ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、経営に関するコラムを連載させていただいております。
第18回はのテーマは『経営のコンパス―管理会計―の活用法』ゴルフ場経営者なら知っておきたい損益分岐点と限界利益という考え方』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。

私のようなビジネスコンサルタントがゴルフ場の経営状況を見る際に必ず目を通すのが貸借対照表や損益計算書などのいわゆる財務諸表です。単純に利益や資産を見るだけではなく、これらの数字から経営状況を一目で理解することができます。
そんなコンサルタントの中核スキルは、会計を経営に活用することを目的とした「管理会計」という概念によって支えられています。「会計」と聞くと数字の話かと思いがちですが、管理会計とは経営の羅針盤であり、時には人事評価などにも使われます。
財務会計と管理会計の違い
まず「管理会計」を理解するために、多くの方が馴染みのある「財務会計」との違いを整理しておきましょう。財務会計とは、税務申告や株主・金融機関への報告を目的として、法律や会計基準に従って作成される会計です。決算書はまさにこの財務会計の産物であり、過去の経営成績を正確に記録することがその使命です。一方、管理会計は社外への報告義務がなく、経営者が自社の意思決定に使うための会計です。したがって形式も自由である点が最大の特徴です。
例えば、私が見た多くのゴルフ場では、会員の名義変更料や登録料を「営業外収益」として記載しています。営業外収益とは損益計算書において本業以外の利益を示すものですから、財務会計としては正しい処理です。しかし、会員制ゴルフ場にとって新規入会者が支払う名義変更料や登録料は本業ではないと言えるでしょうか? 会員権の流動性が上がれば上がるほど名変料収入は増えるわけですから、会員制ゴルフ場の健全性や収益性を示す重要な値だと言えます。この収入を「おまけの数字」と捉えるのか、それとも「経営の健全性に関わる重要な数字」として捉えるのかで、経営の見え方は随分と変わってきます。
このように財務会計が「法令に基づき過去の事実を記載するもの」であるのに対して、管理会計は「経営がしやすいように工夫して記載するもの」といえます。
ゴルフ場経営における管理会計の第一歩 ―部門別損益―
管理会計の導入として最もポピュラーなのが「部門別損益管理」です。多くのゴルフ場の損益計算書では、収入は部門別に分解されていても、人件費は一括りに書かれている場合がほとんどです。しかし、これではどの部門が利益を生み、どの部門が足を引っ張っているのかが見えません。
例えば、コース管理部門のコストが年々増加しているならば、それは老朽化した機械や設備への投資が遅れていることによる修繕費の増加なのか、あるいは人件費という構造的な問題なのか、原因を掘り下げることができません。
さらに、それぞれの部門の労働生産性(従業員1人または1時間あたりにどれだけの成果を生み出したかを示す指標)を見ることができれば、人員配置の適正さも検証できます。たとえばレストラン部門のスタッフ1人あたり売上と、フロント部門のそれを比較すれば、どの部署に人材を厚く配置すべきかが数字で判断できるようになります。部門別にそれぞれの収益構造とコスト構造を「見える化」することで、初めて具体的な改善のアクションにつなげることができるのです。
損益分岐点分析で「最低限必要な来場者数」を知る
管理会計の代表的な手法のひとつに「損益分岐点分析(CVP分析)」があります。これは、前回のコラムでも掲載させていただきましたが、売上高がいくらに達すれば利益がゼロになるか、すなわち赤字と黒字の境目を明らかにする分析手法です(前号を参照)。
この数字を知っているだけで、経営判断の質は格段に上がります。閑散期にどの程度の割引プランを出せるか、新規の設備投資で固定費が増加した場合に何人の集客増が必要かなど、すべてこの損益分岐点を基準に判断できるようになります。
KPIの設定と現場への展開
管理会計のもう一つの重要な役割は、経営目標を現場レベルの行動指標、いわゆるKPI(重要業績評価指標)に分解することです。多くのゴルフ場ではいまだに「来場者数」を重要指標にしていますが、来場者数を増やすといっても、現場のスタッフは具体的に何をすればよいのかが分かりません。
この目標を管理会計的に分解すると、たとえば「平日の来場者数を1日あたり3.5名増やす」「レストランのアップセル提案で客単価を250円上げる」「ビジターリピート率をイベントの実施で3%改善する」といった具体的なアクションに落とし込むことができます。
そしてこれらのKPIの達成度を月次で確認し、達成した部門やスタッフを正当に評価する仕組みを作ることで、管理会計は人事評価とも連動します。たとえばレストラン部門が月次でアップセル目標を達成し続けているならば、それは部門長のマネジメントの成果として客観的に評価できます。逆に、コース管理部門の1人あたりの生産性が低下しているならば、人手不足なのか作業プロセスに問題があるのかを数字で議論できます。KPIがあることで、評価が上司の印象ではなく事実に基づくものになるのです。会計が示す数字は「無機質で冷たいもの」ではなく、人を動かす「燃料」に変わる瞬間です。
管理会計は「特別なもの」ではない
管理会計と聞くと、大企業や専門家だけのものと感じるかもしれません。しかし、実は多くのゴルフ場経営者がすでに無意識に管理会計的な思考をしています。「先月のプロショップ収入が落ちたのはなぜか」「来月の日曜日の予約が少ないが対策はどうするか」という具合に、現象を切り分けて考える行為がまさに管理会計の入り口となります。
管理会計で重要なのは、こうした思考を経営者個人の属人的な直感に留めるのではなく、会計資料という共通言語に置き換え、組織全体で共有することです。部門別の損益や生産性を把握する、売上を平日と土日で分解する、会員とビジターで分解する、などはExcelの簡単な表で十分です。
そこから課題を特定し、その課題に対してのKPIを設定していけば、経営判断の精度だけではなく、人事評価の公平性も着実に高まり、組織の能力も高まります。管理会計という「経営のコンパス」を使いこなすことで、ゴルフ場経営の精度はグッと高まるはずです。


