ゴルフ場がもたらす地域環境へのベネフィット

2024年4月5日にゴルフ場が地域環境へもたらすインパクトに関するレポート「The Enviormental Benefits of Golf Course」が発表されました。

今回の投稿では、レポートを日本語で要約し、日本のゴルフ場環境に置き換えた上で、提言をまとめます。

目次

USGAレポート「ゴルフ場がもたらす地域環境への便益」の要約

一部の風潮がもたらす誤解の一つに、「ゴルフ場は一部の裕福な人々だけが利用する施設であり、環境にも悪影響を与える」と言われますが、実際は違います。

ゴルフ場はアメリカ合衆国内の土地面積のごくわずかな部分(アメリカ合衆国内15,945のゴルフ場の土地総面積はアメリアカ合衆国23億エーカーのうち0.1%未満:GCSAA 2023年)を占めており約3/4にあたる74%がパブリックコースであり、グリーンフィーの平均は41-51ドルです。

これらのゴルフ場は都市化が進む地域において重要な環境上の利益を提供する可能性があります。

環境負荷の低減

ゴルフ場は地域の規制に従い、肥料、殺虫剤の使用に関して、厳格に管理されています。

規制当局による検査、使用日、使用量、在庫記録を保持しなくてはならず、一般家庭や農家よりも厳格な要求をクリアしています。

土壌プロファイルを通して、ゴルフ場で使用される薬剤は、ゴルフ場特有の環境(広大な面積、豊富な有機物、根茎の発達、芝草の機能)によって、使用地点からほとんど流出しないことが、研究によって示されており(Kenna & Snow, 2002)、こうした事実から、商業施設、駐車場、公園などの他の土地利用と比較しても環境負荷が低いことが証明されるべきです。

都市冷却効果

アメリカの都市開発用地は1949年以来4.7%拡大しており、人口増加率の2倍のペースで増加しています。

都市化の進行は地域環境を劣化させ、都市ヒートアイランド現象(UHI)をもたらしますが、ゴルフ場の植生は、都市の熱を軽減し、地域の気温を下げる効果があります。
多くの研究により、ゴルフ場のような芝生エリアが都市部の気温を著しく低下させることが示されています(Stier et al., 2013)。ゴルフ場自体だけでなく、周囲の地域も涼しくなり、その効果はゴルフ場の境界から最大600メートルまで及ぶ可能性があることが分かりました (Lonsdorf et al., 2020)。これら隣接する冷却効果は、エアコンの使用によるエネルギー消費を最大50%まで減少させる可能性があります。

最近の研究では、大都市圏を住宅、商業、工業、主要道路、公共緑地、ゴルフ場、といったさまざまな土地利用カテゴリに分けて詳細に調査しました。連続する暑い夏の日に最高気温が35度で計測された温度は、自然の山林が最も低い平均地表温度30度を記録し、ゴルフ場は2番目に低い31度でした。これに対し、住宅、工業その他の用途エリア、主要道路は35度から37度の高い地表温度を示し、都市部の公園緑地の地表温度もゴルフ場より高い33度でした。研究者は、ゴルフ場の植生が「暑い夏の日に都市の加熱を軽減するのに有益な役割を果たす可能性がある」と結論付けました(Nguyen et al., 2022)。

野生動物や生態系の保護

さらに、ゴルフ場は野生生物の生息地を保護し、生物多様性を支える役割も果たしています。平均的な18ホールのゴルフコースには、森林や原生草地を含むナチュラルエリアが施設全体の18%あり、池や川などの水域は4%です。
芝生、樹木、低木、水域が多様な野生生物の集団をサポートしており、2008年の文献レビューによると、64%の場合でゴルフ場は他の土地利用タイプよりも高い生態学的価値を持っていることが示されており(Beard & Green, 1994)、全体の30%以上のゴルフ場が2000年以降に野生生物の生息地や原生植物の追加または拡大を報告しています(GCSAA、2023年)。

雨水の再利用による水害の低減

ゴルフコースは、都市地域や商業施設などの他の土地利用タイプと比べて雨水の流出を減少させます(Lonsdorf et al., 2020)。
多くのゴルフ場は、灌漑のために一部または全部の雨水をコース内で貯水するよう設計されていますが、研究では芝生が土壌水浸透を増加させる能力を示しており(Beard & Green, 1994)、これにより場内だけではなく周囲のコミュニティからの雨水を保持して洪水や河川の氾濫などの水害リスクを減少させています。


またゴルフ場はこうした雨水管理と地下水の利用に貢献し、ゴルフコースの芝生が持つ機能や密集した植生によって、隣接する土地からの雨水を濾過することができ、下流へ移動する前に水質を改善することが研究で示されています (Kohler et al., 2004)。これらの機能により、ゴルフ場は単なるレクリエーション施設という枠組みを超え、環境保全における重要な役割を担っているのです。
アメリカゴルフコース設計者協会(ASGCA)などの団体は、雨水や侵食を制御するのに役立つ特徴を含むようにコース設計を奨励しており、地域に貢献する施設の建設を理想としています。

大気の改善

植物は大気中の二酸化炭素を取り込み、エネルギーに変換する驚異的な能力を持っています。ゴルフコースに見られる芝生やその他の植生も例外ではありません。
原生林と比較するとその効果は限定的ですが、他の商業施設などと比べると大気質を改善する能力と重要性は十分に文書化されています (Bekken & Soldat, 2021; Qian & Follett, 2002)。ゴルフ場が有する芝生や樹木などの植生は開発された地域の重要な空気清浄機となることができます。

今後ゴルフ場がさらにできること

ゴルフ場が重要な環境上の利益を提供できることは疑いありませんが、何が可能かを完全に理解し、個々のコースがその肯定的な影響を最大化するのを助けるためには、まだ多くの作業が必要です。多くの団体がゴルフ場の環境価値を向上させるために積極的に取り組んでおり、ゴルフ場のメンテナンス業界がより環境に持続可能なプレー条件を創出するために前進するためのモデルを提供しています。以下に挙げるアイデアは、特に人気を集めているものです。

  • 不必要に管理されている芝を非管理エリアに転換することで、生物多様性への貢献、肥料や薬品の使用量の低下が可能になります。
  • 雨水管理(主に排水や貯水の設備の改善や、土壌保水力の強化)に投資をすることで、地域の災害リスクに貢献できます。
  • ノンゴルファーに施設を提供し、地域のコミュニティの=生活の質を向上させることができます。
  • 灌水システムの効率を最適化し、芝の水需要を理解し、最良の管理によって水質の改善と水の再利用を実践できます。

人口の都市集中化や開発ブームによって、特に都市部でのゴルフ場の環境上の利益は以前よりも価値が高まっています。地域に冷却効果を提供し、野生生物や植生の生息地を守り、雨水管理と空気浄化の利益を提供するゴルフ場の緑地は、地域環境を真に改善することができます。

これを実現し維持するためには、継続的な科学的な研究へのコミットメントと、ゴルフコースが持つ環境上の利益を地域へ説明し、促進する必要があります。

本文はUSGA(全米ゴルフ協会)に掲載された「The Enviormental Benefits of Golf Course」を翻訳して筆者がまとめたものです。

日本のゴルフ場へのスタディ

日本の国土面積37万8000平方kmのうち農地面積は11.93%(世界で123番目)、山林面積は67%(世界で3番目)と、日本は世界的にみても自然豊かな国です。日本のゴルフ場の数は現在約2100コースですが、1コースの面積が約60万平米(経済産業省データによると1ゴルフ場あたりの平均ホール数は平均20.2ホール)とした場合、ゴルフ場は国土の0.3%以上を占める施設ということになります。

数字にすると小さく見えます散水工事、ゴルフ大国アメリカでさえ国土に占めるゴルフ場面積は0.1%未満ですから、日本のゴルフ場は国土の中で相対的に大きな割合を占めていると言えます。

記事にもある通り、日本のゴルフ場でも農薬に関しての使用や保管については自治体によって厳格に管理されていますし、土壌検査も定期的に実施されており、その施設の安全性については米国と同じ状況にあると考えられ、また雨水の利用などについても特に近年は温暖化の影響で水利用について見直すゴルフ場が増えてきています。

以前の記事でも述べていますが、日本のゴルフ場の多くは1980年代から1990年前半までのバブル期に建設されており、30年以上が経過した現時点でそれらのゴルフ場が大規模修繕のタイミングを迎えています。

設備投資の際には費用対効果ばかりに目がいきがちですが、地域の中で大きな面積を占有する施設だからこそ、地域への貢献として排水や散水などの水利用設備の見直しや、ノンゴルファーへの施設の解放、あるいはナチュラルエリアの面積拡大なども考慮していくべきだと感じます。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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