ゴルフ界の総合経営誌『月刊ゴルフマネジメント』で、人材育成に関するコラムを連載させていただいております。
第38回はのテーマは『コンセンサス(合意形成)はなぜ難しいのか?合意形成に必要なのは「急がば回れ」』です。
月刊ゴルフマネジメントに掲載された記事一覧は下記のリンクからご覧いただけます。
どんなに優れた戦略や意思決定があっても、それが実行されないと目標は達成できません。
だからこそ多くのリーダーが、「なぜあの人は決まったことをやらないのか?」「なぜすぐにやらないのか?」と苛立っているケースが多いのではないでしょうか?
今回は、組織における合意形成の難しさと、それを解決するためのステップについて考えていきたいと思います。
合意形成が難しい理由
例えばあなたの会社で、「この業務を改善すべきか?」や「このサービスを導入するべきか?」「この社内のルールや制度を変えるべきか?」という議論があったとします。
それに対して、会議に参加しているメンバー(多くの場合は管理職のみ)で、『ではこうしましょう』と決めたとして、それは”即座に””正しく”実行されるでしょうか?
おそらく多くの場合は、「一旦部署に持ち帰って検討します」となったり、あるいは「分かりました」と会議を離れてもいつまでもたってもそれが実行されず、それについて問いただすと「実は部署のメンバーからその決定について苦情が出ていて…」というケースが多いのではないでしょうか?
多くの場合、こうした状況では「総論賛成・各論反対」ということが起こります。例えば、「業務を効率化するために改善すべきか?」という大きな方針に対しては「今のやり方は非効率だから変えるべきだ!」となるが、「では早速来週からからあなたの業務内容を変えてください」という各論(個別)の話となると「いや、私は今忙しくて業務を変える余裕なんてない」「その仕事がなくなったら私は何をやればいいんですか」「なぜ今すぐなんですか?」と、先ほどYESと言っていた態度を豹変させてNOと言ってくるということが起こります。
日本の政治などを見ていても分かることですが、少子高齢化で社会保障費が増え続けているのでこれはどうにかすべきだという話には国民のほぼ全員が、「それは由々しき事態なので改善しなくちゃいけませんね。」と言いますが、それでは年金や医療費を削減します。と言うと「いやいやそれは困る」となるのも同じ現象です。
要するに、大きな方針に対しては「すべきだ」となったとしても、それが自分のキャリアに影響を与えることとなると途端に「それは困る」となるのは私たち人間の性とも言えます。
これは自分の利益や立場、これまで培ってきた仕事のスキルやナレッジを守りたい(過去に投資した時間や努力がリセットされてしまうと言う懸念 = サンクコスト)という自己防衛本能や、新しいことに挑戦する際の不確実性への懸念(連載#33 「今のままでいい」を打破する。現状維持バイアスの克服法参照)などの本能が働いている証拠です。
しかしこうした問題をクリアしないと、組織改革や業務改革は硬直してしまいますから、正しい意思決定を正しく実行していくためにも、組織のリーダーはコンセンサスに必要なプロセスをしっかりと抑えていく必要があります。
合意形成の4段階
合意形成には以下のステップが必要と言われています。
1. 議論することの合意
2. 目的と課題の合意
3. 課題解決策の選択理由についての合意
4. 実行への合意
1. 議論することへの合意
まず最初のステップは、それぞれの課題を共有する場に参加して欲しいということへの合意です。この議論は一般的に「フォーラム」と呼ばれ、参加できない場合はアンケートや、定期的なミーティングを経て代表者が部署を代表して議論の場に出席すると言うことでも構いません。あなたにとっては課題であることも、その人にとっては課題じゃないケースもあります。もう少し端的に言えば、誰もが自分の目の前にある課題しか見えておらず、他の人の課題を想像することなどよほどのことがない限りはありませんから、自分の知りえぬ所で起こっている課題解決が自分の仕事に影響するとなると抵抗を示しますから、まずはどこでどんな課題があるのかを共有し、相互理解する場が最初のステップになります。
2. 目的と課題の合意
相互理解ができたら、次は目的と課題の合意に移ります。この部署ではこんな課題があり、この人はこんな事に困っている、それが会社の顧客満足度や利益に影響を与えているという事実に基づき、では今我々が取り組むべき課題はこれですね。という具合に、なぜその課題に取り組む事になったのかという事に合意します。
「いやいや、あなたの問題よりも私の問題を先に解決して欲しい」という状況では、無理矢理に多数決で合意したとしても、その人は納得していませんから、実行が遅れたり、質が低かったりしてしまいます。「私たちはこれに取り組む必要がある」という合意を得ることが重要です。
3. 課題解決策の選択理由についての合意
課題が決まったら次は解決策です。解決策も常に一つではありませんから、複数の選択肢の中から、外部環境や組織の状況に合わせて比較検討するというプロセスが必要です。例えば資産の購買や修繕といった大きな金額が発生する場合にはA社B社C社と複数の見積もりを取ることは当然ですし、その後も金額だけで決定するのではなく、納期や品質などのバランスを見て決定することも重要です。また業務改革においても効率化だけを重視していくと、仕事やサービスが味気ないものになってしまいますから、その会社が大事にしているビジョンや価値観に合わせて解決策が選ばれる必要があります。
4. 実行への合意
それらが決まったら最後に実行についての合意です。実行の計画は「アクションプラン」と呼ばれますが、「いつ」「誰が」「何を」「どのように」に加えて「KPI=Key Performance Indicator=重要業績指標」と「レポートパス = 報告先」も設定しましょう。「担当者」や「期日」などは多くの会社で設定されていると思いますが、具体的にどういう成果を出して欲しいのかを数値化しておくことで、実行の成果イメージが共有できます。例えば残業をゼロにする、FAXをゼロにする、ネット予約比率を⚪️%にする、という具合です。また報告者はもう1人の責任者です。多くの場合では実行する人は現場の社員だけれども、執行責任はその上司である管理職や取締役にあるというのが企業概念上の共通認識ですが、「会議で決まったからあとやっといて」と丸投げしても、現場の担当者は困ってしまいますし、実行することの責任は全うできたとしても、成果やプロセスについての責任は決定者が持つべきと思われますから、そのアクションが正しく進んでいるかの共同責任を双方が認識することで初めてスムーズに実行されます。
合意形成についてのまとめ
いかがでしたか?こうして改めて読んでいると、「人を動かすと言うのは面倒だなー」と感じるかもしれませんが、まさにその通りで、私たち人間はロボットのようにコマンドやスイッチで動くほど単純に作られていません。人間の感情や本能に配慮しながら進めるというのは時間もかかりますし、複雑に感じることも多いですが、リーダーが「急がば回れ」というコンセンサスの仕組みを理解することで、組織運営もスムーズにいくようになるのではないでしょうか。