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数々のゴルフトーナメントを開催してきたサンフランシスコの名門であるオリンピッククラブ。
設立は1860年で、もともとはアマチュアスポーツプログラムを提供するコミュニティとして作られました。
実際に1924 年のパリオリンピックには全競技で23 人の選手を派遣しています。
1955年にオリンピッククラブ最初の全米オープン選手権を開催し、その後も全米オープンのルーティングコースとして、レイクコースではこれまで5回開催され、次回の全米オープン開催は2032年に決定しています。
そのオリンピッククラブも日本のゴルフ場と同じく歴史を重ねると同時に施設の老朽化や、環境や規制への対応、そして変化するプレーニーズやトーナメントのレギュレーションなどに対応するため幾度かの改修が実施されています。
今回サンフランシスコへの出張機会があり、特別にスーパーインテンダントのTroy氏にコースを案内してもらう機会に恵まれました。
ゴルフ先進国であるアメリカの中でもトップレベルと言われるゴルフ場で現在どんな取り組みがされているのかを本稿を通じて紹介することで、今後の日本のゴルフ場運営にもお役立て頂ければと思います。

オリンピッククラブのコースの基本情報

オリンピッククラブは全米オープンなどが開催されるレイクコースと、オーシャンコースからなる36Hのゴルフ場です。後述しますがその他に9ホールのパー3コース「クリフコース」も併設された45Hのゴルフ場です。
オリンピッククラブ全体としては11,000人の会員がいるそうですが、そのうちゴルフ場を無料でプレーできるゴルフ会員は1,000名程度とのことでした。年間の来場者数は36Hで90,000人とのことで、名門ゴルフ場がひしめくサンフランシスコの中でも人気のコースです。そのうち約65%程度がプルカートなどで歩きでのプレーをして、残りの35%が乗り入れカートでのプレーをするそうです。パー3コースのクリフコースは年間2万人の来場があります。
フェアウェイ(刈高10.0mm)とラフ(刈高35.0mm)はブルーフェスクを使用し、グリーンはピュアディステンクション(刈高3.2mm)が採用されています。
コース管理は50名で、そのうち3名がメカニックとの事です。
バンカーライナーにはベタービリーバンカーが採用されており、急なスロープでも砂の崩落を防いでいるそうですすが、コンビネーション構造でバンカーボトムのフラット面は通常のファブリックライナーを使用しているそうです。



改修について

同コースは定期的に改修工事を繰り返してきていますが、近年話題になったのは2020年に名建築家であるギル・ハンスによって実施されたレイクコースの改修です。
この改修では長年の運営に渡って大木となっていた樹木を1000本以上伐採し、景観を向上させただけではなく芝へ光と空気を提供しました。フェアウェイ面積は25%拡張されグリーンへのアングルを広くすることで戦略性を向上させています。





グリーンも同時に拡張され以前の380平米/ホール平均から、現在は510平米/ホール平均に拡大したことで、ホールロケーションの選択肢とコンディションが向上しました。
この改修によってコースは高く再評価され、2028年の全米プロゴルフ選手権、2030年には全米女子アマチュア、2032年のライダーカップ、2033年の全米オープンの開催が決定されました。全長は7235ヤードと最近の男子距離を考えるとそれほど長いとはいえませんが、Par 70で運用することで戦略的なフィールドに変化します。実際に2025年に開催された全米アマチュア選手権の予選(ストロークプレー)では-4/18Hがトップでした。
環境や省力化への対策として、今回の改修ではフェアウェイやグリーンが拡大したと同時に、非管理エリアも3万平米以上拡大したそうです。非管理エリアは基本的に年に2回の刈り込みをするのみとのことで、労働資源や肥料やケミカルを削減しています。
そして設備も大幅に更新され、スプリンクラーを18Hで2300個配置しています。この理由については後述されるように管理の合理化や節水へのプラクティスとして実施されています。
Troy氏によると、同コースは来年2026年にPar.3コースのクリフコースとドライビングレンジの改修を予定しているそうです。近年ではペブルビーチのPar.3コース「The Hey」や、オーストラリアでもトップコースであるキングストンヒースがPar.3コース「The Forrows」をオープンさせたことは広く知られていますが、欧米のトップコースはノンゴルファーやニューカマーの育成施設を作ることで、ゴルファーの新規創出への貢献に力を入れています。オリンピッククラブも今回のクリフコースを改修することで、米国のトップコースとして産業への貢献を果たしていくという意気込みを語ってくれました。今回のPar.3コースの改修ではバンカーの一人面積を減らしてビギナーがより楽しめるデザインにすることと同時に、管理コストの高いバンカー面積が減ることで、ビギナーやジュニアにも親しみやすい価格を維持できると考えているとのことです。







環境への取り組み






レイクコースと言われているにも関わらず、実はこのコースには池が一つもありません(レイクコースの由来はコースに隣接するマーセド湖からきています)。さらにサンフランシスコは年間の降水量が500ミリ以下(東京は1600mm以上)と水に恵まれたエリアとは言えず、実はコースへの灌水はすべて生活用水を再生してリサイクルウォーターを使っています。管理棟では重機などについた芝や泥を洗浄した水を再利用するためのリサイクル設備もあり、水を一滴たりとも無駄にしないという徹底ぶりです。
これだけ水が貴重なエリアでなぜ2300個ものスプリンクラーを付けているのかを聞いたところ、実はオリンピッククラブではフェアウェイモアに「TurfRad」という土壌水分を計測してGPSと連携してマッピングするシステムを使っており、ICシステムで個別に制御されたスプリンクラーで、乾燥したエリアだけにピンポイントに散水できます。効率的な散水は節水だけではなく、加湿による病原の抑制や、泥濘によるダメージの防止など、管理資材や労働の削減とターフ品質の向上への効果も期待できます。
また農薬や肥料の散布エリアを正確にマッピング・制御するためにGPS誘導式散布機も使用しており、これにより16-18%の肥料削減を実現したそうです。
もちろん無人機も活用しており、特にPar.3コースのクリフコースのラフだけでも0.4名分の労働コストを削減しているそうです。
50名の管理スタッフ(うち3名はメカニック)を擁するコース管理チームは、機能的に作業が振り分けられており、各人の作業内容は場所が常に可視化されています。
こうした献身的な取り組みをする同コースは実は北米のゴルフ場として初めて、Corporate Social Responsibility (CSR) Reportを提出しており、そのレポートの中でも「ゴルフ業界でのリーダーシップを、地域社会との関わりを促進し、経済にプラスの影響を与えながら、環境の良き管理者となりたいと願っています」と語っています。
スーパーインテンダントのTroy氏からのメッセージ

最後のTroy氏に日本のゴルフ場オーナーや支配人やグリーンキーパーにメッセージをとお願いしました。
ゴルフ場の改修については、メンバーの合意形成はもちろん、大きな投資に必要なファイナンス、それらの包括的な方針が必要です。オリンピッククラブは全米オープンなど数々のチャンピオンシップを開催していますが、今回の改修はあくまでもメンバーのプレーアビリティを優先しフェアウェイやグリーンを拡張し、トータル距離は大きく伸ばしていません。実際に男子のトーナメントはパー70で開催していますが今のところ何の問題もありません。メンバーも今回の改修を喜んでいます。
ゴルフ場管理についても、テクノロジーは毎年進化しています。その技術進化に対応するために学び続けること、評判の良いコースを訪問して、たくさんの専門家に会うことはとても重要な事です。
もちろん気候の違いや、水やケミカルの使用に関する地域特有の規制は、どこにでもありますから一概に同じことをするという事ではありませんが、課題に向き合う姿勢や、それを乗り越える工夫やテクノロジーを知る事で自分達のコースにも活かせることがあるはずです。
おわりに
今回初めてオリンピッククラブを訪問しましたが、その歴史や権威だけではなく、コースの環境や社会に対する姿勢に肌で触れることができ、私の憧れはより一層強くなりました。
特にテクノロジーの活用は日本の管理でも積極的に取り入れなくてはいけない部分かと思います。このほかにも海外の事例をサイト内で紹介していますので、ぜひご覧になってみてください。もちろん本稿に関するご感想やお問い合わせもお待ちしています。


