴルフコースの評価基準でもデザインのバラエティーやメモラビリティについては加点に繋がることが示されており、「良いゴルフコース」の基準は実は100年以上の昔から変わっていないことが分かります。

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良いゴルフコースってどんなコース?世界トップ100ゴルフコースの評価基準について | 住地倶楽部
良いゴルフコースってどんなコース?世界トップ100ゴルフコースの評価基準について | 住地倶楽部米国ゴルフマガジン誌が、2年に1度発表するゴルフ場ランキングは世界中のゴルフ関係者が注目しています。 http

そこで、今回はオーガスタ・ナショナル、サイプレス・ポイント、ロイヤル・メルボルンといった世界的に有名な傑作したアリスター・マッケンジーがキャリア絶頂期である1920年に書いたゴルフコースデザインの古典「Golf Architecture: Economy in Course Construction and Green-Keeping by Alister MacKenzie」に書かれているHallmarks(良いものと言える証明)をサマリーしながら、ゴルフ場デザインについて考えてみたいと思います。

マッケンジー博士のゴルファーへの想い、特に初心者から上級者まで誰もが楽しめるコースにするためにしていたことが良く分かります。

目次

Golf Architectural Hallmarks 13th(良い設計であることを証明する13ヶ条)

1. The course, where possible, should be arranged in two loops of nine holes.

コースは可能な限り、9ホールを2つのループに配置する。

2. There should be a large proportion of good two-shot holes and at least four one-shot holes.

2ショットのホールが多く、1ショットのホール(Par.3)が少なくとも4ホールあること。

3. There should be little walking between the greens and tees, and the course should be arranged so that in the first instance there is always a slight walk forwards from the green to the next tee; then the holes are sufficiently elastic to be lengthened in the future if necessary.

グリーンと次のティーの間はほとんど歩かず、まずグリーンから次のティーグラウンドまで、常に前方に少し歩くようにコースを配置すべきである。各ホールには十分な弾力性があり、将来必要に応じて延長されることが可能である。

4. The greens and fairways should be sufficiently undulating, but there should be no hill climbing.

グリーンとフェアウェイには十分なアンジュレーションが必要だが、急な登り坂があってはならない。

5. Every hole should be different in character.

全てのホールは異なるキャラクターであるべき。

6.There should be a minimum of blindness for the approach shots.

グリーンを狙うショットのブラインドは最小限であるべき。

7.The course should have beautiful surroundings, and all the artificial features should have so natural an appearance that a stranger is unable to distinguish them from nature itself.

コースは美しい環境に囲まれ、人工的なものはすべて、自然そのものと見分けがつかないものでなければならない。

8. There should be a sufficient number of heroic carries from the tee, but the course should be arranged so that the weaker player with the loss of a stroke, or portion of a stroke, shall always have an alternate route open to him.

ティーからの勇敢なキャリーが必要なホールは十分な数あるべきだが、ストロークを失ってしまう弱いプレーヤーには常に別のルートが開かれているようにコースは配置されるべきだ。

9.There should be infinite variety in the strokes required to play the various holes, that is, interesting brassie shots, iron shots, pitch, and run-up shots.

さまざまなホールをプレーするのに必要なストロークには無限のバリエーションがあるはずだ。それはつまり、面白いロングショットや、アイアンショット、ピッチショット、転がしあげるようなショットだ。

10. There should be a complete absence of the annoyance and irritation caused by the necessity of searching for lost balls.

紛失したボールを探さなければならないことによる煩わしさや苛立ちは完全に無い方がいい。

11.The course should be so interesting that even the scratch man is constantly stimulated to improve his game in attempting shots the has hitherto been unable to play.

スクラッチプレイヤーでさえも、今までできなかったショットに挑戦し、常に自分のプレーを向上させるように刺激される、興味深いコースでなければならない。

12. The course should so be arranged that the long handicap player or even the absolute beginner should be able to enjoy his round in spite of the fact that he is piling up a big score. In other words, the beginner should not be continually harassed by losing strokes from playing out of sand bunkers. The layout should be so arranged that he loses strokes because he is making wide detours to avoid hazards.

コースは、ハンディキャップの多いプレーヤーや、全くの初心者が大きなスコアになってしまったとしても、ラウンドを楽しむことができるようにアレンジされていなければならない。
言い換えれば、初心者がバンカーからのプレーでストロークを失い続けるようなことがあってはならない。ハザードを避けるために大きく回り道ができるようなレイアウトであるべきなのだ。

13. The course should be equally good during winter and summer, the texture of the greens and fairways should be perfect and the approaches should have the same consistency as the greens.

コースは冬も夏も同じように良く、グリーンとフェアウェイの質感は完璧で、グリーン周りのアプローチエリアもグリーンと同じ一貫性がなければならない。

良いコースにするために

日本のゴルフ場が世界基準で良いコースになっていくために、どんなことが出来そうでしょうか?

以前にこちらの記事でも書きましたが、日本のゴルフコースは基本的にペナルデザインとフリーウェイデザインでほとんど構成されています。

その結果、初心者にとって難しい(狭い&池や谷超えが多い / IP = INTERSECTION POINT周辺にバンカーが多い)というレイアウトが多くなり、それが顧客体験価値の低下を招いていることは事実です。

もちろんコースというハードを改造するとなると莫大なコストがかかってしまいますが、そのような大規模改修でなくても、以下のような小さな工事でもプレーアビリティの改善を期待できます。

・グリーンを狙う時に邪魔になっている樹木を伐採する。
・初心者にとって厳しく、上級者に意味をなしていないバンカーを撤去する。
・グリーン周りのラフをフェアウェイに変えてパターでも寄せられるようにする。
・池超えや谷超えでは迂回ルートを用意する。
・オーバーハンギングリップバンカー(顎が高く切り立ったバンカー)は、手前や横のバンカーエッジをフェアウェイと同じレベルにして初心者でも横や後ろに出せるようにする。

100年以上前に考えられていた「ゴルフが長く親しまれるスポーツであり続けるためには、誰もが、いつでも楽しめるフィールドであるべき」というマッケンジー博士の思想は、今もなお「良いコースの基準」として世界中のゴルフコース設計の物差しになっています。ぜひ参考にしてみてください。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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