レッスンでよく質問されるフェードとスライスの違い。皆さんは分かりますか?
私の経験上、多くの方がスライスは…で、フェードは…ですよね。と答えます。
さらに同じ質問を何人かにすると、それぞれに違う答えが返ってきて揃うことはありません。
なぜか?驚くかもしれませんが、フェードボールというのには明確な定義が存在していないからです。
ゴルファーに存在するハイコンテクスト文化
え?明確な定義がないってどういうこと?と思うかもしれませんが、フェードとスライスの違いは「ニュアンス=言外に表された話し手の意図」によって決まるのです。
これをコミュニケーションの世界では「ハイコンテクスト」と呼びます。
「ハイコンテクスト」とは、コミュニケーションを取るもの同士で「コンテクスト(文脈)」が共通認識としてあり、言葉よりも雰囲気や空気を察しながらお互いに”なんとなく”理解し合えるという文化です。
ハイコンテクストは主に同質性が高いコミュニティに生まれ、すべてを言葉にする必要がなくとも伝わることや、その言葉が本来とは違う意味をもって使われたりします。
家族間の「アレ取って」のようにアレで通用するようなコミュニケーションがたくさんありますし、女子高生言葉で有名な「マジ卍」もハイコンテクストです。
[※マジ卍(まじまんじ)= 特に意味はないが、なんとなく気持ちが昂った状態を示すことば。類:ヤバイ]
これと同様にゴルファーにもハイコンテクストなコミュニケーションがたくさん存在します。
朝マスター室のスタッフに「今日どこから回ります?」と聞かれればそれは「ティーマークの色」を聞かれていると分かりますし、ティーショットが微妙な場所に飛んだ時に「とりあえず探してみて前から打てば?」と言われたら、「ボールが見つからなかった場合は特設ティーを使えば?」という意味だと理解できます。
これらはゴルファーなら当たり前に分かることですが、ゴルフをやったことがない人が聞いたら何を意味しているのかサッパリ分かりません。
以前にワインスクールに通っていた時があるのですが、ワインの表現はハイコンテクストの最たるものではないでしょうか?
ビロードのような舌触りと言われても最初は全然意味が分かりませんが、何度か同じようなワインに出くわし「あー、これがビロードのような…」と理解できて、いつしか自分でもキメ細かでコクを感じるような舌触りの時には「ビロードのような」という表現を使うようになり、それがワイン好きの人たちの間では共通言語として「ビロードのような」で通じることを実感するのです。 フェードボールとは?
フェードボールとは?
さて、ではいよいよ話をフェードボールに戻します。
まず基本的な知識の整理ですが、スライスもフェードも右打ちのゴルファーの場合、ボールが右に曲がる現象という意味では共通しています。
では、この類似した右曲がりのボールに2つの言葉が必要だったのでしょうか?
曲がる幅の大きさ?
フェードの語源はラテン語の[fatidus = 味が薄い、風味がない]という言葉が語源で、[弱く、徐々に、淡い = Fade]になったと言われています。
ゴルフ以外でも、フェードアウト、フェードインなどの徐々に場面が切り替わる際に「フェード」という言葉が使われることから分かるように、フェードは[徐々に][薄らと]というニュアンスがあることが分かります。
なのでゴルフにおけるフェードボールの要素も、軽い右曲がりのボールであるということがわかります。
ですから、例えば意図的に大きくボールを曲げてターゲットを狙うボールは「インテンショナルスライス」と言われます。大きく曲がるボールに「インテンショナルフェード」と言わないのは、急激に曲がるボールをフェードと定義しないためです。
意図的か?
このことから分かるように、意図して打ったか否かはフェードかスライスかという定義には関係ないと言えます。
もう一つわかりやすい例を挙げるとすれば、「意図」とはそれを目指すということなので、結果的にわずかに右に曲がったボールはスライスとは言いません。フェードヒッターと言われるゴルファーはそれを意図しているというよりも「まっすぐ打とうとスイングするとフェードボールが出る」という人がほとんどです。その人たちはフェードを意図しているわけではありませんが、その弾道を見た人はフェードボールと言うでしょうし、実際に私たちコーチも受講者の方が「私スライスするんですよ」と相談にこられても、その曲がり幅が小さければ意図していなくても「これはフェードですね」と言うことがあります。
ターゲットへのアタックは?
ここが最も議論が分かれるポイントだと思います。ボールは右曲がりということが前提ですから、フェードボールとは”ターゲットに近づいていく”わずかに右曲がりのボールなのか、それとも”ターゲットへ向かうか否かにかかわらず”わずかに右曲がりのボールを指すのか?ということです。
まずは左下の画像をみてください。どちらも打ち出し方向は同じターゲットのわずかに左ですが、
①わずかに曲がってターゲット付近に落下。
②①よりは大きく曲がりターゲットの右に落下。
相対的に①がフェードで、②は曲がり幅が大きいと認識されるのでスライスと言えます。
対して右上は全て同じ曲がり幅です。
①はターゲットの左に飛び出し、上空でわずかに右に曲がりターゲットの左に落ちました。
②はターゲットの左に飛び出し、上空でわずかに右に曲がりターゲットに落ちました。
③はターゲット方向に飛び出し、上空でわずかに右に曲がりターゲットの右に落ちました。
全て打ち出し方向は違いますが曲がり幅は同じです。①と②はターゲットに近づいていくようにわずかに曲がりますが、③はターゲットから遠ざかるようにわずかに曲がります。
これは明確に定義があるわけではありませんが、ゴルファーのハイコンテクスト文化の中では「ターゲットに近づいていく”わずかに右曲がりのボール」をフェードと定義するのが一般的です。
なぜか、それはターゲットから遠ざかるボールを見ると人は曲がりすぎ(曲がりが大きい)と認識するし、ターゲットに対して曲がり足りなければその曲り幅はわずかだと認識するからです。もちろんターゲットに向かうように僅かに曲がるボールは文句なくフェードボールと言えます。
まとめ
以上のことから、フェードボールとは、明確に定義が存在しているものではなく、あくまでもゴルファーのハイコンテクスト文化に存在するニュアンスです。ただそのニュアンスを非ゴルファーにも分かるように、あえて言葉にするとしたら「ターゲットのわずかに左に打ち出されたボールが、微かに右にカーブを描きながらターゲットに近づきながら落下していく弾道」と説明します。
もしこの記事が嘘だと思ったら、ためしに日本語で「スライス フェード 違い」でも、英語で「what is the difference between fade and slice in golf」でも調べてみてください。全て語り手なりの理解で書かれていることがわかると思いますよ(^^)
みなさんはフェードボールをどのように理解していましたか?
他にもたくさんある「雰囲気言葉」と一緒に考えてみてください。