ゴルファーの飛距離はどこまで伸びるべきか?飛距離規制に向けた合意形成が難しい理由

世界のゴルフルールを統括するR&AとUSGA(全米ゴルフ協会)は2023年3月14日に共同で「ゴルフボールに関する新たな規則の提案」を発表しました。

GDOニュース
“飛ばないボール”を競技ゴルフで使用へ R&A、USGAが新ローカルルールを提案
“飛ばないボール”を競技ゴルフで使用へ R&A、USGAが新ローカルルールを提案ゴルフルールを統括するR&AとUSGA(全米ゴルフ協会)は14日、ゴルフボールに関する新たな規則の提案を発表した。ゴルファーの伸び続ける飛距離に対応し、“飛ばないボール”...

これはゴルファーの伸び続ける飛距離に対応し、“飛ばないボール”の使用をプロツアーやトップアマチュアらが参加する競技者向けの大会のローカルルールとしての採用を促すもので、この提案に対して、世界中のプロゴルファーからも賛否の声が寄せられています。

この記事では飛距離を制限するルール改正の必要性と、一方で規制に向けた合意系形成がなぜ難しいのかについて解説するとともに、ゴルフを愛する読者の皆様が「ゴルフの未来」について考えるきっかけになればと思います。

目次

伸び続ける飛距離

PGAツアーが初めて公式に飛距離の計測を始めた1980年からプロゴルファーの飛距離はこの40年で40ヤード以上伸びたと言われています。

1980年のPGA平均飛距離は約256ヤードで、この頃はパーシモンヘッド、スチールシャフト、巻きバラタボールが使われていた時代です。

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その後メタルヘッド、カーボンシャフト、プラスチック素材のボールが主流となり、こうしたゴルフ用品の素材の軽量化と強度化、あるいは航空力学やAIを使った構造技術の発達、さらにセンサーやアプリケーションの発達によって飛距離を伸ばすためのスイングメソッドやトレーニングも科学的に体系化され、現在のPGAプレイヤーの平均飛距離は298.4ヤードになりました。

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飛距離の向上がもたらした様々な問題

ゴルファーとメーカーの飽くなき向上心がもたらした飛距離の向上は、プレイヤーに飛ばす楽しさや憧れを提供しただけではなく、様々な問題も同時に引き起こしています。

ゴルフコースの競技性の低下

特にプロやトップアマなどの競技ゴルファーの大会が行われるコースは、その権威性から歴史的にも価値のあるゴルフコースで開催されますが、こうしたアスリートの飛距離が飛躍的に向上したことで、ほとんどのPar5が2オン可能になってしまったり、ハザード無効化してしまうなど、コースが本来意図する戦略性が低下し、大会のためのコースの改修を余儀なくされています。

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こうしたゴルフ遺産とも呼べるコースがその原型を失ってしまうことで、そのホールで起こった過去の歴史的な出来事を語り継ぐことができなくなってしまうなど、ゴルフの文化的価値が低下することへ危惧するゴルフ関係者も多くいます。

ゴルフ場の「管理コストの上昇」と「環境への責任」

これと同時に特に競技を開催するゴルフ場は、その戦略性を維持するためにコースの改修、それに伴う用地買収などのイニシャルコストの負担だけではなく、コースの管理面積が拡大することによるランニングコスト(管理コスト)が増えるなどの問題もあります。

またゴルフ場のメンテナンスには多くの人材が必要になりますから、世界的に不足していると言われている管理スタッフの採用プレッシャーの増加や、水や肥料などの有限資源を大量に使うことへの環境への責任の観点からも、産業としての持続性について疑問の声が多いのも事実です。

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アマチュアとプロの格差の拡大

プロゴルファーの飛距離がこの40年で40ヤードも伸びたのに対して、アマチュアゴルファーの飛距離は実は大きく変わっていません。

アメリカのゴルフ場運営会社TROON GOLFの調査によるとボギーゴルファー(90台のスコアで回るアベレージゴルファーの総称)の平均的な飛距離は188ヤードから200ヤードの間から変化していないと推測されており(アマチュアゴルファーの場合公式なデータが存在しないためカーとナビゲーションなどから算出された推定値)、弾道計測器のTrackmanによると2015年と2018年を比較したデータではむしろ2-3ヤード低下しているというデータもあります。

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これはプロゴルファーが30代をピークに入れ替わっていくのに対して、一般のゴルファーはゴルフが生涯スポーツであるために参加者の平均年齢が年々上がっていること、2つ目の理由に上述した最新の道具やセンサーの技術革新の恩恵をを真っ先に受けるのはプロであり、ゴルフを趣味の一つとして楽しむゴルファーは毎年道具を買い替えたり、何百万円もする解析機器を使うことはほぼないので、その効果が波及していく範囲やスピードが緩やかであるために差は年々大きくなっていくと考えられています。

参入障壁の上昇

これらの結果として、管理コストの増加によるゴルフプレー代の上昇、コースの拡大による難易度の上昇、環境負荷というイメージの低下につながり、新たなゴルファーの参加障壁を高め、ゴルフ人口の減少につながり、それが産業全体の成長に深刻な影響を与えるのではないか?というのが飛距離に対する規制の前提になっています。

ゴルフ関係者から起こる様々な声

こうした飛距離の制限に関して必要性を訴える協会に対して、特に用品メーカーやプロゴルファーからは批判的な意見も出ています。

特に用品メーカーは、過去にもフェースの反発規制、ヘッドの慣性モーメント規制などの規制によって差別化の難しさに直面しており、競合他社との差別化だけではなく、自社の過去製品との差別化も難しくなることから、将来の用品の売り上げに影響を与えることを懸念しています。

またプロゴルファーからもジャック・ニクラウスやタイガー・ウッズなどの歴史的プレイヤーが規制の導入に対して肯定的な意見を発表する一方で、プロとアマが異なったゴルフ用品を使用することについては、PGAツアーが実施したアンケートではプロの60%以上が反対していると言われており、「プロもアマも同じルール、同じフィールドで同じルールでプレーができるという公平性がゴルフの魅力であり、ルールを分けることで多様性が失われる」という意見や、「同じルールでプレーしているゴルファーだからこそプロの技術やフィジカルへの尊敬が生まれており、それを放棄することはプロビジネスの産業の衰退に繋がる」といった懸念が挙げられています。

USGAとR&Aは今回の発表に伴い、2026年の全英オープン、全米オープンをこのローカルルールで実施すると明言しており、今後もこの規制の動向が注目されます。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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