全米 Golf Impact report から考える日本のゴルフ産業ができること

NGF(National Golf Foundation = 米国ゴルフ財団)が2023年4月に発表した「Golf Impact Report」は全米のゴルフビジネスの経済的影響について網羅的にまとめられたレポートです。
本記事は筆者がこのレポートを引用・要約し、最後に日本のゴルフ産業にも活用できるアイディアをまとめるために作成したものです。

https://www.ngf.org/wp-content/uploads/2023/05/AGIC_Economic-Impact-Report-2023.pdf

2022年の全国経済影響調査によれば、ゴルフはアメリカで非常に人気のあるレクリエーション活動であり、2022年には約7人に1人が参加し、経済活動は1017億ドルに達しました。
これは2016年の841億ドルから20%増加したもので、ゴルフは間接的および誘発的効果も含めると、合計2265億ドルの経済効果をもたらし、165万人以上の雇用を生み出しています。

またゴルフは慈善活動のための素晴らしい資金調達手段でもあり、2022年には約46億ドルが様々な慈善活動のためにゴルフを通じて集められました。これは2016年の39億ドルから16%増加したものです。

なお、本レポートは、全米ゴルフ協会(USGA)がナショナルゴルフ財団(NGF)に依頼して作成されたもので、ゴルフ業界の経済的寄与を推定するために広範な内部データおよび二次データを収集・分析し、経済インパクトモデル(IMPLAN)を使用して国全体の経済影響を算出しています。

目次

全米におけるゴルフ経済規模

2022年にゴルフは全米で1017億ドルの経済活動を促進しました。
これは2016年の841億ドルから20%の増加しており、その規模は2022年にアメリカ人が靴に費やした金額(1046億ドル)や、アメリカの穀物農業(1028億ドル)に匹敵します。世界のランニングシューズ市場(484億ドル)の2倍以上の規模であり、2022年にアメリカ人がペット関連(食べ物、トリート、おもちゃ、薬、獣医療、ペットホテル、グルーミング、保険、ペットシッティング)に費やした1368億ドルより約25%少ない程度です。

ゴルフビジネスが生み出す経済的影響の合計は、間接的および誘発的効果を考慮すると、2265億ドルに達します。
ゴルフは約165万人の雇用を支え、その賃金収入は800億ドル以上です。100万人以上の従業員が直接的にアメリカのゴルフ産業に結びついています。

全米のゴルフ経済の内訳

この表は、2022年のアメリカのゴルフ産業の経済的影響を示しています。ゴルフ産業の総経済影響は2265億ドルに達し、165万人以上の雇用を支え、その賃金収入は801億ドル以上です。また、政府への税収は約296億ドルです。以下は、ゴルフ産業のコア産業と支援産業における直接的および間接的な経済効果の詳細です。

ゴルフの直接的な経済影響は7つの分野にわたります。最も注目すべきはゴルフ施設の運営で、これは全体の36%以上を占めています。この直接的な経済影響には、アメリカ国内の約14,000のゴルフ施設での資本投資や改修、ゴルフ関連の小売、用品および製造業者、ゴルフトーナメント、協会および慈善イベント、ゴルフによる観光、そしてゴルフ不動産が含まれます。アメリカにはゴルフに主要な関心を持つ企業が約8,700社あり、さらに約3,500のゴルフ協会および非営利ゴルフ団体が存在します。

このグラフは、2022年のアメリカにおけるゴルフ産業の直接的な経済規模を示しています。

ゴルフ産業の主要分野

ゴルフ施設収入 370億ドル

ゴルフ施設からの収入には、プレイ料金、メンバーシップ料金、レンジ料金、食事や飲み物、商品販売などが含まれます。
プレイ料金とメンバーシップによる収入は2022年に370億ドルを超えました。レストランおよび飲食もこのカテゴリーに大きく貢献しており、2016年の344億ドルの経済影響推定値から約8%増加しました。
非伝統的なオフコースゴルフ会場(ゴルフエンターテイメント、シミュレーター、ドライビングレンジ)の数が増え続けている一方で、2016年から2022年にかけて1,068カ所のゴルフ施設が減少しています。

ゴルフ関連小売、用品及び製造業者 72億ドル

ゴルフ用品や機器、アパレル、シューズなどの小売売上や、製造業者からの収入を示します。
この72億ドルセグメントの主な要因は、消費者小売、特にゴルファーがゴルフクラブ、アパレル、シューズ、アクセサリーなどに費やす金額です(ゴルフ場施設で購入されているものを除く)。

資本投資 36.5億ドル

ゴルフ施設への新規投資や改善に使われた資本を示します。
この36億5000万ドルは、通常のメンテナンスおよび運営費用を超えたゴルフ施設での主要な設備投資です。新しいゴルフコースの建設は4%未満であり、大部分はコースの改善(グリーン、ティーイングエリア、バンカー、カート道、新しい芝、灌漑システム)やクラブハウスおよびその他の建物の改修またはアップグレードに投資された費用の合計です。

慈善寄付 45.9億ドル

ゴルフを通じて集められた慈善寄付金額です。
2016年の39億4,000万ドルと比較して16%増加しました。寄付の90%以上は地元のゴルフコースでの慈善ゴルフイベントによるもので、2022年にはアメリカのゴルフ施設の5分の4が少なくとも1つの慈善ゴルフトーナメントまたはイベントを開催しました。

ゴルフトーナメント、協会収入、企業からの支援金 33.5億ドル

ゴルフトーナメントの開催、協会の活動、プロゴルファーへのスポンサー契約などによる収入を示します。
PGAツアー、USGA、PGAオブアメリカ、LPGAがゴルフ協会収入の約50%を生み出していますが、アメリカには合計3,467のゴルフ協会または非営利ゴルフ団体があります。このセグメントには、ゴルフとは無関係な企業(例えば、ロレックス、NetJets、DraftKings)からの支援金も含まれており、ゴルファーやゴルフ協会に対して、自社製品やサービスを推薦するための支払いが行われています。

ゴルフ産業の支援分野

ゴルフツーリズム 310億ドル

ゴルフを目的とした旅行による経済活動を示します。
世界のゴルフコースの40%以上と1,000を超えるゴルフリゾートが存在するアメリカでは、ゴルファーによるゴルフツーリズム関連の支出が2022年に310億ドルを超えました。NGF(ナショナルゴルフファウンデーション)の推定では、50マイル以上の距離を移動してゴルフをプレイする(少なくとも1ラウンド)アメリカ国内の旅行が2,600万回以上あり、このカテゴリーの支出にはゴルフ施設での支出以外に、旅行、宿泊、食事および雑費が含まれます。

ゴルフ不動産 147億ドル

ゴルフコースに隣接する不動産の売買や開発による収入を示します。
ゴルフコミュニティにおける新築住宅の建設、改修および再建に関連する支出、およびゴルフ住宅の不動産評価額に関連する経済活動と「ゴルフプレミアム」に関連する経済活動を含め、約147億ドルの支出を測定しました。アクティブでアウトドアなコミュニティに住む機会は、リモートワークの選択肢とパンデミックによって人気が高まっています。

全米ゴルフ経済拡大の理由

米国のゴルフ経済は過去20年以上で65%以上成長しており、継続的な調査によれば、ゴルフ経済は米国経済のサイクルと共に変動する傾向がありますが、常に参加者数とプレー数によって大きく影響されます。
将来の成長(および業界の健全性)のために、主要な米国のゴルフ協会、組織、および業界パートナーは、アクセスと親しみやすさを改善するための取り組みに努力し、その結果この「一生続けられるゲーム」の参加者基盤の多様化を図っています。

前回の2016年の経済影響レポート以来、米国内のゴルフ場での参加者は6年間連続で成長し2560万人に達しました。
注目すべきは「非伝統的なオフコース形式のゴルフ」の成長です。
実際にゴルフ場以外でゴルフをしたアメリカ人の数(ドライビングレンジ、トップゴルフ会場、インドアシミュレーター、学校プログラムなど)は2022年に2790万人に増加し、観測以来初めてコース上でのプレー人口を上回りました。伝統的なゴルフをプレーした人々と、オフコースの代替形式にのみ参加した人々を合わせると、ゴルフの総参加者は4110万人に達し、2016年以来の総参加者数は28%増加したことになります。

この進化は特に注目に値します。というのも、オフコース形式のゴルフは、伝統的なゲームを補完し、興味や関与を高め、スポーツのイメージを向上させると同時に、参加者を多様化するのに役立っているからです。
オフコース形式のゴルフの普及、特に楽しく社交的で親しみやすいゴルフエンターテイメントの提供は、NGFの「潜在需要」という測定値を62%(2016年以降)増加させました。これはノンゴルファーがコース上のゲームを試してみたいという興味を示す指標です。一方、コース上の参加者の中で女性や人種的多様性のある参加者の割合は過去最高レベルに達しました。女性は伝統的なゴルファーの25%を占め、アフリカ系アメリカ人、アジア系およびヒスパニック系は全コース上のプレイヤーの22%を占めています。これらの割合はオフコースのゴルフ参加者の中ではさらに高くなっており、将来的にはより大きな機会を示唆しています。

全米のゴルフ場施設の収入データ

ゴルフ施設の収入は、グリーンフィー、カート料金、メンバーシップ料金、ドライビングレンジ料金、食事と飲み物、プロショップ、イベントや催しなどから得られます。

ゴルフ場施設の収入の内訳

ゴルフプレイ料金:119億1500万ドル(総収入の32.1%)
メンバーシップ料金:115億4200万ドル(31.1%)
小売売上:27億4200万ドル(7.4%)
レストラン:79億8700万ドル(21.5%)
レッスン:4億7600万ドル(1.3%)
その他:11億7400万ドル(3.2%)
ドライビングレンジ:12億6100万ドル(3.4%)

これらの合計で370億9600万ドルの収入となり、これは2016年の344億1700万ドルから7.8%(26億8000万ドル)の増加を示しています。

アメリカは世界で最もゴルフコースが充実しており、2022年初めには13,946施設に15,945コースがありました(これはスターバックスやマクドナルドの店舗数を上回ります)。しかし施設数は供給過剰の調整と業績不振施設の淘汰によって2011年以降では1,805減少しました。

筆者考察

このほかにも、各ゴルフ産業分野ごとに細かな考察が書かれていましたので、ご興味のある方はオリジナルのレポートを読んでいただくこととして、特に日本のゴルフ産業が参考にすべきと思った点についてまとめてみたいと思います。

1.) 潜在的ノンゴルファーの創出

全米ではゴルフ場でのプレー人口2560万人に対して、ゴルフ場以外のゴルフ施設の利用者数が2790万人とゴルフ場のプレー者数を上回っており、これらのファクトからゴルフの潜在的需要が高まっていることが伺えます。

日本でもコロナ禍の助成金バブルでインドア施設やシミュレーター施設が増加していますが、そのほとんどが既存のゴルフプレイヤーを対象としており、潜在的需要の創出となるノンゴルファーへの働きかけが弱いと言えます。

アメリカではゴルフエンターテイメント施設であるTopgolfや、家族向けエンターテインメントとカジュアルダイニングを融合したPopstrokeなどノンゴルファー向けの複合施設が誕生している他、ヨーロッパでも複合型地域ゴルフ施設Golf itが誕生するなど、こうした潜在的ノンゴルファーの発掘が産業の発展に必要不可欠であることがわかります。

2.) メンバーシップベネフィット

残念ながら日本にはこれだけ網羅されたレポートが存在していませんが、日本の2022年のゴルフ用品の市場規模が約3000億円と言われていますから、今回の全米のレポートと単純に比較すると日本は全米の用品販売の約25%程度の市場規模を推測できます。
またゴルフ場の収入でも「レジャー白書2022」で8340億円と推測されていますから、こちらは56億ドルと仮定すると全米の15%程度の市場規模と考えられ、日本はゴルフ場の収益力が相対的に低いことが推測できます。

特に全米のゴルフ場のデータを見ていると、プレー代収入はゴルフ場収益の32.1%であり、会員の年会費収入が31.1%、レストラン・ショップ・練習場が33.6%という3つの柱が収益構造になっていることがわかります。

一方でこれを日本のゴルフ場に置き換えてみると、仮に平均的と言われる、4.1万人の来場者×9600円の客単価 = 約4億円の売上と仮定した場合、年会費収入だけで1.3億円程度が妥当であるという計算になります。
これは日本の平均的な会員数から算出すると、年会費が15万円以上が妥当ということになりますから、やはり日本のゴルフ場には固定収入の柱となるメンバーシップベネフィットへの注力が必要不可欠と言えます。

3.) その他の収益機会

また、ゴルフツーリズムやゴルフ不動産の分野が拡大していることも注目したいポイントです。
会員向けの旅行商品の販売、インタークラブの選手などを対象にしたゴルフ合宿などはどのクラブでも実施可能な施策ですし、ゴルフ場内の住宅コミュニティも大きな可能性を秘めていると言えます。

4.) チャリティーイベントとCSR

全米で特に多く開催されているゴルフ場主催のチャリティーイベントを調べてみたところ、多くはクラブが主催するゴルフコンペの参加費の中から一部を地元の学校や障害者施設などへ寄付するものや、地域のジュニアゴルファーに対しての無料レッスン会や、ジュニアゴルファーに対してゴルフクラブや消耗品などを寄贈するためのイベントでした。

社会のサステナビリティの実現には、経済合理性以外の視点も重要になることや、CSRがもたらす企業価値の向上についてはすでに既知の事実となりつつありますから、パーパスやビジョンを体現する機会として活用していくことで、地域や社会に応援してもらえるゴルフ場になるのではないでしょうか?

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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