今さら聞けないゴルフ場の芝生の話

ゴルフ場の美しい芝生は、景観を保つだけでなく、プレーの快適さや難易度にも大きな影響を与えます。
しかし、その芝生がどのように管理され、どんな種類が使われているのかについて、特にアマチュアゴルファーの方が知る機会は少ないかもしれません。

この記事では、ゴルフ場で使われる芝生について、基本的な知識から、経営に与える影響、そして最新のトレンドまで、データを交えて分かりやすく解説します。

目次

 暖地型芝草(夏芝)と寒地型芝草(冬芝)の違い

日本のゴルフ場のフェアウェイ(左:高麗芝)と東南アジアのゴルフ場のフェアウェイ(右:ティフトン芝)

ゴルフ場の芝生は、気候に応じて「暖地型芝草(夏芝)」と「寒地型芝草(冬芝)」の2つに分類され、それぞれ異なる気象環境によって選択されます。

暖地型芝草(夏芝)の特徴

温暖地のタイの新設ゴルフ場ではフェアウェイにティフトン芝が使われるケースが多い

暖地型芝草(夏芝)は、高温多湿の条件下で成長が活発になります。
最適な成長温度は一般的に25℃〜35℃と言われており、特に30℃前後で最も活発に成長します。

バミューダグラスやゾイシアグラス(高麗芝や野芝はゾイシアの一種です)などはこの範囲での高い耐久性が特徴で、適切な土壌水分率は10〜15%と少なめとされています。
一方、冬季になると気温が低下し、15℃以下になると休眠に入り、黄色から茶色へ変色してしまいます。

寒地型芝草(冬芝)の特徴

北米や北欧のゴルフ場では冬でも緑を保つ寒冷地用の芝生(ブルーグラスやフェスク)が使われる

寒地型芝草(冬芝)は、低温でも緑を保つ能力を持ち、特に10℃〜20℃の気温帯で最適に成長します。
日本のグリーンでよく使われているベントグラスや、冬季でも緑色を保つためにオーバーシードされるライグラスは、この基本の気温範囲で元気に育ち、土壌水分率は20〜25%と温暖地型と比べると少し高めが理想的と言われています。
一方で暑さに弱いため、夏場の気温が25℃以上になると、成長が鈍化し、特に30℃以上になると病害・害虫・藻などが発生しダメージを受けやすくなります。

夏場の高温でダメージを受けたベント芝のグリーン

ゴルフ場で使われる代表的な芝生の品種と特徴

日本のゴルフ場は2つのグリーンを季節によって使い分けるケースが多い

ゴルフ場では使用される芝生の品種が、その場所や気候や、コンセプトに応じて使い分けられています。
これらの芝生は、それぞれの最適な気温や水分条件を守りながら管理されていますが、日本のゴルフ場では四季があるため、夏用のグリーン芝と冬用のグリーン芝で分ける「ダブルグリーンシステム」が採用されていたり、ティーやフェアウェイには高麗芝、ラフには野芝、グリーンにはベント芝、冬になると色を保つためにライグラスを追い撒き(オーバーシード)するといった具合に、複数の芝生を使っているケースが多いです。

またアジアや北米の南部などで使われるバミューダグラスは、暖地型芝草の代表で、おそらく世界で最もゴルフ場で使われている芝種です。
最適な気温は25℃〜35℃です。耐踏性が高く、土壌の乾燥にも強いため、フェアウェイやティーグラウンドに使われます。適切な土壌水分率は10〜15%で、干魃にも強いため斜面などの水が保持しにくい場所でも旺盛に繁殖します。

日本のティーやフェアウェイに使われるゾイシア(高麗芝や野芝)は、日本の暖地型芝草で、20℃〜30℃の温度帯で最も成長が活発になります。乾燥に強く、土壌水分率は12〜18%が適しています。
冬には10℃以下で休眠し、茶色く変色しますが、管理は比較的容易で、病害や虫害にも強い品種と言われています。

冬に茶色くなった高麗芝と野芝


野芝(ノシバ)も日本で広く使われる芝草で、特に耐久性が高く、15℃〜30℃の温度帯で良好な成長を見せます。土壌水分率は15%前後が適しており、耐乾性が強いため、管理が簡単です。

一般的に高麗芝の方が葉幅1.2mm~2mm程度と細く密度が出やすくボールが沈みにくいためフェアウェイで多く使用されます。一方で同じゾイシアでも野芝は葉幅4mmほどになり葉も硬いため、密度が手にくく、ボールが芝葉の間に沈みやすくなるためラフで使用されるケースが多いです。

ベントグラスは寒地型芝草の代表で、寒冷地ではティーやフェアウェイにも使用されており、日本でも特にほとんどのグリーンに使われています。
最適な成長温度は10℃〜20℃で、乾燥に弱く湿度の高い環境を好みます。
適切な土壌水分率は20〜25%とされており、気温が高い時期には頻繁な水やりが必要です。
(一部のコースではフェアウェイとラフを同じ芝種にしているコースもあります)

品種改良の歴史と現代注目される品種のトレンド

芝生の品種改良は長年にわたり、環境適応性やメンテナンスの効率化を目指して進められてきました。
近年の改良品種では、気候変動への適応が重視されており、特に温暖化の影響により、耐暑性や耐乾性が強化された芝草が注目を集めています。

筆者がプロジェクトマネージャーを務めている春日井CC東コースの改修プロジェクトでもベント芝の品種改良種であるOAKLEYが採用されました。

第7世代のベント芝OAKLEYは耐暑性に強い品種として注目されている

またバミューダグラスの改良品種である「ティフトン芝」などの品種は、特に高温環境に強く、30℃以上の環境下でも健康的に成長できるように改良されており、実際に日本でも野球やサッカーなどの球技場は、摩耗に強く、管理が容易なティフトン芝が多いです。
さらにこれらの品種は水分効率が高く乾燥に強いのが特徴で、土壌水分率は8〜12%と少ない水やりでも成長できるため、温暖化が加速する近年では水資源の知的利用が環境テーマになっていることもあり、世界中の多くのゴルフ場で草種転換が進められています。

また水の節約だけではなく、施肥、施薬、刈り込み、目砂、エアレーション(サッチング・スパイキング・コアリング)など、芝生にはたくさんの資材や労働資源が投入されるため、温暖化が進む中でもこれらを低減する「品種改良」は毎年多くの注目を集めています。

春日井CC東コースでのグリーン播種の様子

品種転換で温暖化や省力化に対応する

日本国内では、地球温暖化だけではなく、少子高齢化によるコース管理の人材不足という課題の影響を受け、ゴルフ場の芝草管理にも変化が求められています。

特に、気温上昇による芝草の成長への影響は深刻で、日本で多く使われているベント芝(寒地型芝草)が夏の高温に耐えられず、管理が難しくなっているため、品種改良された耐暑性の強いベント芝への転換や、暖地型芝草への転換を検討するコースも増えています。

最近注目されているハイブリッド芝草は、寒地型芝草にもかかわらず温暖化に対応するために品種改良されたもの(やその逆も)、冬場も緑を保ちながら高温にも耐えるものが多く登場しています。例えばティフ・イーグルやハイブリッドゾイシアグラスは、温暖化に強く、年間を通してスムーズな転がりを保つことができ、管理も省力化されると言われています。

アジアでも新種のハイブリッドゾイシア(高麗芝)のグリーンが増えてきている

近年の芝生管理の進化

キャッチ缶テスト用のアイテムと土壌水分計

近年では、こうした芝生の管理のために、土壌水分計や、土壌塩分濃度計などの計測器の利用や、最適な水分が均一に分散するように、スプリンクラーの散水量均一テスト(キャッチ缶テスト)などの実施、また刈り取った芝生の葉身分析や、土壌に含まれている成分を分析する土壌分析など、科学的な管理手法が取られています。

最適な芝生の選び方

それぞれの芝生の面積を積算することで年間のコストや水量を計画することも重要

ゴルフ場の芝生管理は、その美しさと機能性を保つために、気温や土壌水分などの細かい条件に対応しなければなりません。暖地型芝草と寒地型芝草、それぞれの特性を理解し、最適な環境を維持することが、美しい芝生と快適なプレー環境を作り出します。

芝生選びにおいて特に重要なポイント

・気象条件(気温、降水量、日照など)
・管理コスト(資材費や人件費などの資源的制約)
・管理面積(それぞれの芝生の面積から必要な資源や水量を確保する)
・プレースタイルやコンセプト(カートの乗り入れの有無、年間の来場者数、非管理エリアの有無など)

などが決定要因となります。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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