「ペップトーク」という言葉を知っていますか?
ペップトークとは主にスポーツコーチングで使われる、選手を励ましたり、勇気づけたり、動機付けをすることを目的とした短いスピーチのことを言います。
私はゴルフコーチとして活動していた時にコーチングを学びましたが、その後ビジネススクールでOBH(Organization Behavior of Leadership = 組織行動とリーダーシップ)という科目でリーダーの役割としてのエンカレッジメントを学んだ際にもペップトークに関する本を何冊か読みました。
ペップトークの必要性
私たちはゴルフの競技やプレゼンテーションなど本番が近くなると緊張したり、不安になったりして本来のパフォーマンスが発揮できないことはしばしばありますし、日頃の努力の過程でも「疲れの蓄積」や「やる気の低下」、練習で同じ失敗を繰り返したり、期待した効果が出ないことによる「肯定感の低下」などで努力を継続できず止めてしまうことがあります。
こうした経験はスポーツだけではなく、仕事や趣味の中でもでも実感したことがある方は多いのではないでしょうか?
そうなってしまった場合、自分で再び動機を取り戻すことは難しいものです。
そこでコーチは選手やクライアント、あるいは部下にやる気を引き起こさせるための行動をとります。その代表的な手法が「ペップトーク」です。
「Pep」とは「元気」や「気力」を意味し、文字通り人が元気になったりやる気になったりする言葉をかけることを意味します。エンカレッジメント(勇気づけ)とも言われることがあります。
スポーツコーチはもちろん、組織を牽引するリーダーや、チームをマネジメントするマネージャーにも必要不可欠なスキルと言われていて、私が以前に経営していたゴルフレッスンの会社ではゴルフコーチにペップトークの研修もしていました。
ペップトークの効果
私たちに気力や元気が必要な時はどんな時でしょうか?
緊張している時、不安や心配がある時、疲れている時、自信をなくしている時、様々な場面が想像されますが、それでも私たちは目の前にある本番、練習、課題を乗り越えて行かなくてはいけません。
わたしたちがそのように「乗り越えるぞ!」という決断をしたり、行動を起こすためには「動機(心的原因)」が必要です。
動機には外発的動機付けと内発的動機付けの2種類がありますが、一般的には活動量や、行動の質、持続性、自律性などのパフォーマンスが高い「内発的動機付け」を行うことがペップトークの目的です。
以前に書いたコーチングの記事にも動機付けについて書いてあるので参考にしてください。
ペップトークの具体例
ペップトークの実例は多く紹介されていますが、特にアメリカのスポーツ映画では必ずと言って良いほどペップトークの名シーンが出てきます。今回はいくつかの映画の名場面をピックアップしてみました。
勝利への旅立ち(Hoosiers)
『勝利への旅立ち』(Hoosiers)は、インディアナ州の小さな町の高校バスケットボールチームの栄光を描い実話作品です。アカデミー賞でも複数の部門にノミネートされ、USAトゥデイ紙は「歴代のスポーツ映画の中でも最も素晴らしい」と評された名作です。
(0:49)Focus on the fundamentals that we’ve gone over time and time again … If you put your effort and concentration into playing to your potential, to be the best that you can be, I don’t care what the scoreboard says at the end of the game. In my book, we’re gonna be winners!
(0:49)何度も何度も繰り返してきた基本に集中すること。自分の可能性を最大限に発揮するために 努力と集中力を注ぐことができたら、試合が終わった時にスコアボードが何と語ろうと私は気にしない。私が思うに、僕らは勝者になる!
ミラクル(Miracle)
1980年の冬季オリンピックの決勝戦でソ連チームを打ち破ったアメリカ代表の実話を元に映画化したアイスホッケードラマ。大学生の寄せ集めチームであるアイスホッケーアメリカ合衆国代表が金メダルを獲得するまでを描いた作品です。
(0:22)Great moments are born from great opportunity. And that’s what you have here tonight, boys. That’s what you’ve earned here, tonight. One game. If we played ‘em 10 times, they might win nine. But not this game. Not tonight. Tonight, we skate with ‘em. Tonight, we stay with ‘em, and we shut them down because we can!
(0:22)偉大な瞬間は偉大なチャンスから生まれる。それが今夜だ。それが今夜君たちがここで得たものだ。
1試合だけだ。10回やれば奴らは9勝するかもしれない。だがこのゲームは違う。今夜は違う。
今夜は彼らとスケートをするんだ。今夜は奴らを食い止め、奴らを打ち負かすんだ!
ペップトークのポイントはいくつかありますが、この2つの例の中では
・結果ではなく、行動にフォーカスさせること
・成功を心から信じること
・成功をイメージさせること
・激励すること
というポイントが参考になります。
この他にも「信頼」や「感謝」を伝えるというのもペップトークではよく使われます。
ペップトークの注意点
未来への期待
よくコーチングでは「承認」の重要性から傾聴や、ポイジティブフィードバック(褒める)の必要性が言われますが、フィードバックは既に行った行為(過去)に対してのコメントに対して、ペップトークはこれから起こること(未来)へ対してコメントします。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは別名「教師期待効果」とも言われ、教育心理学では「人は期待された成果を出す傾向がある」ということが認められています。要するにコーチやリーダーが選手や部下に期待を寄せるという行為そのものがコーチングなのです。
(ちなみにピグマリオン効果の反対に期待の低さによって成果が落ちてしまうことをゴーレム効果と言います。)
私たちには常に期待を寄せる態度や言葉が求められるのです。
心から言える人間力を磨く
これまで見てきたようにペップトークはコーチングのテクニック(技術)ではありますが、やはり最も大切のは”気持ち”です。本当に期待しているか、本当に信頼しているか、本当に感謝しているか、そういう気持ちは態度になって相手に伝わります。
ペップトークを単なるテクニックではなく、自然と相手を信頼したり励ませる胆力や人間力を身につけることこそが、コーチやリーダーとして最も大切なことなのかもしれませんね。