ゴルフビジネスに関わる人なら知っておきたい。これから日本で起こる世界の3大トレンド

ゴルフビジネスに限らず、ビジネスの世界ではマクロ環境の変化、すなわち政治、経済、社会、テクノロジーがもたらす世の中の変化を的確に捉えることが不可欠とされています。

なぜなら、こうした「マクロトレンド=時代の流れ」に気づかないでいると、いつの間にかサービスやプロダクトが時代遅れになって競争力を失いやがて事業は衰退してしまうからです。

実際に世界的にはゴルフ人口が増えているにも関わらず、日本のゴルフ人口が減少に転じているのも、こうした社会変化に対応できなかった結果とも言えます。

ですから日本を含めた全世界・社会の潮流を捉えることは企業単位の事業戦略よりもはるかに重要なことであり、ビジネスリーダーがこうした社会変化を常に理解し、中長期のロードマップを作ることは何よりも大切です。

そこで今回は今後日本に起こる大きな3つの社会変化を示すとともに、その中でゴルフビジネスが取り組むべきことついて書いてみたいと思います。

目次

いま日本で起こっていること「日本の反社会性」の危うさ

本題に入る前に、まず前提を整理しておきたいと思います。

残念ながら今回の記事を読んでも、まったく書かれていることにピンとこないという方もいると思います。特に現時点で40代半ば以降の方に多いと予想していて、なぜあなたがこの話題にピンとこないのかも本章に書かれています。

しかし、本章を読んで尚ピンとこないという方は途中を一気に読み飛ばして、一番下までスクロールして「最後の一文」だけを読んでください。

実は世界ではZ世代と呼ばれる1997年以降に生まれた人口が1/3以上になっています。そこにミレニアム世代(Y世代)と呼ばれる1981年以降生まれの人口を足すと世界人口6割以上になります。
一方で日本ではZ世代が14%ミレニアム世代が22%と言われており、世界平均の全体の6割に対して全体の3割と半分の構成比になっています。

要するに日本では高齢者の思想が民意の中心である一方で、世界では40歳以下の若者の思想が民意の中心なのです。

SDGsやESGといった言葉を聞いても、言ってることは分かるけどまったくピンとこないと感じる人の多くはこうした高齢者が中心であり、実際に年齢が上がるほどに環境や差別や貧困に対する感度が低いことが分かっています。
(性年代別SDGs認知率では20代が最も高く、60代が最も低い:株式会社電通パブリックリレーションズ調査

批判を恐れずに言えば、日本のおじさん経営者や、おじさん管理職は、いま世界が問題視している社会的な課題にピンときていないし、関心もないし、それに真剣に取り組む人や企業に協力も応援もしないで、今までと同じように生産して消費する、という反社会的行動を無意識に取っているという事実です。

さらに日本のCEOの着任平均年齢は61歳と世界最高齢であり、CEOの学歴、多様な業務経験、語学を含めたスキル、他企業での経営経験においても世界最低に位置しており、決して優秀とは言えない古い価値観をもった経営者が未来の意思決定をするという危うさが分かっていただけるでしょうか?(世界CEO調査

この特殊な日本の逆バリが良いか悪いかの議論は別として(もしかしたらガラパゴスのような昔を懐かしむための国としての確固たる地位を確立するかもしれない)、国連やWEFがこうした世界規模の世論に沿って足並みを揃えていく際に、日本だけがその方針に従わないというのは現実的ではないのは明らかです。

ですから、あなたが共感するかしないかに関わらず、こうした社会の大きな潮流を知り、その流れに沿った事業戦略や組織を作っていくことは必要不可欠と言えます。

世界トレンド その1「脱炭素」

ゴルフ場に設置された大規模ソーラー施設

こちらは日本でも環境省がHPを開設しており、様々な補助金なども出ているのでゴルフ関係者の中でもご存じの方が多い社会課題だと思います。

脱炭素ポータル|環境省
カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省
カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省カーボンニュートラルについての基礎的な情報と、気候危機の現状、2050年カーボンニュートラル実現に向けてのロードマップをご覧いただけます。

実は日本はつい最近まで「脱炭素社会の実現」についてのコミットメントを示していませんでしたが、菅内閣が初めて明言したのです。

https://sdgs-support.or.jp/journal/decarbonisation/

一昔前まで環境問題は「意識高い系の人の思想」という位置づけだったのが、ここ数年で「脱炭素」は世界的なコンセンサスになり、投資などの経済の動きもそれに合わせて活発になっており、世界最大の資産運用会社であるブラックロック一般炭事業への投資方針の見直しなどのESG投資方針を明確に打ち出しています。

これにより二酸化炭素を大量に排出する機械や部品は設備投資が困難になることから、今後生産ができなくなっていくことが予想され、数年以内には重油ボイラーで炊いた風呂に入るゴルフ場は悪とされ、焼却炉なんてもってのほかになる一方で、コースから出た伐採木や落ち葉を堆肥や燃料とするゴルフ場は地域の自慢になる日が来ることは容易に想像できます。

設備更新の際にはこうした環境配慮の視点を持っていると長期的な投資回収が可能になると思います。

この章の参考図書:

世界トレンド その2 「格差の是正」

世界全体の富の4割以上を上位1%が支配している一方で、下位50%の人々の資産を全て合計しても全世界の資産の2%にしかなりません。

にも関わらず低所得国の3分の1以上では国民一人当たりの富が減少しており、このような国々では、再生可能な自然資本基盤(水、土壌、大気)も劣化傾向にあります。
これはマルクス資本論的に言えば、資本家が労働者の労働力を安く買い叩いた結果であり、それにより「労働者を労働の再生産が不可能な状態に追い込んでいる」ということを意味します。

もう少し噛み砕いて言えば、資本論者(お金儲けを善とする思想)が、安い労働力と自然破壊によって得た利潤を、労働者の高度教育の実施や、環境の保全に再投資しなかった結果、労働者たちは職業能力や自然環境の面からその後別の仕事に就くことさえ出来ない状態になっている。ということです。

自由主義では頑張った人が報われる世の中の実現において「格差」は必然に作り出されるものだと考えられていますが、企業が従業員の労働力を過剰に安く買い叩き、人権や環境を犠牲にした労働力確保は”現代の奴隷制度”とも表されており社会的な疑念が持たれています。

根本的な解決はベーシックインカムや税制など国家単位での「富の分配」になっていくと思いますが、こうした流れから企業単位では例えば決して賃金が高いとは言えないゴルフ場などの労働集約型ビジネスにおいても、従業員への教育や、業務の高度化(低賃金労働や単純労働に廃止)は企業の社会的責任になっていくと考えられています。

この章の参考図書:

世界トレンド その3「多様性と差別」

世界経済フォーラム(WEF)が3月31日に発表した世界各国の男女平等の度合いを示すランキング「ジェンダー・ギャップ指数」。日本は156カ国中120位と、前回(121位)同様、先進国の中で最低水準でした。

日本での女性活用は労働資源の確保という文脈が多いのですが、そもそもなぜ女性の活用がこれほどまでに課題になるのかというと、先進国では女性が出産に伴う休職や離職で失う生涯年収は2億円以上と言われており、世界人口の半数を占めている女性だけにこれほどまでの負担や、自己実現の抑制を強いることによって私達の社会が成り立っているという背景があります。

また社会に進出する女性が増えることで、消費決定権を持つ女性が増えると同姓の気持ちがわかるリーダーが増えることは企業の競争力を高める他、福利厚生や働き方の面でも女性リーダーが加わることで社会が思いやりをもったより良い方向へシフトするという共通認識があります。

同じことは社会的マイノリティにも言われており、LGBTや障害者、さらには人種にまで及んでいます。
実際にスポーツブランドのナイキはジェンダーや有色人種への差別に対する世界広告を繰り返す企業として有名ですが、こうした過激とも思えるPRでさえも、世界のマジョリティ(過半数以上)に支持され、ここ5年で株価は3倍以上になっていますし、反人種差別主義の会社を公言するアウトドアブランドのパタゴニアも世界で存在感を高めています。

このように女性や社会的マイノリティを企業が積極的に登用していくことは、よりよい社会につながるという世界の共通認識があるということです。

残念ながらゴルフ業界では85%が男性プレイヤーと言われており、そうした背景から管理職も男性ばかりというのが現状です。

まとめ

如何でしたでしょうか?

実際にすでに欧米のゴルフ協会はこうした社会課題に取り組む対策をいくつも実施していて、ゴルフ先進国の中では日本だけが遅れを取っている状況です。

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私は決して悲観論者ではありませんし、環境活動家でも人権問題の専門家でもありませんが、これまで書いたように、私達日本人がどんな思想を持とうと、世界の一員である以上はこうした世界世論の影響を受けるというのが私が伝えたいキーメッセージです。

こうした取り組みを傍目に見ながら、私達にとってはなにか他人事のような、あるいは一部の人や企業の綺麗事のような感覚なってしまうのは、冒頭に書いたとおり私達が「日本」という実感に乏しい特殊な環境にいるからであり、そんな私達が自分ごとにできず傍観している間にも世界ではこれらの課題に対しての解決策が次々と決まり、そしてやがて大きな波として、ある日突然にそれは法律や規制として目の前にやってくることは確実です。

ですから社会変化を捉え、こうした事態に備えていくということは
・銀行・投資家・債権者(会員)からの評価向上(資金調達がしやすくなる)
・ブランド力強化による企業価値(業績)向上
・経営リスクの軽減

などの効果があり、社会課題の解決に貢献する企業は倒産リスクが低下したり、企業活動に対する社会からの協力が得られ易くなるなどのメリットがあります。

ゴルフ産業がこれからも社会的に尊敬され、顧客や労働者を確保していくために具体的には以下のポイントが重要になると考えられます。
1.) 社会規範(社会課題の解決)に沿った経営方針をたてる
2.) 女性、若者、外国人を積極的に登用し多様性を生み出す
3.) 誠実な情報発信

21世紀は「共感の時代」と言われることからも分かるように、こうした企業の姿勢はすぐにSNSなどでシェアされていきますから、1.)と2.)に真摯に取り組み、それについての情報発信をしていくことがポイントになります。

さて最後に、実は社長の年齢別に直近の企業業績を調査した結果、30代以下の経営者の「増収」が54.2%と最も大きく、70代以上の経営者では「赤字」や「連続赤字」の割合が全年代で最も高く、社長の高齢化と業績不振には関連性も疑われています(東京商工リサーチ調べ)。

日本の競争力低下の原因となっているデジタル化の遅れもデジタルリテラシーに乏しいリーダーが「ピンとこなかった」から、「きっとデジタルシフトなんて起こらないだろう」と思って変化しない方に掛けたことが原因であることからも分かるように、一番の効果的な対策はこうした社会変化に敏感で、問題を主体的に捉えれる「ピンとくる人」をリーダーに据えるということかもしれません。

この記事を書いた人

ゴルフ活動家
ゴルフビジネスに特化したコンサルティング、ゴルフ場のオーナー代理人、ゴルフコース改修プロジェクトマネージャー、人材育成のためのコーチング、セミナーや執筆をしてます。詳しくはプロフィールページをご覧ください。

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