バンコクのBan Rakat Club – Ballyshear Golf Links が目指すゴルフの原点

2021年にバンコクにオープンしたバンラカットクラブ-バリーシアゴルフリンクス-への視察の機会をいただきました。

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Ban Rakat Clubとは

リオデジャネイロで開催されたオリンピックで会場となるゴルフコースの設計を手掛け、日本では東京ゴルフ倶楽部の改修や、世界トップ100コースの中でも古典的デザインとして評価の高いキャッスル・スチュアート・ゴルフ・リンクス (Castle Stuart Golf Links)などの設計を手掛けた現代のトップアーキテクトの1人Gil Hanse(ギル・ハンス)氏が東南アジアで初めて手掛けたプロジェクトです。

プレーしたのが早朝の涼しい時間帯だったこともあり、タイでは希少なクラシックなデザインのリンクスコースは、まるでタイにいることを忘れてしまうような体験でした。

実はこのコース、アメリカのゴルフ設計の祖と言われ、Shinnecock HillsNational Golf Links of America他多数のトップ100コースのデザイナーとして知られるCharles B. Macdonald(チャールズ・ブレア・マクドナルド)が初めてアメリカで本格的リンクスとして設計した「リドークラブ(Lido Club)※」をモチーフとしており、ゴルフコース設計の源流的哲学を踏襲した、まさにゴルフの原点(クラシックスタイル)とも呼べるゴルフコースです。

※1917年にオープンし、ウォルターヘーゲンは、Lido Clubをナショナルゴルフリンクス、パインバレーと並ぶゴルフの「ビッグスリー」と評価し、世界で最高のゴルフコースデザインと言われたが、第二次世界大戦中にアメリカ海軍にその土地が没収され閉鎖した幻のゴルフコース。

コースの名前にもなっている「Ballyshear」はC.B.マクドナルドが住んでいた自宅の名称であり、その名からも想起される通り、このコースをプレーする時には、コース設計者の自宅にお邪魔しているような気分で、その語りに耳を傾ける必要があります。

C.Bマクドナルドの設計哲学

C.Bマクドナルドの設計哲学で最も重要な点は、「上手いプレーヤーの力量をテストする一方で、平均的なプレーヤーには良いスコアを出すためのルートと選択肢を与える」というものです。
実際にBan Rakat Clubを何度もプレーすると、実は幾つもの攻略ルートが用意されていることに気づきます。

C.B.マクドナルドはそうした設計哲学に基づき、自身の設計コースにゴルファーの技量をテストするための21の異なるホールデザインテンプレートを駆使したことでも知られており、アルプス(Alps)、ダブルプラトー(Double Plateau)、ロードホール(Road Hole)、エデン(Eden)レダン(Redan)、パンチボール(Punch ball)などの代表的なグリーンテンプレートは今もなお、世界中のゴルフアーキテクトが目指す手本となっており、それらがふんだんに取り入れられた伝説のLido Clubを現代で最高のアーキテクトの1人であるGill Hanseが蘇らせた作品とも呼べるコースは、腕試しをしたいゴルファーには最高の場所です。

コース設計の基本的な4つのコンセプト

このコースをさらに楽しみたいマニアックな方は、まずゴルフコース設計の基本的な構成を知る必要があります。18ホールから成るゴルフコースは大きく分けて4つのコンセプトによって構成されます。(参考:https://youtu.be/Ro5RpoxP1w0

ストラテジックデザイン

幾つもの攻略ルートが設定されていて、ゴルファーの技量や目標とするスコアに合わせてルートが選べるようになっているコースデザインコンセプトです。

小さなマウンドやウェストエリアでルートが分けられたBanrakat Clubのティーイングエリアからはどのホールも複数のルートを感じることができる
(ストラテジックデザイン)

ペナルデザイン

両サイドにハザードを配置したり、あるいは谷越、池超え、左右OBなどミスを許容しない(ペナルティ=罰)を感じさせるデザインコンセプトです。

少しのミスが罰(ペナルティ=池、OB、バンカー)につながるデザイン
(ペナルデザイン)

ヒーロ一イックデザイン

スーパーショットを引き出すデザインで、リスクとリワードを最大限に活用し、1オン可能なPar4や、ショートカット可能な池超えなど、スリリングなショットとそのショットに成功した場合の大きなリワードを取り入れたコンセプトで劇場型ゴルフコースでよく使用されます。

その名の通り1ショットで英雄になれるデザインはテレビ中継でもドラマチックな映像が撮れる
(ヒーロイックデザイン)

フリーウェイデザイン

ティーからグリーンまでが真っすぐで、リスクリワードを感じさせず、ルートの選択肢も少ないデザインコンセプトです。

日本のコースのほとんどは山林を造成してコースが作られたため、ティーからホールをまっすぐに作り、フェウェイの左右とグリーンの左右奥にバンカーを配置して難易度を作り出すデザインが必然的に多くなる
(フリーウェイデザイン)
https://brc.co.th/jp/about/concept.php

欧米ではストラテジックデザインとヒーロイックデザインを組み合わせたコースが多く、日本ではペナルデザインとフリーウェイデザインを組み合わせたコースが多いです。

これはスコットランドでゴルフを学んだ欧米の設計者たち(C.B.マクドナルドの他にも、アリスター・マッケンジー、ヘンリー・コルト、ドナルド・ロスら)がゴルフの原点とも言えるこうしたデザインを好んで使用した一方で、日本は井上誠一や上田治ら初期の設計者が日本の山岳地形の制約からペナルデザインとフリーウェイデザインを多く用いたことで、これらが日本のゴルルコース設計のスタンダードになってしまったことが原因と考えられています。

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実際に日本のコースをプレーしていると、その多くは真っ直ぐなフェアウェイに左右にバンカー(またはOB)があり、グリーンには左右奥と3つのバンカーが配置されているホールが多いことに気づきます。これらは典型的なペナルデザインやフリーウェイデザインです。

また日本でゴルフ場開発が進んだ1980年代にはテレビ中心の時代だったこともあり、日本の一部のコースでは劇場型とも言われるヒーロイックデザインで一斉を風靡したR.T.ジョーンズやピート・ダイらのコースを見ることが出来ますが、世界的評価が高い本格的ストラテジックデザインのコースをプレーする機会は少ないのが現状です。

Ban Rakat Clubはストラテジックデザインが多く採用されており、ほぼ毎ホールに必ず攻略ルートが隠されています。
ティーショットから見えるハザードまでの距離や位置、セカンドショットから見えるレイアップエリア、グリーンの形状や向き、そうしたコース設計をの意図を感じながら楽しむためのコースは、本物のゴルフを楽しみたいゴルフ通におすすめのコースです。

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この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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