先日ヨーロッパ設計者協会の前会長の「Tim Lobb氏」の紹介で、GEO(Golf Environment Organization)の「Sam Thomas氏」と、ランドスケープデザイナーの「Andrew Slater氏」と、ゴルフ場の持続可能性というテーマでディスカッションをさせてもらう機会がありました。
とても有意義な情報を聞けたので、このサイトを通じてゴルフ場関係者の方に共有したいと思います。
読者の方でこの内容に共感いただけた方は、ぜひ記事をシェアしていただけると嬉しいです。
GEOとは?
GEO(Golf Environment Organization)こと GEO Foundation for Sustainable Golf は、ゴルフにおけるサステナビリティ推進を目的に設立された国際非営利団体です。

2006年頃から活動を開始し、世界中のゴルフ関連団体やNGOと連携しながら「ゴルフを持続可能性のリーダーとする」ことを使命に掲げており、具体的には、ゴルフ場の環境・社会貢献の取り組みを支援・認証する 「GEO認証(GEO Certified)」 や、実践ガイドである 「OnCourseプログラム」 を提供し、エネルギーや水資源の効率利用、自然環境の保全、地域社会との調和といったゴルフ運営の全側面における持続可能なベストプラクティスを推進する国際機関として活動しています。
「GEO認証(GEO Certified)」はフェアトレードや森林認証と並び称される国際的な第三者認証制度であり、認証取得を通じてゴルフ場は自らの持続可能性への取り組みを客観的に示すことができます。
GEOが提唱するサステナビリティの柱は、大きく「環境保全(生態系の豊かさ)」「資源効率(エネルギー・水・資材の有効活用)」「社会的価値(地域や人との統合)」の3分野で、この枠組みのもと、ゴルフ場が単に環境への影響を最小化するだけでなく、「ネットポジティブ(社会・環境に対してプラスの影響を与える)」 存在となることを目指しています。
例えば野生生物の生息地となる緑地空間の提供、水やエネルギー消費の削減、従業員や地域住民への還元など、ゴルフを通じて社会・環境両面で持続可能な価値を創出することがGEOの目指す姿です。
世界のゴルフ場の持続可能なケーススタディ
GEOはそのミッションを具体化する優良事例として、世界各地のサステナブルなゴルフ場の取り組みを紹介しています。
先日のミーティングでも、エネルギーや水の効率利用、労働資源の有効活用、地域コミュニティとの共存といった観点から、Sam Thomas氏から以下4つのゴルフ場のケーススタディを共有してもらいました。
Jinji Lake Golf Club(中国・蘇州)

中国・蘇州市の「金鶏湖ゴルフクラブ(Jinji Lake Golf Club)」は、都市部の埋立地に2006年に開場した27ホールの名門コースです。2011年にはGEO認証を取得し、中国本土で初めて同認証を受けたゴルフ場となりました。
同クラブは蘇州市中心部にありながら100ヘクタール以上の緑地と野生生物の生息環境を維持しており、都市の「緑のオアシス」として機能しています。
ゴルフ場周囲には約14kmに及ぶ遊歩道を整備しており、地域住民や観光客が湖畔の自然を楽しめるよう開放しています(環金鸡湖步道として知られる遊歩道は市民の憩いの場となっているとのことです)。
これによりノンゴルファーにもアクティビティを提供し、ゴルフ場が地域コミュニティとつながる場として活用されています。
さらに従業員300名以上を地元から雇用し、社員とその家族に医療保険や教育支援を提供するなど、雇用を通じた社会貢献にも力を入れています。
社員向けには環境や資源効率に関する研修プログラムも実施されており、組織全体で持続可能な運営を追求しています。
Jinji Lake GCは水やエネルギーの使用量を継続的にモニタリングし削減策を講じている模範例であり、GEOの現地検証員から「アジアにおけるゴルフ場管理のベストプラクティスの手本」と高く評価されているとのことです。
Liberty National Golf Club(アメリカ・ニュージャージー州)

米国ニュージャージー州にあるリバティ・ナショナルゴルフクラブ(Liberty National GC)は、ハドソン川沿いに位置しニューヨークの摩天楼を望む景観で知られる高級ゴルフコースで、同クラブは2006年開場時から最新設備を備えていますが、2017年のプレジデンツカップ開催を機に環境対応型の大規模アップグレードを実施しました。
とりわけ注目すべきはエネルギー効率化への取り組みで、クラブハウス照明を全面的にLEDに改修しエネルギー消費を50%削減することに成功しました。その結果、年間で135,000ドル(約1億5千万円)の電力コスト削減効果が得られ、設備更新によるメンテナンス費用の削減も実現しています。
この照明効率化プロジェクトは、エネルギー企業コンステレーション社との協働で行われ、初期投資を電気料金に上乗せして回収する仕組み(Efficiency Made Easyプログラム)を活用したためクラブ側の初期費用負担なしで実施されました。
Liberty National GCの事例は、大規模トーナメント会場クラスのゴルフ施設でも省エネと経費節減、顧客サービス向上の両立が可能であることを示しています。
なお同クラブは元々、産業廃棄物の埋立地を浄化・再生して造成された経緯があり、環境的に困難な土地を蘇らせた持続可能な開発事例としても知られています。
Granite Links Golf Club(アメリカ・マサチューセッツ州)

米国マサチューセッツ州ボストン近郊に位置するグラナイトリンクスゴルフクラブ(Granite Links GC)は、元々あった複数の廃棄物埋立地と採石場を再利用して造成されたユニークなゴルフコースです。
このプロジェクトでは、公有地と民間開発業者の協働により老朽化した埋立地3箇所を安全化すると同時に、膨大な量の土砂(1300万トン以上)を受け入れて地形造成に活用し、約446エーカー(180ヘクタール)の広大な敷地に27ホールのゴルフコースと公園、スポーツ施設を整備しました。
持続可能性の観点で特筆すべきは、埋立地から発生するメタンガスを回収してエネルギーに転換するシステムを導入したことです。コース地下に埋もれている有機物の分解で生じるガスを数百エーカーにわたって集め、焼却・発電する小規模プラントを敷設することで、温室効果ガスであるメタンの大気放出を防ぐとともに、施設のエネルギー需要の一部を賄っています。
また広大な造成工事では周辺の湿地生態系保護にも最新の注意が払われ、排水管理システムの構築や工事車両の洗浄設備設置など環境対策が徹底されました。
こうした取り組みによりGranite Links GCはニューイングランド最大級のブラウンフィールド再生プロジェクトとして評価され、ゴルフダイジェスト誌の「全米ベスト新コース」トップ10にも選出されるなど、環境と経済の両面で成功した事例となっています。
Bally’s Golf Links at Ferry Point(アメリカ・ニューヨーク州)

米国ニューヨーク市ブロンクス区にあるバリーズ・ゴルフリンクス@フェリーポイント(Bally’s Golf Links at Ferry Point)は、都市部におけるゴルフ場開発のサステナビリティを象徴する存在です。
所在地はハドソン川河口に近いフェリーポイント公園内で、192エーカー(78ヘクタール)の旧市営埋立地を浄化・整備して18ホールのリンクスコースへと生まれ変わらせました。
何十年も放置されてきたブラウンフィールド(汚染地)を再開発し、市民にウォーターフロントの緑地空間を提供した点が高く評価され、2014年には全米ゴルフコース設計家協会(ASGCA)のデザイン・エクセレンス賞、およびフロリダ景観建築家協会の環境持続可能性部門賞を受賞しています。
「埋立地で20年以上眠っていた土地をどのようにリンクススタイルの名コースに変えたか?」という問いに対し、設計を担当したジャック・ニクラスらは「土地本来の姿を活かし環境を改善するよう努めた」と述べています。
具体的な環境配慮策としては、コース内の植栽の50%以上を手入れ不要なネイティブのフェスク草にし、灌漑が必要な芝生面積を約70エーカーまで縮小しました。
さらに雨水と排水の約3分の1をコース内の調整池に循環させて再利用し、残りも沈殿池で土砂や養分をろ過した上で自然環境に戻す仕組みを導入しています。これにより水資源の節約と周辺水質保全を両立させました。
フェリーポイントは公共運営のトーナメント水準コースとして2015年に一般開放されて以来、地域住民に質の高いゴルフ環境を提供しつつ、都市における持続可能なゴルフ開発のモデルケースとなっています。
その他の先進事例 = 自然の力で水を浄化するゴルフ場

インド・ハイデラバードにあるゴルフ場では、イスラエル発の自然型排水処理技術「Natural Biological System(NBS)」が導入されています。

このシステムはAyala Water & Ecology社が開発し、湿地や水生植物、砂利、微生物を活用して汚染水を自然浄化する仕組みです。NBSは薬剤や動力に頼らず、重力による自然流下だけで機能し、毎日数百万リットル単位の下水や廃水を安全な散水用水に再生しています。
この例は、水資源の有効利用とCO₂排出削減の両立という観点で、画期的な自然循環型の水管理モデルとなっており、Ayala社は30年以上にわたってこの技術を多方面に展開してきました。ゴルフ場の散水用途に適した処理能力と環境負荷の低さが特徴であり、GEOが提唱する「資源効率の向上」に資する先進的モデルとしても評価できます。
ゴルフ場内に生態的な浄化池を設けることで、下水処理に伴うエネルギー消費や化学薬品の使用をゼロに抑え、二酸化炭素排出削減と水循環 を同時に実現しています。
このように地域の下水や雨水をゴルフ場が積極的に浄化・再利用する仕組みは、都市インフラを補完し水不足に備えるうえでも有効であり、世界各地で注目を集め始めています。
日本のゴルフ場が取り組むべき課題
GEOによれば、持続可能なゴルフ場づくりの波は欧米や中国をはじめ世界75か国以上に広がりつつありますが、残念ながら日本ではまだ本格的な導入例が少ないのが現状です。
実際、2023年現在GEO認証を取得した日本のゴルフ場は報告されておらず、GEOとしても日本のゴルフ業界との接点がまだ十分に築けていない状況です。
こうした中でGEOは「日本のゴルフ場にもぜひ世界の先進事例を紹介し、持続可能性への取り組みを後押ししたい」と言っています。
では、日本のゴルフ場が今後取り組むべき課題とは具体的に何でしょうか。前述のケーススタディやGEOの提言から浮かび上がるポイントを整理すると、主に次の4つが挙げられます。
エネルギー利用の効率化と温暖化対策
ゴルフ場施設やメンテナンスに要する電力・燃料の削減は喫緊の課題です。照明のLED化や高効率な空調設備への更新、太陽光発電の導入、電動カートや電気機器への転換などで大幅な省エネ・CO2削減が可能です。
Liberty National GCの例が示すように、照明をLEDに交換するだけでも電力消費を半減できるケースがあります。またコース管理用の芝刈り機等も近年はハイブリッドや電動モデルが登場しており、そうした機材のアップグレードと運用改善で燃料使用を減らしつつ、長期的なコスト削減と大気汚染防止を図ることができます。
水資源管理と水環境保全
日本の多くのゴルフ場では大量の水が散水や池の維持に使われていますが、気候変動による特に夏場の水不足リスクも考慮し水の有効利用を追求する必要があります。
例えば雨水貯留タンクや調整池を整備し、降雨や湧水を蓄えて散水に回す循環型の仕組みを作ることが有効です。
また海外では下水処理水の再利用も進んでおり、インドの事例のように植物を使った自然浄化で安全な散水用水を確保したり、ニューヨークのフェリーポイントのようにコース排水を沈殿池で浄化して再利用する取り組みもあります。
日本でも自治体や企業と連携し、下水のリサイクル利用や高度処理水の導入を検討する余地があるでしょう。さらに散水効率を高めるため、土壌水分センサーや精密灌漑システムを導入して必要な場所に必要な量だけ給水するスマート灌漑を実践することも肝要です。
水の使用量を減らすことは結果的にポンプの電力削減にもつながりますし、芝草の過湿を防ぐことは殺菌剤や殺虫剤などの化学薬品の削減など、複数の省資源効果があります。
労働資源の効率化と人材育成
ゴルフ場運営には多くのスタッフが関わりますが、日本では少子高齢化に伴う人手不足も懸念されています。
そこで限られた人材で効率よく運営する工夫が求められます。具体的には、コース管理業務の効率化(例:自動芝刈り機やGPS散水管理による省力化)、従業員の多能工化やスケジュール管理の工夫により無駄な作業時間を削減するといった取り組みです。
また従業員に対する環境教育や研修も重要です。Jinji Lake GCでは全従業員に対し環境と資源効率に関する教育プログラムを提供し、スタッフ自身が持続可能性の担い手となるよう意識改革を行いました。
その結果、従業員一人ひとりが省エネ・節水やリサイクルに配慮した業務を心掛けるようになり、組織全体で持続可能な運営文化が醸成されています。
日本のゴルフ場でも、従業員の知見を高めることで職場の問題解決力を向上させ、省人化とサービス品質向上を両立させることができるでしょう。加えて、従業員の福利厚生や働きやすい職場環境の整備も持続可能な運営の一部です。
雇用の安定と人材定着は長期的に見て施設の持続可能性を高める要素であり、Jinji Lake GCのように地域雇用を創出し社員を大切にする姿勢は、日本でも見習うべき点です。
地域社会との共存・社会的価値の創造
ゴルフ場が地域に開かれた存在となり、コミュニティと共生することも持続可能性の重要な側面です。
日本では「ゴルフ場=会員やプレーヤーだけの施設」というイメージが根強いですが、ご紹介してきたように世界の先進事例ではゴルフ場が地域住民も利用できる公共的空間やアクティビティやサービスを提供し高い評価を得ています。
日本には四季があり、ゴルフ場にも四季折々の自然景観や広大な緑地を有する強みを活かし、営業日の合間やオフシーズンにウォーキングコースやジョギングイベントを開放する、地元の子供向けに自然観察会やゴルフ体験会を催す、クラブハウスを地域の防災拠点や集会所として提供する、といった施策が考えられます。
さらに地元農産物の積極利用やクラブ主催のチャリティイベント開催など、地域経済・社会への貢献を打ち出すことで、ゴルフ場は地域に不可欠な存在として支持を得られるでしょう。地域から愛されるゴルフ場になることが、集客や雇用など長期的な経営安定にもつながります。
以上のように、日本のゴルフ場が学ぶべき持続可能性の課題は多岐にわたりますが、その根底にあるのは「ゴルフ場を環境・社会にとって価値ある資産に転換する」という発想です。幸い、海外では既に多くの成功事例が積み重ねられており、「ゴルフ場と自然や地域は共存しうる」ということは実証済みです。
日本のゴルフ業界も世界の潮流に目を向け、これらの知見を積極的に導入していくことが求められています。
ゴルフとサスティナビリティ
かつてゴルフ場は環境負荷の象徴のように語られた時代もありましたが、現在ではそのイメージが大きく変わりつつあり、GEOも「ゴルフはその特性上、地域社会に長期的な社会的・環境的遺産を残すユニークな機会を持っている」と述べています。
実際、ゴルフ場は適切に管理すれば野生動植物の避難所となり、都市部では希少な大規模緑地として生態系ネットワークの一部を担うことができます。また芝生や樹木はCO2吸収源となり、気候緩和にも寄与します。

社会的にも、ゴルフ場は雇用を生み出し、人々に健康的なスポーツの場を提供し、コミュニティの誇りとなり得る存在です。
要は「ゴルフ場を如何に運営すれば環境と社会に貢献できるか」を追求することで、ゴルフ産業は持続可能な未来への解決策の一部となり得るのです。
そのための羅針盤となっているのがGEOをはじめとする国際的な枠組みです。
GEO認証の取得やOnCourseプログラムへの参加は、ゴルフ場が具体的な目標を持って持続可能性に取り組むうえで大きな助けとなります。
認証プロセスではエネルギー使用量や水使用量、土地管理、生物多様性、地域貢献などについてデータを計測・報告し、第三者の検証を受けることで課題点と改善策が明確になります。また認証を取得すれば対外的に信用が高まるだけでなく、従業員の誇りやモチベーション向上にもつながります。
「自分たちのゴルフ場は環境に配慮している」と胸を張れることは、働く人々の仕事の意義を深め、ひいてはサービス向上にも寄与するでしょう。
また昨今ではプロゴルフトーナメントや国際大会も持続可能性を重視するようになりました。
たとえば2023年の米PGAツアー最終戦「ツアー選手権」では大会運営がGEO認証を取得し、100%再生可能エネルギーの使用や廃棄物ゼロ化など野心的なサステナビリティ計画を実行しました。
また国内でもゴルフが再び五輪種目となった東京2020大会でも、会場となった霞ヶ関カンツリー倶楽部で環境配慮型のコース管理が行われ、大会後に競技団体であるIGF(国際ゴルフ連盟)とGEOが連携協定を結び、今後世界的にゴルフの環境施策を推進していく方針が打ち出されています。
こうしたトップレベルの動きは、ゴルフ界全体が持続可能な方向へ舵を切ったことを示すものです。
最後に私が強調したいのは、サステナビリティへの取り組みはゴルフ場自身の利益にも直結するという点です。
エネルギーや水の節約はコスト削減につながり、環境に優しい運営は、地域社会や行政からの信頼獲得につながります。
自然豊かなコースはゴルファーからの評価も高まり、長期的に見れば集客力アップやブランド価値向上という形で経済的リターンをもたらします。
つまり環境・社会・経済の三方面でwin-winの関係を築けるのが「サステナブルなゴルフ場」の強みなのではないでしょうか。
本記事の参考資料
GEO Foundation for Sustainable Golf 公式サイト

Golf Course Architecture: “Chinese club earns GEO certification”(2011年)
Constellation Energy: “Liberty National GC 照明効率化事例”(2018年)

McCourt Construction: “Granite Links GC 建設プロジェクト概要
GolfBusinessNews: “Ferry Point 環境配慮型コース設計の評価”(2014年)
Municipal Water Leader: “Ayala社 自然湿地システムによるゴルフ場用水浄化”(2020年)
