2024年12月27日に筆者がPMを務めた春日井CCがアジア競技大会の会場に選ばれました。
アジア競技大会は、アジアオリンピック評議会(OCA)が主催するため、「アジア版オリンピック」とも言われ、1951年にインドのニューデリーで第1回が開催され、1994年には第12回大会が広島で開催されています。
来年2026年に開催される20回アジア競技大会は愛知県・名古屋市で開催されることになり、30年ぶりに日本での開催となります。
今回の投稿では、スポーツ(特にゴルフ)国際大会が産業、地域、社会に与える影響についてまとめてみました。
スポーツ競技大会の社会的目的と経済的目的
スポーツの国際競技大会には、「社会的目的」と「経済的目的」の両方が存在します。
社会的な側面では、スポーツは人々の「健康」や、「心身の育成」、またオリンピックの精神である「オリンピズム」では、「スポーツを通した平和への貢献」という理念も込められています。
スポーツアクティビティが国民に浸透することで、地域や社会の活性化に寄与するという側面から、特にトップアスリートが国際舞台で活躍する姿は、多くの人々に感動や勇気を与え、競技の普及促進にもつながります。
また経済的な側面では、競技大会の開催による直接的な経済効果(チケット販売、放映権料、スポンサーシップなど)と、間接的な経済効果(会場やインフラ整備、観光、宿泊、飲食など)が期待されます。
例えば、2019年のラグビーワールドカップ日本大会は、約6,500億円の経済効果をもたらしたと試算されています(日本経済研究センター調べ)。
同様にゴルフのプロトーナメントも、会場となるゴルフ場や、地域経済に対する影響が大きく、関連産業の活性化につながります。
日本で開催される国際ゴルフイベントがもたらす地域や産業への波及効果

日本国内で開催される国際的スポーツイベントは、地域や産業全体により大きな影響を与えます。
今回のアジア競技大会はもちろん、前回2021年の東京オリンピックでのゴルフ競技や、PGAツアーのZOZOチャンピオンシップのような国際ゴルフ大会は、日本のゴルフ場やゴルフ市場の注目度を高め、国内外のゴルフ愛好家の関心を引き寄せます。
中でも松山英樹選手や、稲見萌寧選手ら、日本選手の活躍により、日本国内でもゴルフ人気が再燃し、若年層のゴルフ参加率向上にも貢献しました。
また昨年まで開催されていたZOZOチャンピオンシップは、PGAツアーが日本で開催される唯一の大会であり(2025年からはベイカレントクラシックに変更)、国内外のトッププレーヤーが集結することで、国際的なゴルフ市場の注目を集めています。これにより、競技会場であるゴルフ場のブランド価値向上、周辺観光の促進、ゴルフ用品市場の拡大など、多方面への経済効果が期待されます。
さらに、こうした国際的なゴルフイベントの特徴として、多くのボランティアが参加しており、競技会場の整備、選手のサポート、観客誘導など、多岐にわたる業務を担っています。
このようなボランティア活動は、地域住民にとっては趣味や興味を通じた自己実現の機会にとどまらず、共通の趣味で繋がる世代や属性を超えた交流機会となり、産業や地域へのロイヤリティが高まり、活性化の一助となることが報告されています。
このような多くのメリットがある一方で、こうした国際スポーツイベントの誘致にはデメリットも指摘されています。
国際スポーツイベントがもたらすデメリット

2021年の東京オリンピックの開催経費は、大会組織委員会の公表額で1兆4238億円、会計検査院の報告額で1兆6989億円と膨大になったことは話題になりましたが、2024年のパリオリンピックでも物価高騰や、テロやサイバーセキュリティ強化を名目に、追加の予算が投じられました。
今回2026年に愛知県で開催予定のアジア大会でも、大会組織委員会が、県と名古屋市など行政が負担する開催経費について、当初の約2.5倍となる1900億円ほどと試算されており、都市の財政に影響を与えることが不安視されています。
スポーツイベントに限らず、今年開催される大阪万博でも当初予算を大幅に上回る経費が話題になっていますが、特に近年開催される国際的なイベントは、パンデミック以前に開催が決定されていますから、コロナ禍での金融緩和によるインフレの影響を受け、当初予算を上回る費用が拠出されることが問題になっています。
予算が膨れ上がってしまう原因として、「想定以上に老朽化した競技会場やインフラ整備費用の増加」、「厳しい安全基準・デザイン・納期を実現するための会場設計・施工コストの増加」、「テロ対策だけではなくサイバーセキュリティ対策費用の増加」、といった外的要因に加えて、「スポンサー収入の楽観視」「行政主導事業における煩雑な業務プロセス」などの内的要因も原因と言われています。
またこうした大規模な投資にも関わらず、大会終了後の競技施設が利用されないまま放置され「将来の負の遺産」となる可能性や、都市機能への一時的な影響(交通渋滞や混雑や物価の上昇)、環境負荷の増加(エネルギー消費や食品廃棄)も開催におけるデメリットして指摘されています。
国際スポーツイベントの成功要因

これらの開催するメリットやデメリットを踏まえて、国際スポーツイベントを成功させるためには、以下の要因が重要とされています。
選手の質と国際的な競争
国を代表する選手や、世界トップクラスのアスリートが参加することで大会の価値が向上し、観客動員やメディア露出の拡大につながります。国と国がスポーツを通じて真剣勝負するチーム競技や団体戦は特に人気があります。
メディア戦略の最適化
テレビ放映やインターネット配信を活用し、国内外の視聴者にアプローチすることはもちろん、国や地域はもちろん、ファンの年齢層や競技特性に合わせてSNSなどのチャネルを活用したマルチメディア戦略が重要とされています。
地域の観光資源との連携
開催都市の観光資源とも連携した大会運営を実現することで、多額の投資を回収する機会を生み出します。地元観光・飲食・交通関連企業との協力によって、競技の観戦ツアーはもちろん、地域振興や観光イベントを企画することも成功の鍵となります。
スポンサーシップの確保
選手、PR、地域との連携が図れれば、観戦者数や視聴者数が増加しますから、大手企業や地元企業からの協賛や広告投資を得ることで、大会の運営資金を確保し、充実した大会環境を整備する相乗効果が期待できます。
まとめ
日本の少子高齢化や市場の成熟化が叫ばれるなか、ゴルフをはじめとするスポーツの国際大会が地域で開催される役割は、単なるレジャーや興行の域にとどまりません。
国民や地域住民の健康増進、地域住民の交流に加え、スポンサー収入や、インフラや設備投資による関連ビジネスの発展、さらに国内外に向けた情報発信により、地域や競技会場の国際的な認知度を高め、世界からの関心を集めることで、将来にわたる大きな経済効果も期待できます。
ゴルフ産業にとっても、大会の開催やボランティアなどの支援を通じて、新規参加者や将来の産業従事者を獲得し、市場の拡大や既存顧客のロイヤリティ向上を図る絶好の機会になります。
地域や産業を含めた幅広いステークホルダーにとってはメリットが多い一方で、「予算超過」、「環境負荷」などの負の側面があることも理解し、そのデメリットやリスクを最小化させるために、運営者はイベントの成功要因をしっかりと認識して、大会を一時的なイベントとして終わらせるのではなく、長期的な視点でスポーツ文化の啓蒙や地域コミュニティの活性化、そして新たな消費者の創造を見据えた投資・連携を進めることが、ゴルフ産業や租ポーツ産業が持続的に成長していくカギとなります。
【参考文献】
総務省統計局「スポーツ産業に関する統計調査」(2019年)
経済産業省「東京オリンピック・パラリンピックの経済効果に関する調査」(2021年)
日本ゴルフ協会(JGA)「ゴルフ人口動向調査」
スポーツ庁「スポーツの振興と地域活性化に関する調査報告書」