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ゴルフ関係者でも意外と知らないカート道の話

本記事は2022年11月に書かれた記事を、筆者がその後のゴルフ場建設の経験や、多くの設計者やエンジニアとの対話を経て、2026年2月に加筆修正した記事です。

1990年代から日本国内でもゴルフカートが本格的に普及したこともあり、日本国内のゴルフ場に建設されたカートパスの多くは30年以上が経過し、筆者の元にもカートパスの修繕に関する相談が増えています。

国内のカートパス事情に関して言えば、日本は独特の進化を遂げた電磁誘導5人乗りという運用がマジョリティーとなっており、その結果、カートパスのルートや建設方法についても世界の常識とは異なり、独自の考え方が浸透しており、それが故に明確な基準が存在せず、コレで良いのかが分からないというゴルフ場経営者も多いようです。

今回の投稿では、カートパスの建設における基本的な考え方をフレームワークとしてご紹介しながら、ゴルフ場の経営判断に役立つ視点でカートパス工事の要点を整理します。

老朽化によって修繕が繰り返されたカートパス
目次

カートパスの要件を定義する

カートパスのルートや勾配についてシェイパーと施工者が議論する様子

まず最初に行うべきは、「カートパスに求める成果」を明確にすることです。

カートパスは主に以下のような成果を出すことができます。
・プレーペースの向上
・安全確保(歩行者との分離)
・フェアウェイ保護(乗り入れ制限)
・管理効率の改善(重機や資材搬送ルートの確保)

・排水経路の確保
これらの目的によってルートや仕様が大きく変わります。

また上記の成果を得る反面で、カートパス建設のデメリットについても理解する必要があります。
・プレーアビリティの低下(人工物の救済処置が増える)
・美観の低下
・建設コストや修繕コストの増加

カートパス建設や修繕で最もよく起こる失敗は、これらのメリットとデメリットの比較や、要件定義が曖昧なまま工事に入ってしまうこと、あるいはメリットを最大化しつつ、デメリットを最小化するための施工方を検討せずに着工してしまうことです。

カートパスのルートを決める

ギル・ハンス氏の図面に記されたカートパスルートはコースのプレーエリからかなり離れてレイアウトされている

カートパス敷設ルートの基本原則

・ティーグラウンドの近くを通す
・プレーエリア(=ラフ)の外周を通す※海外の考え方
・フェアウェイ外周を通す※日本の考え方・プレーエリアを横切らない(プレーに影響を与えない)
・グリーン周辺は特に慎重に設計
・ハザードから遠ざける(OB、池、バンカー)
・危険区域を避ける
・可能な限りプレイヤーから見えないようにする(美観やプレー判断への影響を最小限にする)

乗り入れ文化のない日本ではフェアウェイ外周に沿ってカートパスが設置されるケースが多い

ルート設計で検討すべき応用

例えば、上記に書いた基本原則を理解しつつも、プレーペースを向上させたい場合では、カートパスをできるだけIPやグリーンなどのプレーエリアに近づける(場合によっては横切る)という考え方もあります。

これはプレーアビリティを低下させつつも、プレーペースを向上させるというトレードオフの考え方であり、前提で決めた要件を達成するためには完全に否定されるものではないと筆者は考えます。

重要なことはそのゴルフ場のコンセプトやターゲットや経営戦略であり、それに合ったカートパスを作ることが重要という点です。

グリーン近くでコースを横切るカートパスはプレーに影響を与える一方で、プレーペースが上がる可能性が高い

カートパスの幅を決める

幅3mを超えるベトナムの新設コースのカートパス

カートパスの幅はカートの種類(5人乗りor 2人乗り)や、運用方法(乗り入れを想定するか)、等によって変化します。
またカートパスの幅によって「安全性」「芝の品質」「施工費」にも大きく影響を与えます。

カートパス幅の一般的な目安
2人乗りカートの場合:2.3m〜2.7m
5人乗りカート:1.8m〜2.3m

カートパスの幅が広くなればなるほど、安全性が向上し、乗り降り時の踏圧や摩擦、すれ違い時のはみだしが減少するため、芝の品質が向上する一方で、コストが上がり、人工物としてのプレーへの影響が悪化します。

カートパスの幅についても、前述した要件定義に従ってコストと品質が最もバランスする判断が必要です。

2本のレール型のカートパスは電磁誘導が主流の日本で景観やデザインに考慮された工法の一つ

カートパスの素材

コンクリートカートパスの施工の様子

カートパスの素材については日本ではアスファルトが主流ですが、海外ではコンクリートが主流です。

一般的にアスファルトは施工費が安いですが、耐久性が弱く維持していくための修繕費がかかります。特に温度変化による膨張や、樹木による根上りによって、5年毎程度で補修を必要とすることはアスファルト製のカート道の最大のデメリットと言えます。

樹木の根上りよって割れたカートパス

一方でコンクリートの場合は、初期費用こそアスファルトの2倍程度かかりますが、厚みや構造にもよりますが、おおよそ50年以上は品質を維持すると言われていますから、長期的に見るとコンクリート製の方が割安というのが海外コースでコンクリートが採用されている理由です。
また第3の選択肢として、コンクリートよりも美観を向上させたブリック(レンガ)や、新素材透水性砂利や真砂土コンクリートなどが採用されるケースもあります。

ブリックで作られたカートパス(タイ:Stonehill)
自然な風合いの真砂土舗装

その他の機能

カートパスは基本的にカートが走行するための道路ですが、そのほかにも、さまざまな機能を持たせることが可能です。

①管理道路(メンテナンスロード)としての機能

春日井CCのカートパスはコンクリートで管理機械の利用も想定された仕様で作られた

管理車両の通行だけではなく、近年ではロボット無人芝刈り機のホール間移動にもカートパスが使われるケースが増えています。この場合芝刈り機の幅にアジャストすることでより大きな効果が期待できます。

またコース地下に埋まっている散水や揚水の配管をカートパスの側に平行に通すことで、工事の際にベニヤ板などで養生する必要がなくなり配管修理が格段にしやすくなります。
管理道路をかねて使用する場合は、車両や重機の重さに耐えられるよう基盤や厚みを考慮する必要があります。

②排水路としての機能

米国:Pasatiempo GCのカートパスはU字方で雨水を流す雨樋のように作られている

カートパスを雨樋のように活用するアイディアは近年では多くのゴルフ場で採用されています。勾配によって流れてきた雨水をカートパスがキャッチし、その中で排水することで降雨後のプレーゾーンの乾燥を早めることができます。これは芝の品質向上だけではなく、乗り入れを実施するコースにとっては乗り入れ可能日を増加させる施策になり、収益性を向上させる効果があります。この機能を取り入れる場合周辺勾配からの水流を考慮したルート設計を検討する必要があります。

③レクリエーションとしての機能

米国:Half Moon Bay Golf Linksは隣接するホテルゲストがコース内を歩くウォークトレイルを兼ねたカートパス

日本ではあまり一般的ではありませんが、昨今のゴルフ場建設のトレンドとしてノン・ゴルファーを包含(インクルージョン)、統合(インテグレーション)していく取り組みがあります。

中でもカートパスをウォークトレイルやサイクリングロードとして活用するリゾートやコミュニティは増加しており、こうした機能を持たせる際は、ルート・幅・素材などにも一般的なカートパス建設と異なる判断が必要になる場合があります。

カートパスが与える美観やプレイアビリティへの影響を考慮する

景観への影響を考えて人工芝でカバーしたカートパス

ここまで合理的なことばかりを書いてきましたが、カートパスはあくまでも人工物であり、当然ゴルフのプレーにとってはノイズになります。
アスファルトの黒色や、コンクリートの白色の舗装は景観を分断し、時にはプレイヤーの判断にも影響を与えます。

例えばプロやトップアマチュアのトーナメントを開催するコースでは、カートパスに跳ねたボールの結果によって、そのアスリートの人生が左右される場合もあるので、そうしたコースでは特に注意が必要です。

こうした理由と、歩きのプレーが中心という海外のトップゴルフ場ではカートパスはできるだけプレーゾーンから遠ざける傾向があります。

ボナリ高原GCはカートパスがプレイヤーの視界に入らないよう小さなマウンドで巧みに隠す工夫がされていた

ゴルフ場のカート道路建設に関するまとめ

幅や基盤によっても変わりますが、カートパス建設工事はアスファルトの場合で平米単価5000円から8000円、コンクリートの場合10,000円から13,000円程度になりますから(2025年末時点)、新設する場合は少なくとも数千万円から数億円の投資になることは珍しくありません。

これだけの大きな投資ですから、事前にその投資の目的や成果を明確にしおくことは非常に重要ですし、カート道路はユーザーとのタッチポイントが最も長い設備の一つですから、その品質は顧客満足度にも大きく影響します。

ゴルフ場経営者が成果や目的に沿った施工を実現するためには、要件を定め、その上でどのような選択肢があるのか、それぞれの選択肢が持つメリットとデメリットの関係を理解することが重要です。

最後に、ゴルフ場設備の中でもカートパスへの投資額は常に高額な部類になります。金額とすれば乗り入れ可能なカートを購入できるくらいになりますから、カートパスへの投資を検討する際には、温暖化や高齢化がもたらす将来のプレースタイルの変化も考慮しつつ、そもそも既存のカートパスの修繕に投資をするのか、それともカート自体に投資をするのかという、代替案を持つことも重要になります。

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この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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