会員制ゴルフ場の本質的価値はメンバーシップベネフィットにあり

日本のゴルフ会員権のほとんどは資金調達を目的とした預託金型会員権であるため、プレー権が会員になる便益と捉えられているが、グローバルで見ると日本のような預託金型会員権は稀で、ほとんどがアニュアル(年間)メンバーシップによる会員便益の提供による会員制を採用しています。

日本でも預託金償還問題が事実上無効化したコースから、会員権の販売促進を目的としたメンバーシップベネフィットに力を入れるコースが増えてきており、今後も旧来型のプレー権のみを便益とするメンバーシップと、様々なベネフィットがあるメンバーシップとでは、購買決定理由に大きな差が生まれてくる可能性があります

目次

メンバーシップベネフィットとは?

その名の通り「会員便益」のことであり、会員が享受できる様々なサービスやメリットを言います。

前述したように日本では会員制ゴルフ場とは「会員の同伴もしくは紹介がないと予約できないゴルフ場」という建前に対して、グローバルでは「会員」という特別なサービスを受けられるステータスが存在し、それを年度単位で購入する「アニュアルメンバーシップ」が一般的です。

しかし実際にはインターネット予約の台頭によって会員制ゴルフ場は建前化しており、ビジターでもネットを介して誰でも予約ができるコースがほとんどで、「プレー権」が実質的に形骸化している状態ということになります。

しかしご存知の通り、メンバーシップの販売はクラブの大きな収入源になっているという事実から、レシプロカル契約(後述)を中心に、近年は日本でもメンバーシップベネフィットに力を入れるゴルフ場も増えてきました。

代表的なメンバーシップベネフィット

プレー代金の割引

ほぼ全てのクラブで採用している便益は、「メンバー料金」というものが存在し、それが一般的なプレー料金よりもはるかに安価(コースによっては無料)という便益です。
メンバー本人だけではなく、その家族にも適用されるファミリー割引や、同伴でプレーするゲストに適用される割引なども存在しています。

私自身も海外のゴルフ場のメンバーシップを保有していますが、自身のプレー代は無料で、同伴ゲストは通常のビジター料金の約半額でプレーできるという便益があり、これは実質的にはプレー代金のサブスクリプション(定額制)とも捉えることができます。

ショップやレストランの割引

こちらも海外のコースだとほぼ全てのメンバーシップに適用されている印象があります。
場内のプロショップでの買い物は10-15%で購入できたり、プロショップのメンバー向けセールは毎シーズン開催されています。レストランも10%程度の割引や、あるいはプロショップやレストランで使えるバウチャーが年会費と引き換えに渡されるというものです。この他にも練習場の利用無料などの特典もあります。

ゲストから見ると年会費が高くても相応の割引やバウチャーがもらえれば高く感じないということになり、会員権の購入障壁を下げる効果があります。

ゴルフ用品市場の規模は約3000億円(2023年:矢野経済研究所)と言われていますから、ゴルファー一人当たりの年間の用品購入額は約64,000円程度と推測され、消費者の7割以上がゴルフショップやスポーツショップ(EC含む)で購入している事実を考えると、これらの売り上げの何割かをゴルフ場で獲得することも可能と考えられます。

支出の構成を見ると、ゴルフ用品(ボール、手袋、シューズなど)で20%を占めていますから、顧客視点でみると1万円の年会費を余分に払ってでも、ゴルフ場プロショップで10-15%OFFの特典を受ける方がお得という算段がたちます。

もちろん「欲しいものが売っているショップ」ということが前提になりますが、実際にほぼ全てのゴルファーがボールや手袋などの消耗品は必ずどこかで買うわけですし、ゴルフに来たら確実に飲み食いするわけなので、こうした確実に落とす費用を収入にあらかじめ含めてしまうのはビジネス的には当然の戦略といえます。

競技会やイベント

日本の会員制ゴルフ場でも月例競技やクラブチャンピオンシップや理事長杯などの競技は開催されていますが、海外では親子ダブルスや、男女のカップルでエントリーするペア競技、ペアスクランブルなどが多く、競技方式もスコアではなくステーブルフォードなどのポイント制が採用されているケースが多く、よりカジュアルなイベントが多いです。

実際にゴルファーの中で競技に参加するレベル(平均スコア90以下)のゴルファーは参加人口の20%以下であり(日本パブリックゴルフ協会)、8割以上のゴルファーは公式ルールも気にせず、1m以下のパットは打たずにゴルフを楽しんでいます。

こうしたユーザーの背景を考えると、1打を競い合うような緊張を求めているのはごく一部のゴルファーであり、8割以上のゴルファーはゴルフを通じた運動や社会的なつながりの機会を求めていることがわかります。

ゴルフ場事業者からすると、メンバーの家族や友人を誘うことで、会員権の購入機会に繋げることが目的であり、イベントもいわばサービスではなく、マーケティング活動の一環として行われますから、こうしたイベントは事業者も消費者も幸福になる施策といえます。

この他にも、車メーカーやディーラーがタイアップする試乗を兼ねた大会や、会員の子ども向けのキッズクリニック、ワインインポーターとのタイアップによるワイン&ダインというプレー後の食事を主体にしたイベントなども多く開催されており、これらもメーカーやインポーターからの「場所貸し料」や、販売に応じた「コミッション」を徴収できるため有効な収入源になります。

レシプロカル(相互利用)

クラブ間での相互利用契約があるゴルフ場では、相互利用契約先のコースが特別料金でプレーできるなどのメリットがあります。
一般的には同じくらいのランクで相互利用契約が結ばれることが多いため、有名コースや格式が高いコースほど、相互利用先が名門になる傾向があり、この特典が有利に働きます
特に夏や冬などのオフシーズンに避暑地や避寒地でゴルフを楽しみたいというメンバーには購買決定要因になる場合もあります。

日本のゴルフ場もメンバーシップベネフィットの概念を

上述してきたように、メンバーシップベネフィットは購入希望者にとって魅力的な便益を提供することで、会員すなわち事業の固定収入を確保し、クラブの安定経営に繋げるためのマーケティング手段です。

冒頭で述べた通り、日本のゴルフ場では一部のプライベートコースを除き「プレー権」としての便益はすでに形骸化しており、会員本人のプレー料金の値引きや公式競技などの限定的な便益しかないのに対して、グローバルでは、文中で述べたようなさまざまな便益を提供しています。

またメンバーを触媒としたビジターの集客は、デイリーの売上につながるだけではなく、将来のメンバー獲得の経路として捉えられているという点も重要な視点で、特に家族や友人を同伴するイベントに力を入れています。

ゴルフ場ビジネスの費用構造は9割が固定費ですから、固定収入の増加は戦略上の命題であり、会員満足を高めながら、事業の収益性を高めるメンバーシップベネフィットは、今後年会費の値上げなどを計画しているゴルフ場にとっては必須の施策になります。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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