持続的可能なネイティブエリアは日本人の美意識に合わない!?人と自然が共存するゴルフ場の未来

近年作られるゴルフ場では、ネイティブエリアの活用が多く見られています。

目次

ネイティブエリアとは

Naturalized Area(回帰範囲)とも呼ばれますが、ゴルフ場内の比プレーエリア(ランドスケープエリア)に人の手を加えず、自生の草を生やし、ゴルフの草創期を彷彿とさせる魅力的な美しさを演出するとともに、水・肥料、農薬、草刈などの労働といった投入資源を削減し、主要なプレーエリアに資源を集中させることで収益の向上をはかったり、野生生物の生息地を強化することで土壌環境や場内の生態系を保つことに利用されています。

近年ではゴルフ場ビジネスのサスティナビリティ(持続可能性)の観点からもその重要性が言及されており、USGAやR&Aもその利点と課題についてさまざまなレポートを出しています。

https://www.usga.org/content/usga/home-page/articles/2018/06/naturalized-areas-fescue-grasses-benefit-golf-courses.html

一方でこうしたネイティブエリアは日本では「汚い」「ボールが見つからない」という理由から普及しておらず、プレーエリア以外のランドスケープエリアの植栽管理や芝草管理に多くのリソースが費やされているという課題があります。

日本人の美意識

日本人の美意識として形容されるものの一つに「侘び寂び」があります。

「侘び」とはつつましく、質素なものにこそ趣があると感じる思想であり、 「寂び」とは時間の経過によって表れる美しさを指します。

日本庭園に代表される景観は、見ると少し物足りなさや寂しさといった哀愁を感じさせながらも、四季折々の表情や時間の経過とともに繁り、やがて朽ちていく儚い美しさを表現しているものが多いのが分かります。

日本のコースに四季の樹木(桜や紅葉)が多く植えられているのも、この美意識を当時のオーナーや施工者(造園業者)が重視したからであると推測されますが、日本庭園を見てもわかるように、その景観は一見無造作なようで、剪定などの手入れにかなり人の手がかかるため、多くのゴルフ場ではコースのいたるところにあるツツジなどの低木の手入れや、コース内に植樹された落葉樹のブロワーに多くの労力が投入されており、労働力不足が深刻な現代においてはその必要性を疑問視される声も高まっています。

実際に多くのゴルフ場では人手不足と人件費高騰を理由に、植栽の管理ができず、その美しさを維持できなくなってきています。

世界で異なる美意識

日本のゴルフ場に見られる日本庭園型のランドスケープエリアと比べると、いわゆる欧米型のランドスケープエリアは対照的にナチュラルガーデン風であり、樹木の周りにを長い草が覆う姿は、日本人の美意識からすると、物足りない景観に感じますが、最新の世界トップ100コースを見ていても、こうしたゴルフの原風景的な景観が支持されているのは事実です。

https://golf.com/travel/courses/top-100-golf-courses-world-2023-24/

また美醜の評価というのは人種によって違うことはもちろん、時代によっても変わります。

例えば日本では侵略的外来種ワースト100に指定され、厄介な雑草とされている「セイタカアワダチソウ」ですが、欧米ではナチュラルガーデンに欠かせない観賞用のキク科植物であり、もともと日本にも明治時代にその美しさから観賞用の蜜源植物として輸入されたのが起源とされています。

美しい→醜いと評価が変わってしまった理由は、セイタカアワダチソウが繁殖旺盛であり、私たち日本人は侘び寂びという美意識によって「儚さに美しさを感じる(桜や紅葉のように季節移ろう中の一瞬の美しさ)」に美を感じるというのも潜在的意識にあるからではないでしょうか。

少し乱暴な偏見ですが、そのように見ていくと欧米人はパーマネント(恒久的)な美しさ、日本人はテンポラリー(一時的)な美意識を持っているともいえます。

これからのゴルフ場に求められる美意識

まず大原則として知っておかなければならないのは、ネイティブエリアといえども “メンテナンスフリー “ではないということです。

メンテナンスの程度は、ゴルファーの満足度、その地域の環境、によって異なりますが、見た目がよく、且つ比較的簡単にボールを見つけることができるようなネイティブエリアを作るには、多くの時間と労力が必要であり、一般的に美しいネイティブエリアを作るには3-5年程度の期間が必要といわれています。また土壌、気候、植生の関係で不可能な場合もありますから、全てのゴルフ場がネイティブエリアに適しているわけではないということも認識することが重要です。

一方でネイティブエリアの利点として、ゴルフの原風景的でパーマネントな美しさ、作り上げたあとの管理資源の削減効果、は今後の労働力不足問題の解決策としても注目されており、ゴルフ場運営におけるソリューションとして検討する価値は十分にあると思います。

私も日本人として、ゴルフ場で見る桜や紅葉、秋に香る金木犀の甘い香りを楽しみにしていますが、一方でその樹木や景観を維持するために費やされている資源や労力を見ていると、美しさを損得で考えてしまうのも事実です。

四季を彩る樹木を眺めるのもゴルフの醍醐味の一つですが、その景観にあなたはいくら払いますか?

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

目次
閉じる