こちらの記事はUSGA(全米ゴルフ協会)に2020年11月6日に掲載された記事「What a Golfer Really Wantsーゴルファーが本当に望んでいる事は何か?」を紹介(意訳)し、最後にまとめとして私なりに日本のゴルフ場のマーケティングについて考察します。
元の記事はこちらです。
調査の目的
USGA(全米ゴルフ協会)はゴルファーの期待値として、ラウンド前、ラウンド中、ラウンド後の様々なタッチポイントが満足度にどのような影響を与えるかについて理解を深めるための調査を実施しました。
タッチポイントとは?
「タッチポイント」とはマーケティング用語で「顧客と企業との接点」という意味です。
顧客と従業員の物理的な接触だけでなく、例えば「広告を見た」「SNSでの商品の口コミを見た」「スタッフの接客」「ロゴやパッケージデザイン」「ユーザーコミュニティ」などもタッチポイントとされています。
顧客はこうしたタッチポイントにより購入の意思決定、ブランドイメージを作ると言われています。
その結果ゴルファーがゴルフ体験を通じて接することのできるタッチポイントは実に1,000以上あることがわかりました。
従業員のプロ意識、プレーのペース、ティーグラウンドからグリーンまでの移動時間の短縮など、全体的な満足度を高めるタッチポイントが多く確認された一方で、給水設備や売店の有無、緊急時の設備や連絡手段、ペースに遅れたゴルファーに対するゴルフ場からの修正措置など、満足度を損なうタッチポイントもありました。
すべてのタッチポイントが同じように機能するのではなく、ゴルフ場は「顧客にとって何が重要なのか」を理解した上で、改善の努力を注ぐ必要があります。
こうした調査を通じたデータがなければ、コースは限られた時間と資本を使って、顧客が必ずしも望んでいない目標を追求することに時間や労力を割くことになりかねません。
この記事では、USGAが資金提供して実施されたゴルファーの体験に関する研究を検証し、ゴルファーに期待されるタッチポイントを明らかにするとともに、ゴルファー体験に何が不満要因で、何が体験全体を向上させる要素なのかを明らかにします。
調査の方法
この調査は、米国全体でコミットメントレベル、性別、人種や民族、年齢、収入、プレー経験、プレー頻度、さらに家族構成、メンバーシップの種類などを分散した4,965人のゴルファーに対してフォーカス・グループを作成し、平均1.5時間のグループインタビューと2ラウンドの実地検証、ゴルフ場運営会社へのヒアリングによって調査されました。
タッチポイントの分類
この調査ではゴルファーの体験全体を5つのステージと、3つの要因に分類しています。
タッチポイントを分類するための5つのステージ
ゴルファーが予約をする段階からプレー後までの重要なタッチポイントを特定することで、コース内外でのゴルファーの体験を包括的に捉え、総合的な満足度によってロイヤルティを高めることができます。
ステージ1. 惹きつける
ゴルフのラウンドの前に発生するタッチポイントは、ゴルファーがコースを選択することを目的としたタッチポイントです。
この段階では、コースで行われる様々なイベントや料金体系、コースデザインやコンディションの質などを示す情報を提供し、自社ブランドのマーケティングに注力する必要があります。ゴルファーは自分や同伴者に合ったレベルのコースであるか?プレーの目的に合っているか?といった参加障壁を取り除くことに関心を示していることが分かりました。 コースはウェブサイトやSNSなどのデジタルツールを効果的に活用して、様々なタイプのゴルファーを歓迎していることをアピールするとともに、ゴルファーが質問しやすい道筋を提供することが求められていることが分かりました。
ステージ2. 到着する
ゴルフコースに到着してから1番ティーに到着するまでに発生するタッチポイントです。
到着の段階は当日のゴルファー体験をコースが演出する最初の機会となります。
入場路や駐車場から目にする景色や設備の質から、ゴルファーに利便性を提供するサービスや機能まで、コースはゴルファーがチェックインを経てティーオフするまでの流れを効果的に促進する必要があります。
スタッフの対応は、ゴルフの腕前に関係なく全てのゲストに質の高いホスピタリティを提供する必要がありますが、オートチェックインシステムなどのテクノロジーはゲストに利便性を提供するための重要な要素となることが分かりました。
またゴルファーは、到着時にコースの方針を示すサイネージ(看板や掲示)を期待している一方で、シニア料金やコースのエアレーション割引など、料金やレートの案内を期待していることが分かりました。
ステージ3. プレーする
プレー中に発生するタッチポイント。プレーの過程や結果。
最も重要なステージはプレー中です。プレーのペースを効果的に管理することが非常に重要であることは広く理解されていますが、これはコース上での体験の一つのタッチポイントに過ぎません。高いレベルのサービスを提供するためにプレー中に出会う従業員(マーシャルや売店スタッフ)を十分に訓練することは同様に重要です。
またショットの多様性を求める戦略的なコースデザイン、プレーのしやすさと公平性を実現するフェアウェイ、ラフ、バンカーの品質も重要な要素です。
ゴルファーの目線は、ボールウォッシャーやコース上の標識などに関心を示していましたが、ティーグラウンドの選択肢や、ホールの位置が明確に示されている点が特に注目されていました。
ステージ4. 離れる
最終ホールを終えてからゴルフコースを離れるまでに起こるタッチポイントです。
プレー終了からの出口までは運営者にとって非常にチャンスのあるエリアです。
ゴルファーはラウンド後のサービスに関する明確な情報を求めていることが分かりました。ラウンド後の交流を促進するための居心地の良いスペース、従業員との交流を望んでいます。ゴルファーの中には、ラウンド後にコースで過ごす時間が限られている人もいるかもしれませんが、仲間との交流の機会となる社交的な雰囲気を提供することで、さらにお金を使うようになる事が分かりました。またこの段階で従業員がこのプロセスに参加し、次回のプレー予定、プロショップの商品、コースに残っての交流を促すことで、アップセル(追加の売上)を成功させることができます。
到着の段階と同様に、サイネージはゴルファーにこれらの情報を伝え、安心感を与えるのに重要です。
ステージ5. 継続する
ゴルフ場を離れた後に発生するタッチポイント。次のプレーまで。
コースを終えた後のタッチポイントについては、さらなる知覚価値を創造する機会が数多くあります。
またゴルファーの期待に応えられなかった場合には、すぐに改善することもできます。プレー前の段階と同様に、ウェブサイト、電子メールやSMS、SNSなどのチャンネルを通じて、戦略的にタイミングをはかってメッセージを出すことで、リピートに重要な役割を果たします。
タッチポイントの影響を理解する
ではゴルフ体験のうち、どのような点が全体の満足度にプラスまたはマイナスの影響を与えるのでしょうか。
非対称性分析を用いて分類すると、23のタッチポイントが満足要因、13がパフォーマンス要因、15が不満要因と考えていることを示しました。満足要因とはスコアが低くても不満につながらないがコースを競合他社と差別化するタッチポイント。パフォーマンス要因は、ゴルファーの総合的として満足と不満足の両方に影響を与えるタッチポイントです。不満要因は全体の満足度に最もマイナスの影響を与えているタッチポイント郡でこのスコアが悪いと他のタッチポイントがどんなに優れていても全体の満足度が低下する傾向があることが分かりました。
今回の調査で全てのコースに共通する計77のタッチポイントについて総合的な満足度を評価したところ、平均満足度は5点満点中3.64点でした。
要因1. 満足度要因
満足度のタッチポイントは、ユーザーの不満への影響は小さいものの、より大きな満足度を生み出す要因。
・コース全体の挑戦度
・キャリーやストレートボールへのプレッシャー
・フェアウェイの広さ
・バンカーの数
・OB、ウォーターハザード、GURなどの表示
・ティーボックスの数と位置
・グリーンのコンディション
・ホールの位置(難易度)
・グリーンから次のティーまでの移動時間
・プレー時間についての言及
・スターターのタイムマネジメント能力
・他のプレーのペースやエチケット
・コースの清潔度
・コースと練習場のコンディションの一貫性
・自然の野生生物の存在
要因2. パフォーマンス要因
パフォーマンス要因のタッチポイントは、評価に基づいて顧客の満足と不満の両方に影響を与える可能性があります。
・歩きやすいコースデザインの特徴
・ゴルフコースの全長
・様々なタイプやレベルのゴルファーのための公平なデザイン
・フェアウェイのコンディション
・ラフの密度と長さ
・フェアウェイや脇にある距離の表示のわかり易さ
・様々な技術レベルに対応する特別なティー
・グリーン上のスムースなボールの回転
・グリーンの起伏や傾斜
・グリーンのサイズ
・ホールの位置がわかりやすい案内(ロケーションシート、旗色など)
・ティータイムの間隔
・プレースピードを適正化するプレー人数の制限
要因3. 不満要因
不満のタッチポイントは、満足度への影響は限定的でありながら、低い評価の場合に大きな不満やクレームを生み出します。
・コース売店を含む給水施設
・緊急時の待避所や連絡手段
・標準的なペースを守れないゴルファーに対する是正処置
・ローカルルールによるプレーの娯楽性とスピードの向上
・ゴルフカートの質や機能
・身体の不自由なゴルファーのための機能
・樹木、池、などの整備
・娯楽性
・バンカーのクオリティ
・ドロップエリアの識別
・ティーボックスのメンテナンスや平面性
結論
これらの調査結果は、ゴルフ場運営会社が顧客の期待に応えるための知見を提供するものであるが、顧客を理解して優位性を生み出すことは、刻々と変化する市場においては重要なプロセスである。
今回の調査を通じてタッチポイント5つのステージで最も重要なのは、ゴルファーが最後のグリーンを去った後であることが分かった。コースはシンプルで最適化された案内を通じて、顧客の再利用、アップセル、ロイヤルティの向上を促すことが出来ることが分かった。
次の満足度への影響では、全体的な満足度を向上させるタッチポイントは、従業員のプロ意識、プレーのペースやペースが遅れたゴルファーの修正措置、給水施設、緊急時の設備や通信手段、などのフラストレーションをまずは排除し、顧客体験の全体的な質を改善する必要があります。すべてのタッチポイントが同じように作られているわけではなく、コースは顧客にとって何が重要なのかを真に理解した上で時間と資金を効果的に投資することが求められます。
考察
以上がレポートの要約になります。かなり細かいレポートだったので、必要と思われる部分だけを抜き出してまとめてみましたが、それでもかなりのボリュームになってしまいました(^^;
このレポートは米国のゴルフ場で調査されたものですが、個人的に日本のゴルフ場にとっても有益な情報として以下の3点にまとめてみました。
今後もこうしたスタディを通じて、日本のゴルフ産業の発展に有効な情報を発信していきたいと思います。
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