全米でハンディキャップをもつゴルファーは2019年時点で約250万人前後(USGA)と言われており、これは米国内におけるゴルフ人口2500万人の約10%程度と推測されています。また日本のゴルファーのハンディキャップ保有数は52万人(ゴルフ市場活性化委員会)と言われていますから、やはり国内ゴルフ人口550万人の約10%程度と見込まれており、このことから一般ゴルファーの約9割はハンディキャップを取得していないゴルファーということになります。
たしかに仲間内でゴルフを楽しむレクリエーションラウンドでは、ハンディキャップなどは申告することもなければ、もちろん利用することもないですし、よほどの競技思考のゴルファーでない限りはハンディキャップに縁がないというのが事実ではないでしょうか?
一方で、ゴルフ活動の普及を目指す各国のゴルフ統括団体は、足並みを揃えて世界統一のハンディキャップシステムを整備し、ゴルファーへの普及を目指して動き出しました。
ハンディキャップシステムについて知ることで、ゴルフ団体が描くゴルフ市場の成長戦略と、ゴルファーの理想の姿が見えてきます。
実はバラバラのハンディキャップ基準
これまでハンディキャップの計算方法というのは、基準スコア、算出方法、期間など、国や地域によって実はバラバラでした。
クラブハンディキャップ
最も古いと言われている「クラブハンディキャップシステム」は、そのクラブの中での競技に公平性を策定するために作られたハンディキャップシステムであり、そのクラブで一番上手な人をスクラッチ(ハンディ0)として、クラブ競技などを開催する際には、最も上手な人を基準に、参加者は自分のスコア分のハンディを加算するというものです。
近年では、コースをパープレーで回れる技量がある人をスクラッチ(ハンディ0)とするなどの方針を持つコースもありますが、いずれにしてもそのクラブ内での競技を目的とした指標であり、難しいコースで取得したハンディキャップと、易しいコースで取得したハンディキャップとでは、同じハンディキャップであってもゴルファーの技量に違いがでることになりますし、長くスコアを提出していなかったり、あるいはハンディを恣意的にコントロールするために特定のスコアは提出しない行為があった場合、正しいハンディキャップが測定できないという問題がありました。
オフィシャルハンディキャップ
上述したように、クラブハンディキャップではコースや、地域、国をまたいで競技を実施する際に、同じハンディのはずなのに技量が違うという問題が出てきてしまうので、これを是正するために作られたのが「オフィシャルハンディキャップシステム」です。
オフィシャルとはその名の通り「公式な」という意味で、各国を代表するゴルフ統括団体がコースを査定し、コースごとの難易度を評価することで、ゴルファーの技量を測ることを目的としたハンディキャップの算出が可能になります。
コースの難易度を評価する代表的な方法としてスクラッチプレイヤー(ハンディ0)が10回プレーした場合の平均スコアでコースの難易度を測定する「コースレート」や、スクラッチプレイヤーとボギープレイヤー(ハンディ20前後のアベレージゴルファー)でどれだけスコアの差が出やすいかを基準に適切なハンディキャップを評価する「スロープレート」が使われることが一般的です。
オフィシャルハンディキャップの問題
このように一見緻密とも思えるオフィシャルハンディキャップシステムですが、実はゴルフを統括する団体によってその算出方法や、ハンディキャップに対する解釈が異なるため、同じオフィシャルハンディキャップでも、実力を公正に評価できないという問題がありました。
具体的にはEquitable Stroke Control(ESC = ハンディキャップの公正な算出を目的として、いくつかの非常に多い打数を打ったホールのスコアを上限スコアまで下方修正する仕組み)の導入の有無や、ハンディの修正をどのタイミングで行うか(直近1年でハンディを査定するのか、それとも生涯のスコアで査定するのか)など、やはりその正確性に疑問が出ていました。
こうした問題は、ゴルフのグローバル化や、多様性の促進という観点から、課題視されており、性別、年齢、国籍、嗜好性を問わず、誰にとっても公正であり、且つ算出や取得が容易な制度の導入が検討されていました。
World Handicap System(WHS)
こうした背景もあって、2012年から世界統一のハンディキャップシステムを作ろうという話し合いが始まり、2019年にR&AとUSGAは共同で、2020年から全世界共通のハンディキャップ基準として新しい「ワールドハンディキャップシステム(WHS)」を導入すると発表しました。この仕組みは2022から日本でも導入されています。
ゴルフのハンディキャップは、従来であれば各クラブのハンディキャップ委員会が設定していたため、ゴルフ統括団体に登録されたゴルフ場への所属(メンバーシップの取得)が必要であったり、あるいは18ホールをプレーした5枚のスコアカードが提出であったり、また上限がハンディキャップの36であることなどから、ビギナーにとっては取得のハードルが高く、競技に出場するゴルファーや、上達にコミットするゴルファーなどの、ほんの一部のゴルファーにしか必要性を感じないものでした。
新しいWHSでは、こうした障壁を取り払い、誰でも簡単にハンディキャップを取得する仕組みを採用したことが大きな変更点の一つです。
・9ホールのスコアでもハンディキャップが取得可能
・54ホール分のスコア提出で最初のハンディキャップが取得可能(ただし公式なハンディキャップは20ラウンド経過後に最良の8ラウンドから測定される)
・ハンディキャップインデックス上限は54
またこの制度では、ESCが正式に採用されているため、途中で大叩きしたホールがあっても、それがハンディキャップ査定に反映されることはない等、スロープレーの防止にも対策をとっています。
またシステムによってハンディキャップの更新(再計算)が毎日実施され、翌日には新しいハンディキャップが取得可能であるため、常に参加している全員が平等な条件でハンディを設定して競い合うことができます。
各国協会がハンディキャップの取得を推奨するわけ
このようにして、歴史上初めての世界統一のハンディキャップシステムが導入されたわけですが、なぜこのようなコンセンサスが成されたのでしょうか。
この理由には、ゴルフ産業の発展に、国籍や性別や年齢を問わず、誰もが同時に同じルールで競い合い楽しむことができるという、ゴルフの理想像が挙げられます。
従来のハンディキャップシステムでは、男女が同時に競い合うことができず、使用ティーの変更による距離による難易度の調整程度しかできませんでしたが、WHSでは、その日にプレーするゴルフ場のコースレート、スロープレート、使用するティーを入力することで、WHSインデックスを元にプレー毎に設定されるハンディキャップ「プレーイングハンディキャップ」が付与される仕組みが導入されるなど、例えばプロとアマ、男性と女性、大人と子供、などでも同じフィールドで競技を楽しめる仕組みが導入されています。
また「プレーイングハンディキャップ」を導入することで、その日の自分の目標スコアを設定できるなど、競技ゴルファーから、レクリエーションゴルファーまで、プレーするメンバーやシーンに応じてゴルフが楽しめるようになるなど、ゴルフの理想像に近づく工夫が組み込まれています。
近年では、国籍や性別による入会の制限を撤廃する動きが活発化するなど、ダイバーシティ&インクルージョンが世界のゴルフ産業のコンセンサスになっていますから、こうした動きに歩調を合わせていくことが、日本のゴルフ産業にも求められています。