ゴルフ場ビジネスに使える設備投資のフレームワーク

私に寄せられる相談は大きく2つありますが、一つは人や組織問題、そしてもう一つは設備投資の問題です。
特に日本のゴルフ場はバブル期に建てられたものが多く、ほとんどのゴルフ場が開場後30年以上が経過していますから、大規模修繕などの設備投資が必要となっています。

今回は設備投資の典型的な「意思決定プロセス」と、「設備投資の評価方法」「経済性以外の観点」というポイントをまとめて、最後に収益性が低い「老朽化設備の修繕」についての考え方を補足をしたいと思います。

目次

設備投資(積極的設備投資)の意思決定プロセス

設備投資の意思決定プロセスは、通常、以下のステップに分けられます。

課題の定義や目標設定

投資の目的を明確にします。ゴルフ場の場合、目的はサービスの向上による集客の増加、既存設備の改善による費用の削減、顧客体験の向上による客単価の向上、といった具合に「課題」と「目標」を明確に定義する必要があります。

情報収集と分析

市場調査を実施し、業界のトレンド、競合他社の状況、顧客のニーズや期待を理解します。特に日本のゴルフ場だけでは情報の量が少ないので、英語での検索などもおすすめします。

代替案の検討

複数の投資案を考え、それをマトリックスに並べて、それぞれの利点と欠点を比較検討します。

経済的評価

各投資案に対する財務分析を行い、収益性やリスクを評価します。
具体的な経済的評価の方法は後述します。

非経済的要因の評価

信頼的価値、環境への影響、地域社会への影響、従業員満足度など、金銭的に評価できない要素も考慮します。
こちらも後述します。

決定と実行

収集した情報と上記の評価結果を基に、最も適切な投資案を選択し、投資案に従ってプロジェクトを進めます。

評価とフィードバック

プロジェクトの進行状況を監視し、必要に応じて調整します。
忘れてしまいがちですが、設備投資が適切だったかをフィードバックすることで組織能力が向上します。
企業にとっては「投資」はビジネスの根幹ですから、体験学習を通じて組織能力を強化していくことを必ず実施しましょう。

設備投資の代表的な経済的評価方法

設備投資の経済的評価には、以下のような方法が一般的に使用されます。

投資回収期間(Payback Period)

投資額が回収されるまでの期間を計算します。おそらくゴルフ場の設備投資で最も多く用いられる経済的な評価指標です。
投資回収期間の計算方法自体はとてもシンプルで、投資額÷その投資から得られる年間利益額が投資回収期間になります。 例えば投資額が1,000万円の場合、その投資によって見込まれる売上や費用の現在との差額が500万円であれば、投資回収期間は2年となります。

投資利益率(Return On Investment = ROI)

投資利益率とは、投資額に対してどれだけ利益を生み出しているかを見る指標です。
利益金額÷投資金額×100(%)」で計算されます。
こちらも広く使われている指標で、例えば自動精算機の導入によって人件費が削減されるとしたら何%利益が増える?などの経済的な判断に使われます。

正味現在価値(Net Present Value = NPV)

NPVは、投資によって将来生じるキャッシュフローの現在価値の合計から初期投資額を差し引いたもので、投資が時間の経過とともにどの程度の価値を生み出すかを評価できます。

NPV評価の特徴として
・P/L上の利益額ではなく、キャッシュフローをベースにしていること
・割引率(リスクの大きさ)を考慮していること
・設備の耐用年数など寿命を考慮していること

が挙げられます。
これはコース改修や散水設備などの「大規模な投資」「設備の耐用年数が長い」「マクロ環境によるリスクが大きい」場合に有効な評価方法となります。

内部収益率(Internal Rate of Return = IRR)

NPVがゼロになる割引率を求めます。投資の効率性を求める場合に使われることが多く、一般的にゴルフ場の設備投資で使われることは稀ですが、例えば一定の資金を複数の設備に投資する場合に、どういった配分で投資をするのが効率が良いかを判断します。

経済性以外の観点の重要性

経済的評価だけでなく、以下のような視点も重要です。

社会への影響や社会的責任

設備投資の際には地域社会への貢献や社会的責任の実践も期待されます。
環境やコンプライアンス、従業員への配慮、地域社会への貢献などが代表例となります。
「儲かる or 儲からない」だけを基準に意思決定をしてしまうと、こうした責任を果たせないケースが出てきてしまいます。

顧客満足度や従業員満足度

設備が更新されて雰囲気や居心地が良くなれば顧客満足度は向上しますが、それが利益にどう繋がるのか?という定量化は難しいものです。
また従業員の労働環境の整備や、福利厚生、職場に対する満足度は、長期的に見ると「採用コスト」や「人件費」などに反映されてきますが、短期的に設備投資と直結して考えることは難しいのが現実です。

特に難しいのは、機能は変わらないが、素材や色や意匠などの見た目をよくするために、どれだけのコストを支払うのか?という際にこうした議論がよく交わされます。

私の個人的な意見としては、人間とは合理よりも感情で動く生き物である以上、直感的に「快適」「美しい」と思うものに投資をすることは、機能的に「損か得か」よりも重要であると思いますが、先の経済的指標だけで投資を判断してしまうと、こうした「美醜」「善悪」「好き嫌い」といった評価軸が抜けてしまう傾向があります。

組織能力の開発

いつまでも古い設備やデバイスを使わせていると、変化に対応できない組織になってしまったり、創造性が低下してしまいます。代表的なものでいえば、従業員個人に端末やメールアドレスを発行しないことで、いつまでも情報共有を紙ベースにしてしまうなどの例が挙げられます。

新しい製品や設備を取り入れることで、その分野に関する従業員の知識が高まり、創造性や柔軟性が強化されます。

老朽化設備への投資(消極的設備投資)に関する考え方

例えば、古くなった設備を更新しなくてはいけない場合(例:壁紙を直す、床を直す)、費用がかかる割に、その経済的なリターンが少なく、無駄な投資に感じてしまうこともあります。
老朽化設備を更新する設備投資の際には以下の点に注意しましょう。

必要性の再評価・代替案の検討

既存の設備をそのまま使い続けることが唯一の選択肢ではありません。
設備の完全な更新や、別の製品や技術への転換など、他の選択肢も検討してみましょう。

特に最近は技術革新によって、より安価で機能的な製品がでていたり、あるいはそもそも2つ以上の設備を統合できるような機能をもった製品などもあります。

リスク管理

老朽化設備を使い続けることで、法的要件を満たさなくなってしまったり、事故や保障のリスクが高まる可能性があります。こうしたリスクを適切に評価し事前に対策を講じることが重要です。

非財務的評価

すでに述べていますが、特に戦略的設備投資に該当しないような老朽化設備の更新の際は「顧客満足度」「従業員満足度」「企業の社会的責任」「社会的信頼」「従業員の健康と安全」などの視点も重要になります。

コミュニケーション

上記の投資の必要性や、期待される効果についてのコミュニケーションを、オーナー(資本家)はもちろんのこと、顧客、従業員、取引先などに透明性をもって行いましょう。
また低い収益性であることを事前にコミュニケーションして、期待値をコントロールすることも重要です。

設備投資のフレームワークまとめ

見出しにも書いてある通り、設備投資は大きく2つに分類されます。
売り上げや利益の拡大を目指した設備投資である「積極的設備投資」と、故障や老朽化が原因で設備を直す「消極的設備投資」です。

積極的設備投資では「経済的評価」が重要視される一方で、消極的設備投資では「非経済的評価」が重視されます。

しかし、社会的責任や顧客満足度や、従業員満足度だけを満たして、利益が稼げなければ、それは持続可能なビジネスとはいえません。

日本の多くのゴルフ場では、毎年のように故障や老朽化による消極的設備投資に追われていますが、だからこそ積極的設備投資の機会と認識し、事業を一歩前に進める機会にしていくことが重要ではないでしょうか。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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